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神社の巫女さん

九尾の狐。

狐巫女とか王道だけどいいよね……

佐原市には、昔ながらの商店街が未だ存在する。

魚屋、八百屋、肉屋。

そういった個人の店主がやっているこじんまりとした、しかし

どこか懐かしく温かい感じのする店が並ぶ商店街。

他の街では郊外の大型スーパーなどに押され、個人商店が

軒並み閉店に追いやられた結果、閑散とした『シャッター通り』になってしまう

商店街も数多くあるが、ここ佐原市の商店街はさほど広くはない通りに

下校途中の学生、近所の主婦、営業中のサボリのサラリーマンなど

雑多な人で溢れ、活気に満ちている。


仁もその中の一人―――本日の夕食の材料の買い出しに来ていた。

両親が長期出張に出かけている都合上、当然食事の用意は自分でしなければならない。

竜子は両親がいなくなった直後から夕食も自分が作る、と言い張ったが

龍ノ宮家での団欒も必要だろうし、そこまで頼るのも情けないということで

断らせてもらった。

本当は、朝食は食べなくてもいいし、昼もパンや弁当を買って適当に済ませるつもりだから

いらないとは行ったのだが、竜子曰く


「3食きちっと食べなさい!朝抜くとか許さないんだから!」


と、朝と昼は半ば押し切られる形で竜子が作る事になっていた。

竜子は竜子で、「男を落とすには胃袋がてっとり早い」との母の教えを

忠実に実行しているだけという裏話もあったわけだが。



何はともあれ、食材を買わねば冷蔵庫の中身は空っぽである。

今日は何を食べようか、などと考えつつ商店街の入口のアーチをくぐると

見知った顔とばったり出くわした。


「あら、橘君?」

「あ、稲荷さん」


今では普段着にする人はあまり見かけない和服を着こなす金色の髪に、金の瞳の女性。

その女性には、柔らかかつふさふさで頬ずりしたくなる狐のような耳と、複数の尻尾がついていた。


狐塚キツネヅカ稲荷イナリ

近所にある狐塚神社の神職である。


「なんだかお久しぶりです。なかなか顔を出せなくてすいません」

「本当ですよ。便りが無いのは元気な証拠といいますけど、たまには神社に遊びにきてください」


狐塚神社は、少し高い丘の上にある。

境内の前にある鳥居まで、九十九ある石段を登らなければならない。

しかし境内は広く、小学生などの格好の遊び場になっているため、仁も小さい頃は竜子や舞とよく狐塚神社の

境内で一緒に遊んだ。

稲荷は子供が好きなため、境内に遊びに来た子供たちに良くお茶やたまにはアイスなどを振る舞っている。

そのため、近所の子供や学生の一部とは仲が良いのである。


「稲荷さんも買い物ですか?」

「そうそう、今日のお夕飯のお買い物をすっかり忘れてしまっていて……」

「じゃ、俺と一緒ですね。せっかくだから一緒に回りましょうか」

「橘くんもですか。じゃあ、そうしましょうか」




連れ立って商店街を歩くと、稲荷さんは色々な店の店主から良く声を掛けられる。


「お、稲荷ちゃん今日は何だい?」

「まだ決めてないんですよね……なにかあります?」

「今日はいい肉入ってるよ!」

「稲荷ちゃん魚はどうだい?カツオとか新鮮なのあるよ!」

「魚屋も肉屋も引っ込んでろ!稲荷ちゃん、みずみずしいトマトとかどうだい!?」

「あらあらあら、悩んじゃいますね……」


稲荷は、商店街の親父さんたちに大人気であった。

見た目も良く雰囲気も柔らかい稲荷だ、商店街の親父さんたちに娘のように思われているのだろうか。




稲荷は美人なのは確かだ。それは万人が認めるところであろう。

だがしかし、稲荷は謎のある美人でもある。

仁の記憶の限り、稲荷さんの容姿は小学生のころからずっと変わっていないのである。

もっと不思議なのはどこかで商店街の親父達が「しかし稲荷ちゃんは俺らが子供のころから

変わらず美人だよなあ」と会話しているのを耳にしたことがある。


―――いったい稲荷さんはいくつなのだろう。亜人によっては長命で300歳を生きるのもいるという話だから

おかしくはないのかもしれないが、50も超えている親父さんたちが子供のころから

今の容姿だとしたら少なくともろくzy


「橘くんは今日のお夕飯何にする予定―――橘くん?」


気づけば稲荷は笑顔で仁をじっと見つめていた。ただし目は笑っていない。


「――何か良くないことを考えていませんか?」

「いえそんなめっそうもない」

「小さい頃に私が教えたこと忘れているようですね?」

「じょ、女性に優しく、誠実に!」


稲荷は子供が好きなので、境内で遊ぶ子供たちとよく会話もしていた。

子供たちがいたずらをしても、滅多なことでは怒らないが

子供たちがやることで、稲荷が怒り、長い長いお説教をすることがあった。


子供達――特に男の子が、女の子を泣かせたり、不誠実な行いをした時である。


仁も竜子を相手にそういうことをしたことがあった。

竜子と境内で遊ぶ約束をしていたが、すっぽかして他の男友達とサッカーをしにいったことがあった。

仁としてはいつも竜子と遊んでいるし、たまにはいいだろうと軽い気持ちでやったことであるが

境内でまちぼうけを食らった竜子から話を聞いた稲荷は、翌日に仁を

捕まえて、神社でこんこんと説教を4時間ほど行ったのである。


そんな経緯もあり、仁は稲荷は怒らせてはいけない、逆らえない女性であった。


「よろしい、では、良くないことを考えた橘くんには罰を受けてもらいます」

「いえだからそんな良くないことなんて考えてな――」

「罰を・受けて・もらいます」

「……はい」


一応の抗議はしてみたものの、受け入れられるわけもなく。

説教にしても長くないといいなあと、一人思う。


「じゃあ、これ、よろしくお願いしますね」


はい、と渡されるビニール袋。

中身はじゃがいも、玉ねぎ、キャベツ、挽肉と醤油ボトルなどの調味料。


「あと、これもです」


ドサリと渡される10kgの米袋。


「お醤油やお米も切れてるの忘れてたんでした。神社までお願いしますね?」


要するに荷物持ちである。両手にかかるずっしりとした重み。

これを持ってあの99段の石段を登るのかと、うなだれる。


「運んだら、ご褒美にお夕飯ごちそうして上げますから。今日はコロッケですよ。

労働のあとはきっと美味しいです。頑張れ男の子」



明日筋肉痛にならないといいなあと、ため息を一つついたのであった。

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