クラスメイト
リザードマン、熊、マーメイド、ケンタウロス。
ひと通りキャラは投下して行きたい。
週3~4回くらいの更新を目標にしています
昇降口で後輩二人と別れ、教室へ向かう。
3学年ある佐原学園は学年ごとに階層がわかれており、2階に3年生、3階に2年生、
4階に1年生の教室が配置されている。
2階の一番西側の教室、2-A。
そこが仁と竜子の所属するクラスである。
おはよー、おはようと自分の机へ向かう途中にクラスメイトの何人かと
挨拶をかわし、机へとたどり着く。
机の横のフックに鞄を掛け、どかりと席に座りひとごこち。
ちらりと少し離れた竜子の席を見ると、向こうも席につき
鞄から教材を出して準備をしている。
視線に気づいたのか、ふ、とこちらに顔をむけ、にこりと微笑まれた。
なんだか見透かされているような気がして、少しのバツの悪さと恥ずかしを感じ
目を逸らしてしまった。最近こんなことが多い。
「やあ仁殿。今日はいつもより若干遅かったでござるな」
「おはよう橘君。何かあったのかい?」
後ろから声をかけられ振り向くと、いつの間にか友人が二人席の近くに来ていた。
「おはよう、竜一、熊さん。いや特に何もないんだけど」
石倉竜一と大熊五郎である。
竜一は二足歩行のトカゲ……トカゲというと余りいい顔をしないのだが、見た目はまさにトカゲである。
リザードマンという種族で、全身鱗で覆われており、顔も人間とは違う容貌である。
「まあ、竜子殿絡みの何かがあったのでござろうなあ」
この時代がかったインチキ侍のような喋りかたは、竜一の癖、というかこだわりである。
テレビで見た時代劇をきっかけに、過去の日本に存在していた侍にいたく感銘を受け
自らも侍のような生き方をするべきだ!とそのころから口調もこうなってしまった。
「二人だいたい一緒だからねえ」
五郎は熊の獣人で、見た目もそのまま熊である。
動物の熊との違いは指が若干長く、細かい作業も可能になっていることくらいで体、顔にいたるまで
茶色の固めの毛がびっしりと生えている。
しかも身長は2mにもなり、体重は250kg。全身筋肉の塊である。
その威圧感たるや半端ではないが、本人はいたって温厚な性格をしており
趣味は土いじりと人畜無害。クラスメイトやよく知る友人などからは
ゴローさん、熊さんなどとしたしげに呼ばれる気のいい男なのである。
「そんなに常に一緒にいるわけじゃないって」
「朝食作ってもらって、一緒に登校してきて、同じクラスで、下校も大体一緒で、家が隣どうしなのに?」
「無理があるねえ」
朝食は半ば竜子が勝手にやっていることだし(助かってはいるが)、登校もわざわざ別に行くのは逆に不自然だし……
そんな言い訳を言おうとするが、無駄っぽいのでやめた。
どうもこいつら含めクラスメイトはみんな仁と竜子が付き合っていると思っているようだが
そんな関係ではないのだ。
「まあ、確かに一緒にいるのは長いかもしれないけど、別にまだ付き合ってるわけじゃないからな」
「ほう、まだでござるか」
「気にはしてるんだねえ」
にやにやと笑う友人二人。
そんな会話を横で聞いていたクラスメイトからも「てめー龍ノ宮捕まえてなに偉そうに」「何が不満だこのやろう!」
などと冷やかされるが、これ以上何か言うと墓穴を掘り続けるだけになりそうなので仁は全スルーすることに決めた。
同時刻、竜子の席にも二人、席を囲む人物がいた。
「おはようございます、竜子さん」
「おはようタツ。今日も可愛いねえ」
「おはよー、詩織、恭子。恭子は胸を揉もうとしない!」
魚住詩織。このクラスの委員長である。
人間の耳の位置にあるヒレをぴこぴこと動かし、温和そうな笑みを浮べている。
詩織はマーメイド、人魚族である。
人魚族の本来の姿は下半身は魚のような形なのだが
