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最終話 雑草

 風が王宮の回廊を抜けていく。


 瓦礫に触れ、

 破れた幕を揺らし、

 空になった燭台を鳴らす。


 かつて人の熱で満ちていた場所は、

 いま、乾いた冷気の通り道になっていた。


 列が進む。


 足音は整っている。

 靴底が石を打つたびに、粉塵が静かに舞う。


 先頭に立つ女は、顔を上げていた。


 誰が見ても、完璧だった。


 背筋の角度。

 顎の高さ。

 視線の静けさ。


 白い喉元に、細い傷が走っている。


 刃で刻んだ痕。


 痛みはもうない。

 ただ、勲章のように残っている。


 アンネローゼ。


 誰もがそう呼ぶ。


 疑う者はいない。


 彼女自身も、疑わない。


 荒れた庭を横切るとき、風に噂が混じる。


 幽閉された王子が夜ごとに壁を叩くという話。

 聖女だった女が修道院の裏で笑い続けているという話。


 どちらも遠い。


 意味を持たない音の粒。


 足は止まらない。


 価値のないものは、振り返らない。


 儀式の間に入る。


 天井は高く、空気は冷たい。

 香の匂いも薄くなっている。


 冠が運ばれてくる。


 家督の証。

 あるいは、王妃の座への階段。


 どちらでもよかった。


 差し出された重さを、そのまま受け取る。


 肩に乗る布。

 金属の感触。

 静かな拍手。


 音は遠くで起きているように聞こえる。


 やがて控えの間に通される。


 侍女たちが支度を整える。


 髪を結い直し、衣の皺を伸ばし、香を焚く。


 鏡が置かれている。


 アンネローゼはそれを見る。


 そこに映るのは、非の打ち所のない令嬢。


 均整の取れた顔。

 冷えた瞳。

 白い喉の傷。


 どこにも隙がない。


 だが、思い出せない。


 もっと濁った輪郭。

 泥の匂い。

 笑い方。


 それらはもう、瞳の奥の奥に沈んでいる。


 呼び起こそうとも思わない。


 必要がないからだ。


 扉の外に出ると、二人の男が立っていた。


 コンラッド。


 セドリック。


 どちらも言葉を発しない。


 風だけが三人の間を通る。


 視線が一度だけ交わる。


 契約の確認のように。


 それで十分だった。


 列が再び動き出す。


 階段を上る。


 石が靴の下で冷たく鳴る。


 高い窓から灰色の光が差し込む。


 外に庭が見える。


 あの庭。


 灰を撒いた場所。


 風に削られ、土の色がまだらに変わっている。


 アンネローゼは立ち止まる。


 誰も制止しない。


 彼女は遠くを見下ろしたまま、口を開く。


 「――さようなら」


 それは名ではない。


 祈りでもない。


 ただ、空虚な世界への短い別れ。


 列は進む。


 白い衣が角を曲がり、姿が消える。


 後には火鉢だけが残る。


 炭はほとんど燃え尽きている。


 薄い煙が空へ逃げていく。


 庭の隅で、一本の草が揺れる。


 細い茎。


 小さな花。


 名もない雑草。


 誰も見向きもしないまま、

 冬の風に耐えていた。



『悪役令嬢と断罪され毒殺されたお嬢様の仇を、側付きメイドの私が王家もろとも滅ぼします。』

最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございました!


お嬢様の無念を晴らすため、すべてを燃やし尽くしたアメリアの復讐劇、いかがでしたでしょうか。

執筆中、皆様のアクセスや日々の応援が、何よりの支えであり原動力でした。


【最後に、読者の皆様へ大切なお願いです】


もし「アメリアの復讐劇にゾクゾクした」「セドリックやコンラッドとの関係性の結末を見届けられてよかった」「面白かった!」と思っていただけましたら、作品の完結記念に、ぜひ下の**【ブックマーク登録】や、【評価の☆☆☆☆☆(星)】**をタップして応援していただけると非常に嬉しいです!


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改めまして、最後までアメリアの旅路を一緒に見守ってくださり、本当にありがとうございました。また次の物語でお会いしましょう!

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