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ラミア式マッサージ

最近、休日のたびに仁の家に入り浸っていた。


お目当ては、仁が最近購入したロボットアクションゲームだ。

長く続いているシリーズの最新作で、腕や頭、胴体や武器などのパーツを自由に組み合わせて

自分のロボットを作り上げ、それを操作し戦う。

数多くのパーツの組み合わせによる自由度の高さや、美麗なグラフィック、手応えのある難易度などから

万人向けとは言えないが、コアなファンがついているゲームだ。


オフの日はもっぱら家でDVDの鑑賞、溜まっている本の消化など

とことんインドア趣味の葵である。ゲームもそんな中の一つだ。


勿論、社会人で収入のある葵である。

最新機種のゲームも自宅にはある。

それなのに何故わざわざ仁の家でゲームをするのかというと、同居している雪乃が関係している。

葵の妹である雪乃は、葵がだらけてゲームばかりしているとお小言を言うのだ。

休日なんだから好きにさせて欲しいものだが、少しは外にでたほうがいいとか

もっと家でもちゃんとした服を着ろだとか言われるので葵としては少し勘弁してほしいところだった。

空調の効いた部屋で、好きな飲物とお菓子なんかを用意しつつ

家で優雅にラクなタンクトップ姿でのんべんだらりとするのが至高なのだ。


そう以前、雪乃に力説したことのある葵であったが、呆れられただけだった。

そのため、雪乃の小言のとどかない仁の家でゆったりとゲームを楽しんでいるのであった。





仁はゲームに興じる葵を横目で見やる。

葵はいつも通りの休日スタイルだった。

すなわち、薄手でゆったりめのタンクトップ一枚。

あまつさえそのタンクトップはお気に入りなのか、大分着古されているようで、

首元がヨレヨレで伸びきっている。

そんな服装の葵はうつ伏せの姿勢で、肘を立てた状態でゲームをしている。


白熱しているのか、顔はモニターを注視したまま、激しい指先の操作ともに体が揺れる。

体が揺れるたびに、むに、とソファーの座面に押しつぶされたり、浮いたりして

葵の形の良い胸が柔らかそうに変形していく。

さらにタンクトップの片側の肩紐が、ずりおちていた。

もう谷間は完全に見えている。


(ってか葵さん、もしかしてブラつけてないのでは)