下半身が乾いている状態では、人間と同じような脚に変化する体質がある。
そのため、詩織も他の人同様に陸上で生活することができるのである。
女性らしい丸みを帯びた、少し肉付きの良い体型は一部の男子生徒から密かに
抱きしめたい女子NO1の座を獲得している。本人は知る由も無いが。
「いいじゃないか胸くらい。女の子同士のスキンシップと言うやつじゃないか」
わきわきとスキンシップというには若干卑猥な手つきで竜子に迫るのは
馬渡恭子。下半身が馬のケンタウロス族の少女だ。
切れ長の目は知性と意志の強さを感じさせ、シャープでスラリとした体型とマッチして
全体的にクールで涼しげな印象を与える少女だが、性格には若干の難がある。
「あんたのはスキンシップの範囲超えそうだし!」
「同じ性別であればどこまでいってもスキンシップとして許されるのではないかなあ?」
恭子は女の子が大好きであった。
正確に言うなら女の子『も』イケてしまう思考の持ち主であった。
いわゆる、自分はバイセクシャルであると公言してしまうような性格なのである。
が、癖の強い亜人が集まるこの学校。そんな性癖もそういうこともあるよねと
すっかり受け入れられてしまっていた。
「そういうのは詩織にやんなさい、詩織に。多分もみ心地いいわよ」
「ふむ………その提案乗った(むにむに)おお、なんとも言えないもみ心地……」
「何でお腹揉むんですか恭子ちゃん!?」
素早く詩織の後ろに回り込んだ恭子は、詩織のお腹をつまみ、揉み始める。
「そのへんにしときなさいよー、詩織顔真っ赤」
「この表情もそそるものがあるな…」
「恭子ちゃんはもうちょっと自重したほうがいいと思います……」
真っ赤になりながら若干の涙目で恭子に抗議する詩織。
気崩れた制服を直し、一呼吸。
「さて、今日も橘と一緒に来たのかい?」
「当然。チャンスは全部活かすわよ」
「熱心ですねえ……」
竜子は仁に恋をしている。
それも幼馴染としての十数年、つもりに積もった恋ごころである。
好きになった明確なきっかけはなかった。いつの間にか好きということを
自覚したのだ。
自分と仁は、小さい頃から一緒にいたし、これからも一緒にいるべきだと本気で思っている。
だから、これからも一緒にいるために、仁にアプローチする。
「しかし橘は相変わらずはっきりしないな」
「一緒にいすぎて竜子ちゃんがそばにいるのが普通になっちゃってるんですかね?」
「あいつは私の気持ちには気づいてるだろうけど、たぶん自分の気持ちがはっきりしてないんでしょうね」
竜子は仁が好きだ。
恋人同士になりたいと思っている。
だが、こちらから告白はしてやらない。
ご飯を作ったり、腕を絡めたり、スキンシップしたり、アプローチはする。
こちらからの好意はどんなにわかりやすく伝えても、はっきりとは口に出しはしない。
付き合うとなれば、やはり男のほうから好きだと伝えられたいのだ。
竜子は意外と乙女思考なのであった。
「しかし、橘の周りは意外に女性が多いからな。いいのか?」
「前に聞いた話だと、たしか隣の女子大生さんとか、バイト先の上司さんとか……後輩のハーピーの子もいましたね?」
仁の周りにはなぜか女性が多い。同じ幼馴染の幸も仁を好きなのは見て取れる。
仁の良さは自分だけが知っていればいいのに、とは思うがこれは仕方がない。
しかし最後に仁の隣にいるのは自分であると竜子は確信していた。
「ふふふ、そんなの今更よ。絶対に好きって言わせてやるんだから……」
「幼馴染の情念極まれりだなあ。ま、応援はしているぞ」
乙女の情熱を燃やしつつ、決意を新たにする竜子。
恋する乙女は一直線。そのつぶやきは、声は小さくも龍の咆哮のようであった。
「……!」
乙女の意志を感じてか、よくわからぬ寒気を感じる仁であった。
ルビ修正
2012/10/17 誤字修正
2012/11/10 誤字修正