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小学女の恩返し

翌日。


「はい、どうぞ今日関くん!」


……昼休みが始まった直後に昨日の小学女が教室に現れ、弁当箱らしきものを置いてきた。


「なんだこれ」


「お弁当だよ? 昨日の恩は返すってちゃんと言ったのに忘れちゃって、もうボケちゃったの?」


「ボケてねぇよ。ていうかだ、テメェなんで俺の名前知ってんだ」


昨日、名乗った覚えはねぇってのに。


「歩いてた二年生の中華服風なセーラー服つけた先輩さんに聞いたの。三下のチンピラみたいな人知りませんかって言ったら、今日関レンガに違いないあるナーって言ってたから」


「あのエセチャイナ……!」


早いうちにあの野郎とはケリをつける必要があるみてぇだな……! ……ん?


後ろからなんらかの視線を感じ取る。誰だ、俺を見てるのは。


不快感を感じながら後ろを振り向くとそこには、いつもどおり不快そうな顔をする反川と、驚く黒日々がいた。


「なんだよ、何か言いてぇことあるならいいやがれ」


そう言うと、まず反川が口を開く。


「どんな弱みを握ったのかしら、このチンピラ」


「しばくぞこの性悪女」


コイツの口の悪さは留まることをしらねぇのか。そう思いつつ、黒日々に目線を送る。


「んで、テメェは何が言いたいんだよ」


「言いたいことはいつでもあるが……そうか、レンガには彼女が出来ていたんだな。だから私達とお弁当を食べてくれなかったという訳か。うんうん、納得だ」


「オッケェ、テメェのお花畑脳みそを今からシェイクしてやるから頭貸しやがれ」


「あはは、恥ずかしがることはないぞレンガ? 高校生なら、実に当たり前なことなのだ――にょわーっ!」


俺はイスから立ち上がり、黒日々の頭を掴んで左右上下に振り回した。これで少しはマシになるだろ。


「ったく、バカに小学生に性悪女とどうしようもないの三拍子で俺の周りに集まって来やがって。ほれ、弁当持ってテメェら三人で馴れ合いながら食っとけ」


俺は渡された弁当を小学女に押し付けるように返す。ったく、余計な真似しやがって。


「ええー、せっかく今日関くんのために作ってきたんだよー! 嬉しいと思って作ってきたのにー」


「そうだぞレンガ。せっかく持って来てくれたのに受け取らないのは酷いぞ?」


「チンピラにはありがたみというのがわからないのね」


小学女、黒日々、反川の順に言葉をまくし立ててくる。コイツらうるせぇ……。このままだと俺の昼休みが無くなるし、とっととこっから出るか。


「知るか、そこらの男子にでもくれてやれ。そっから勝手にラブコメでもしてるんだな」


そう言って教室から廊下に出た、瞬間であった。


「今日関ぃぃぃぃっ!」


「ぶほぉっ!?」


むさっくるしい顔が、まるで昨日の再現のように俺の目の前に現れたのだ。


「二度も……同じことしてんじゃねぇぞこのハゲゴリラァ!」


「ぐほぉっ!?」


拳を的上の顔面に叩き込んだ。……おおっ、久々にクリーンヒットするようなこの感じ、やっぱいいもんだ。


俺の拳でよろけた的上、もといハゲは俺を睨みつける。


「何しやがる今日関貴様ぁぁっ……!」


「テメェがむさっくるしい顔で何度も驚かすからだろうがこのハゲェ!」


だが、おかげで内心スカッとしたっつうのは内緒だ。


「ええい、この借りは後に返すがそれよりも……練習部の部室とは一体どこにあるんだ今日関! 昨日はそのせいで部室に着かなかったぞ!」


「自分で探しやがれこのボケ! テメェは幽霊部員としてでも存在してればいいんだよ!」


「なんだと貴様ぁ!」


俺と的上はガンをつけ合う。ちょうどいい、昨日のケンカの続きと行かせてもらおうじゃねぇか!


