真っ赤な髪のおんなのこ
……中学一年か小学六年ぐらいに身長の低い、頬に米をつけた赤髪女。そいつが人の隣に座って満足そうに腹を触っていた。……おい、こいつまさか。
俺の視線に気付いた赤髪女。すると赤髪女は言った。
「……出来ちゃった」
「そうか、退学確定だな。俺が今から先生に伝えにいってやらぁ」
「うわわわ! うそだようそっ!」
俺が立ち上がろうとすると、赤髪女は焦って俺の肩を抑える。さて、だ。
「おい小学女、テメェか俺の弁当食ったのは」
「えっ!? い、いやー私じゃないよー、さっきみたよー、サイコキネシスでお弁当の中身だけ飛んでいくのを私みたよー」
顔を背けてそんなことを抜かす小学女。説得力がさっぱり無ぇ。
「ほ、ほんとのほんとだよ? 可愛い私だよ、信じないことは嘘だよ!」
「ほぉ、残念ながら俺からすりゃクソ生意気な妹の容姿と被るんでさっぱり可愛いと思えねぇ訳だが、その辺どう思うよ」
「目が腐ってる」
「言うじゃねぇかこの野郎……!」
思わず拳を強く握る。もうめんどくせぇから殴り飛ばしてやろうかこのクソガキ……!
「じ、じゃあ証拠はあるの? 証拠は?」
「無ぇ。つう訳でもう殴らせろめんどくせえ」
「理不尽極まりない!?」
すると、小学女は焦ったような顔をしたあとに、
「わ、わかったよー! 私、私が食べちゃいました! ごめんなさい!」
勢いよく頭を下げた。けっ、別に頭下げられたからって弁当が戻ってくるわけでもあるまいし。
「ったく、とっとと頭上げろ、さげられてもこっちが困るんだよ。ほれ、弁当代だけで許してやるから金で返せ」
「……実は今日、お金無くて」
「…………ほんといい根性してやがるなお前」
最早怒りを通り越して呆れ始めてきたぞ。丸くなってきたというべきか、これぐらいはあのバカに比べればまだ普通だと思い始めてきたのか。
「あー、だったらもうどっか行け、俺の機嫌が悪くならねぇうちにとっとと消えろ」
「イエイ! やっりぃ! ちょろいぜい!」
こいつ、完全に俺をおちょくってやがるな……!
「というのは冗談としまして、ありがとうございます三下風なお方。このご恩はそのうちに返したいと思うから、期待して待っていてね!」
「テメェはいちいち俺にケンカを売るようなことを言わなきゃいけないとかそんなんかオイ」
誰が三下風だ。売ってんなら買ってやろうかこいつ……と考えて、俺はコイツの制服の襟辺りを見る。バトルバッチ……って、まさかコイツ。
「お前、戦えるのかよ」
「うん、勿論! あっ、自己紹介がまだだったね! 私の名前は火元ショウカ! 驚くことなかれ、炎を扱う能力者なのだぁ!」
「どうでもいい情報ありがとよ」
「どうでもいい!? そんな……これ以上晒せる情報は流石にプライバシーだし……」
「語る必要ねぇよ。だから――」
俺は立ち上がり、小学女を睨みつける。
「俺と戦え。勝ったら弁当代チャラにしてやる」
ちょうどさっきの不完全燃焼感も晴らせるしな。例え雑魚そうな顔をしていようがこの学校じゃ何の基準にもならねぇ。それも炎を操る能力者だぁ? ちょうどいいぜ、電気ウナギの次は燃え女。ここらでそろそろ勝ち星あげとかなきゃなぁ。
「うーん、今は駄目」
「ああ? どうしてだよ」
「おなかいっぱいで動けないし、戦ったらエネルギー使ってしんどくなっちゃうし。さっき戦ったばかりだしで、乗り気じゃないの」
「知るか、戦いやがれ小学女」
「怖い人は強情だなぁ、そんなんじゃあモテないよ?」
「大きなお世話だ。俺に見合う女がいねぇのが悪い」
「モテない人の常套句だよね、それ」
ああ言えばこう言いやがってこの幼児体系が……!
「俺がモテるかモテねぇかなんてどうでもいい! 良いから、戦うか勝負するか決めさせやがれ!」
「なんか同じ意味に聞こえるよそれ。もっと他のお願いとかないの? 例えば……私の身体を触りたい、とか」
「無ぇよ、寝言はもっと発育よくなってから言いやがれ幼児体系」
「うっわぁぁん! セクハラまがいの罵倒なんて最低すぎるよ!」
そう言って両手で顔を塞いで泣き出す小学娘。コイツめんどくせぇ……。
「ったく、わかったよ。もうどうでもいい。勝手にそこで泣いて眠りくさってろ」
ポケットに手を入れ、俺は屋上の扉の方に向かう。あー、食い足りねぇ、黒日々の弁当でもかっぱらってくるか。いや、あんなことを言った手前、おめおめと奴のところに行く訳にはいかねぇ。非常に腹立たしいが、水でも飲んで腹を満たすとすっか。
「絶対に、この恩は返すからねー!」
屋上の扉に手をかけた時、小学女のそんな声が聞こえてきた。信用出来るかボケ。
苛立つ気持ちを抑えながら、俺は屋上から出た。




