青春ドラマチッカーヘッド
売店で焼肉弁当を買った俺は、屋上で風をあびながら優雅に食っていた。飯を食い終わったあと黒日々がうるさそうだがそんなん知らん。
だが、だ。
「なんでテメェがここにいるんだ…………ハゲェ!」
そう、なんか知らんが俺の隣にハゲが座っていた。
「別にいいだろうが、気にするな今日関」
「気にするっつうのこのアホゴリラハゲ! さっきテメェは俺と戦うの止めておいてのうのうとなんでここに座ってんだオラァ!」
「何故か、か……おい今日関、世界ってのは広いよなぁ……」
空を見ながらハゲは語る。……おい、こいつ大丈夫か。本当に頭打って壊れたんじゃないのか? 反川の奴、まずいことしてくれたんじゃないか?
「おいハゲ、お前大丈夫か?」
「当たり前だ、ただ世の中の素晴らしさに気付いただけの話だ」
「よし、病院行けお前」
完全におかしくなってる。もう手の施しようとかないレベルかも知れん。
「なぁ今日関、あの人の名前はなんて言うんだ?」
「あの人ぉ? どの人だよ」
「あの可憐……じ、じゃなく! あの二人の女子の名前だ! 髪を束ねている子と髪の長い素敵な黒髪の女性の二人のだ!」
「ああ、黒日々サクヤと反川シズネだ。反川が髪の長い方で、黒日々が髪を束ねている方だ。ぶっちゃけ可愛らしさなんてあいつらには微塵もねぇよ」
肉をかじる。あー、うめぇ。
「そうか……シズネさんというのか……あの人は……」
遠い目でフェンスの奥を見つめるハゲ、もとい的上。何なんだよコイツは、ケンカ売ってきたと思ったらいきなりケンカしなかったり、とか思ったら俺についてきて、意味わからん。
「おい今日関、お前さっき部室とかなんとか言われてたな」
「おう、それがどうした」
「何部に入ってるんだ、お前は?」
「練習部っつう部活だ。ただしまだ規定人数に達してねぇから部室は無断で使ってるんだけどな」
「……シズネさんも入っているのか」
「おう、アイツはただの数合わせだけどな」
米を食らう。うめぇ。
「そうか、じゃあ俺も入ろう」
「そうか、死ね」
あー、肉がうめぇ。米と肉が合わさりゃ無敵だな飯は。明日はカツの弁当にしよ――
「なぜだぁぁぁっ!!」
「ぶふぅっ!?」
うざったいぐらいの暑苦しい顔が突然俺の目の前に現れた。思わず米を噴出してしまう。
「何故駄目なんだ今日関ぃ!」
「いきなり目の前に出てくるんじゃねぇよこの太陽ハゲ!」
びびらせやがってこの野郎……! なんだ、もしかしてこれはこいつの新しいケンカの売り方なのか?
「つうかなんでいきなり部活入ろうだなんて思ったんだテメェは。テメェも高戦会に興味でも湧いたのか?」
「そ、そうだ。わいた、湧いたから入りたいと思ったんだ俺は」
どっか嘘くせぇな……。まぁ、コイツでも人数あわせにはなるか。最終的に俺以外はどうでもいいしな。
「勝手にしろ。まだ部活するには人数が足りねぇから入部届けも必要ねぇしな、放課後、元忍者部の部室に来ればいい。こなくてもいいけどな」
「そ、そうか、感謝するぞ今日関」
「……お前ほんとに病院行って来た方がいいんじゃねえか?」
態度が変わりすぎてむしろこっちが扱いに困る。
「いいや大丈夫だ。俺は何も問題はない。それにあの髪を束ねた子にまた会えるのは助かった」
「ああ? なんでだよ」
「俺のダチがあの子らに迷惑をかけてしまったようだからな、一度謝っておきたいと思ったんだ」
「ああ、そういやそういうこともあったな。一番迷惑かかったのは俺だけどな」
「お前は別にどうでもいい」
「言うじゃねぇかこのハゲ……!」
変になったと思えばいつも通りと、コイツの心情ってのがさっぱりわからなくて殴りたくなってきやがる……!
そんな風に睨んでいると、ハゲは立ち上がって屋上の入り口の方へと歩いていく。
「それじゃあ、また放課後に来る」
そう言って、的上はドアを開けて去っていった。……ハゲゴリラに性悪女にバカと、メンバーがどうしようもないがこれで後一人にまでなった。団体戦にはあと二人必要だが、個人戦だけなら問題はねぇ。よし、後は適当に誘って心が通ったのだのなんだの黒日々に適当に言い繕えば形だけだが部活は完成する。よし、残りはそこらにいる奴をとっ捕まえる。
まっ、その前に弁当の残りを食いつくし――ない。
……気付かぬうちに俺が全部食ったのか? いいや、そんな訳があるか。特盛りの焼肉弁当だぞ。最低でも五割は残ってたってのに無くなる訳がねぇ。
「もひひゃしたら、シャイコキネシュスののうりょくひゃが食べたのかも――んぐっ、知れないよ!」
「そうか、それなら存分に有り得る話だな……! 誰だ俺の焼肉弁当を食った野郎は! 正直に現れたら半殺しで勘弁――」
……いや、誰だ今の。今話しかけてきた奴は誰だ。
声の聞こえた方向を見る。そこには、
ほっぺたに米をつけた赤髪の女が心底満足そうに座っていた。