拳を握り、先制で的上に攻撃を仕掛けようとした時であった。


「練習部?」


と、そんな気の抜けるような声が聞こえた。さっきの小学女の声だ。


「ええ、サクちゃんが作った部活よ。……あら?」


後ろを振り向く、すると的上の方を見ている反川が目を丸くしていた。黒日々と小学女も似た顔をさせている。


「貴方は……確か」


「は、はいっ! 的上ガレキ! 高校一年であり、本日より練習部に入れてもらおうと思っている次第であります!」


改まるように反川に敬礼する的上。それに困惑したような顔を浮かべる反川――否、黒日々とチビ娘も不思議そうな顔をさせている。……やっぱりこいつはなんかおかしい、昨日反川に会った辺りから何かが……はっ、もしかして。


「おい、反川、お前もしかしてこのハゲを洗脳したのか?」


「何を突然愚かしくバカバカしいことを言ってるの今日関レンガ。出来るわけないでしょう」


「……まっ、それもそうか、お前みたいな性悪だけが取り得みたいな女に洗脳なんて凄い真似が出来るわけねぇわな」


「脳を洗う、という意味での洗脳なら私は貴方の腐れた脳みそをちゃんと洗脳してあげたいとは思っているけれどね」


「そりゃテメェの方だ、いっそどっかの誰かに調教されてこい。トップブリーダーとかならお前のそのひねた考えも矯正してくれるだろうし、どうよ」


そう言いあった後、俺は反川とにらみ合う。それを押さえるように割り込んでくる黒日々。


「ま、まあ落ち着いて二人とも。ほら、的上さんが困っているぞ?」


「ハゲなんてほっときゃいいんだよ、入るつったって幽霊部員として入るんだからよ」


「……むう、レンガのツンデレはいつになったら治ってくれるんだ」


「えっ、今日関くんツンデレなんだ! いやー、やっぱりそうかなーって思ってたんだよね!」


いい加減このツンデレって言葉を世界から抹消させたくなってきた……! 今度辞書やなんかで調べてから論破してやろうかこいつらを。


苛立つ気持ち、赤いオーラとなって体からほとばりそうになっていると、反川がおずおずと話し出し始める。


「それで的上……さんですよね? もうサクちゃん……いえ、サクヤには入ると言ったのですか?」


「い、いえ、それはまだ……」


「も、勿論歓迎です! あのレンガと戦って引き分けた実力もありますし、人数が足りない私達にとっては入ってくれるという気持ちだけで十分です!」


言いよどむ的上に敬礼しながら言う黒日々。なんでお前が敬礼してんだよ。


「そ、そうか! ありがとう!」


そう言って、両手で黒日々の手を取る的上。互いにニコニコし合っている。なんだこのほんわか空間は。


肩が下がっていきそうなそんな状況を見ていると、俺のズボンを小学女――確か、火元ショウカが引っ張ってくる。


「ねぇ、今日関くん。今練習部の部員って集まってないの?」


「まあな。けど後一人で作れる。まぁ、そこらのヒマそうな奴でも引っ張って入れる気だ」


「そっか、私も部活入ってなかったら入りたかったなー」


「ほお、テメェ何部なんだよ」


「ボクシング部だよ。人数はそれなりに多いし、中堅の部活みたい。私のファイヤーナックルが火を吹かせそうな部活がボクシング部だったから」


「お前にお似合いの変な技だな」


「褒めないでよ今日関くん。照れちゃうよー」


「皮肉に決まってんだろ小学女」


そう言い返すと、笑顔を返してくる小学女。ったく、こいつも黒日々同様よくわからん。などと思っていると、小学女はどこかへと足を進め始める。


「お弁当は机の上に置いといたからちゃんと食べてね! あと、高戦会で戦えたら、その時はよろしくね!」


そう言って、小学女は去っていった。

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