むき出しになっている葵の健康的な肌色が眩しい肩には、下着の肩紐が見えない。

もしかしたら肩紐がないタイプなのかもしれないが、あれだけ薄手のタンクトップで

背中にも下着のラインがでないというのもおかしい。


そんな考えが頭をよぎりつつも、タンクップの肩紐は更にずれる。

本人は気づいていないのか、直すそぶりも無い。

このままでは谷間どころかその先、見えてはいけないところまで見えてしまいそうである。

後少し、もうちょい動けば……と心のなかで念力を送りつつ、胸元を横目で注視する。


もう見えそう!というところで、仁は気づいた。


いつのまにかゲームの音が消えている。


血の気が引いていくのを感じつつ、葵の胸元に注視していた視線を上げると

葵がこちらをじっと見ていた。

顔は面白いおもちゃを見つけたような満面の笑みだった。


「ひ・と・し・く~ん」

「は、はい」


甘ったるく、それでいて何よりも楽しそうな声で名前を呼ばれ、冷や汗がどっと出てきた。

もしかしたらバレてないことを願いつつ、声に応える。


「楽しめた?」

「な、何をでしょうか」

「見えそうで見えないチラリズム」


当たり前だが完全にバレていた。

男の子だものしょうがないのである。

スタイルがよくて美人の女性の胸元が見えそうなら見てしまうに決まっている。

自分は悪くない、仁はそう自己弁護していた。もちろん、口に出しては言えないが。


「何のことやらさっぱりわかりませんね?」

「仁は意外とむっつりだよねぇ……雪乃に抱き潰されるときもやめろって口ではいうけど顔は満更じゃないし」


にまにまと悪い笑みを浮かべながら、タンクトップの襟元を指で引っ張る葵。

先端は仁に絶対に見えないように、しかしギリギリのラインまでは見える絶妙の力加減である。


「おねーさんお腹すいたからお昼ごはんが食べたいなー?」

「……なにかリクエストはありますか?」

「スパゲッティがいいな」

「わかりましたよ!だからちゃんと着崩れ直してください!」


葵は最初から胸元を見られているのはわかっていた。

肩紐を直さなかったのもわざとだ。

男のチラ見は女のガン見。そういうことである。





リクエストどおりにベーコンとトマトソースのスパゲッティを作り、二人で食べた。

出来としては合格点をいただけたようである。

食器もきちんと洗い、片付けをすませたあとソファーに戻る。


先ほどのやり取りで一気に疲れがでた。

肩と首をほぐすように腕を回し、首をコキコキとほぐしてからソファーに戻る。


「何、若いのに肩でも凝ってるの?」

「こってるってほどじゃないですけど、最近バイト先でパソコンの前に座りっぱなしが多いので」


最近、バイト先ではデータ入力の仕事が多い。

作成中のシステムがテストの段階に入っており、テストデータを指示通り入力するのは仁に任されていた。

4時間以上も机の前でマウスとキーボードの入力である。

椅子に座っての仕事なので、倉庫整理などのような肉体的な疲労は皆無だが

ずっと同じ姿勢でいるため非常に体が固まる。

特に首、肩、背中に集中してコリが溜まる。これは若いとかは関係ないものだった。


「じゃあ、おねーさんがマッサージしてあげましょうか」


葵が突然そんなことを言い出した。

葵ならむしろ逆に「大変ね、それはそうと私もこってるからマッサージして」といいそうなものだが

どういう風の吹き回しだろうか。


「それほどこってるわけでもないので大丈夫です」

「何遠慮してんのよ。私、マッサージ得意なんだから」

「正直言うと、嫌な予感がするので遠慮しておきます」

「親切心しかないってのに失礼ね!いいわ、仁の答えなんてどうでもいいし」


葵としては裏もなく、単純に可愛い弟分をたまに労ってあげるのもいいかと思っただけなのだが。

問答無用と言わんばかりに葵の尻尾で全身くまなく巻きつかれる。

足元から順に、胴体と来て、最後に首に尻尾の先がしゅるりと巻き付いた。

キツくはないが、身動きは取れない状態だ。


「マッサージですよね葵さん?」


蛇の巻きつく力は以外に強い。

アナコンダなどはワニを締め付けて窒息させたり、骨をおることもできる。

ラミア種は大きさで言えばアナコンダ以上だ。

もし蛇と同様の力を持っているとすれば人間の骨くらい容易いだろう。

もちろん、葵がそんなことをするわけがないのはわかりきってはいるが、恐怖心はどうしても出てしまう。


「葵さん命名ラミア式マッサージ。じゃあやるわよー」


ぎゅ、蛇体が少し動くと仁は体に締めつけ感を感じた。

しかし、苦しさは感じない。

葵は器用に尻尾を操作し、腰のあたりから首まで、登るように締め付けの強い部分が変えていく。

締め付けられた部分の筋肉はその作用で伸縮される。

その結果、あたかも全身に対応したマッサージチェアに座っているような感覚だった。


「うおー……これは……」


正直とても気持ちがいい。お金を払ってもいいレベルだと思った。

すこし硬い鱗も、いいマッサージ効果を出している。


「お客様、重点的にして欲しいところはありますか?」

「肩甲骨の間あたりを」

「畏まりました♪」


リクエストを告げると、そのとおりにピンポイントでほぐしてくれる。

どうやったら単純な巻きつきでそんな力加減ができるのか、不明だがそんな

些細なことはどうでも良くなる気持ちよさだった。


至福の時間を十数分ほど堪能したあと、おもむろに葵は告げた。


「コリはほぐれたみたいだし、第二コース行くわね」


第二コース?と聞こうとしたが、気持ちいいならなんでもいいかと任せることにした。


「じゃあいくわよ、ちょっと覚悟してね……えいっ」


覚悟ってどういう、と聞く間もなく。


ごりっ


何か変な音が自分の体からしたかと思うと一瞬遅れてとんでもない痛みが仁を襲った。

いままでとは異なる強い力で全身を雑巾を絞るようにねじられていた。

さきほどの音は自分の腰骨から発せられていたものであった。


「ぅごががが」


痛みの余り声が漏れるが言葉になっていない。

先ほどのマッサージの気持ちよさを帳消しにして有り余るほどの痛みだった。


「うーん若いのに結構ズレてるわねえ……猫背とかなんじゃないの仁」


ぎゅりっ、と今度は逆方向にねじられる。

同様の痛みが仁を襲う。すでに声も出ない。


「腰と、背中と、肩と、首っ」


言葉のたびに腰が捻られ、背中が圧迫され、肩が締められ、首がひねられる。

ごきごきと骨がきしみ、強制的に正しい形に戻されていく。

しかし現在それを仁は実感することはできなく、ただ文字通り骨の芯からの痛みを感じるだけであった。


これこそ第二コース。

『葵さん命名ラミア式整体術』であった。



すべてが終わって30分後。

ようやく痛みから復帰した仁は、体のコリがすっかりとれていることに気づく。

体の芯から熱がでてくるように、ポカポカとして温かい。ひどく快調だ。

しかし。


「確かに効き目はすごい」

「効くでしょ~?雪乃にもやってあげるけど、あの子も泣いて喜ぶのよね!」


それは本当に喜んでいるのか疑問だったが、聞かないことにしておいた。



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