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ダークフレイム調理人   作者: 伏見


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6.焼き鳥のタレと冷蔵庫

あまり大きく動かない回です。

ついに冷蔵庫を手に入れたので扇くん的にはハッピー回

扇は圧迫されるような苦しさに目を覚ました。窓の方に目を向けるとすでに日が昇っていた。左右から体を挟む何かに気を取られる。


(ぐっ苦しい……)


程なくして、その正体がフィルとタカラの胸だということに気が付いた。人によっては喜ばしいことだが、そんなことよりも圧迫されて胸が苦しい。それに目の前にいるのはタカラなので、恥ずかしさに一刻も早く離れたかった。


「うーんおはよぉ、あれ扇君なんでこんなとこにいるの?……あ!エッチ!」

「はぁ~おはよう。何だよ扇朝からやるなぁ」


(冗談じゃない!濡れ衣だ)

勝手に布団に入ってきたのはフィルの方だ。分かった上で冗談を言っているのだろうが、この光景が第三者に見られようならたまったもんじゃない。扇は間をかいくぐり、連れ戻されないよう布団から素早く飛び起きた。


「あーん残念!朝から絆を深めようと思ったのに」

「な・に・が絆だ!軽いセクハラじゃないか!」

「……何セクハラって?そんなことよりお腹減った!またおいしい料理作ってよ!それに今日はみんなで出かけるし早く準備しよ」 


フィルが調子に乗って朝食をねだる。今日は城下へ連れて行ってもらう予定だ。ほとんど食材は使ってしまったが、白米はストックしてある。残った野菜で簡単にタレを作ればおかずになるだろう。今日の朝食の算段は出来た。


 とはいえ、これから先この二人と行動することを考えるとさらに食材が必要になるな。そんなことを考えながら扇は身支度を始めた。


朝食を済ませ、外出の準備が整うと庭の中央に集合する。

スガイに馬車を頼もうとして連絡用の数珠に顔を近づけていると、フィルから声がかかった。


「もっと私に寄って寄って!ちゃんと寄らないと、どっか欠けたまま移動することになるよ!」

「え何するの?」

「何って、城下に行くんでしょ」


ここから城下へ行くには馬車を呼ぶ必要がある。それとも何か別の方法でもあるのだろうか、フィルの呼びかけに疑問を持ちつつもそっと近づく。

言われるがまま、3人の肩が触れあう距離まで身を寄せ合うと、フィルが大きく声を上げた。


「ちゃんと掴まっててね!【空間転移】(テレポート)


その瞬間フィルを中心にして、三人の足元に円陣が広がっていく。

円陣から光が出てきたと思うと、瞬く間に3人を包み込んだ。

光はだんだん強さを増していき、ついには周囲が把握できないほど白くなる。

まぶしさに目を覆うといつの間にか、見慣れぬ場所に立っていた。


「無事到着!大丈夫?転移酔いしてない?」


突如として変わった光景に、理解が追いつかなかった。


「なん、ともないけど。ここどこ?」

「もちろん桃源国だよ。繋がったのは路地裏のポータルかな」

                               

城下町のどこかの路地裏。輸入食品店や魔法道具屋などと看板にはかれており、表通りでは見かけない店がちらほら見える。


「これはフィルの魔法?」 

「そうだよ!【空間転移】(テレポート)。行った事がある場所にポータルを結んであれば、いつでもそこに行けるの。距離と人数で魔力消費が変わってくるけどね。一応パパの【鑑定】(ウォッチング)スキルもちょっとだけ引き継いでるんだけど、相手によっては全然使い物にならないの。だからこっちがメインかな」


猫型ロボットもびっくりだろう。これがあれば馬車を呼ばずとも市場に行ける。付与された能力は、こっちの魔法だったら良かったのに。


「じゃあ私家に戻ってパパに伝えてくるね。扇君とタカラはその間買い物しててよ。後で迎えに来るから!」

「待ち合わせはここでいいか」

「うん!いいよ」


落ち合う約束を交わすと、各自分かれて行動に移る。

扇は買い出しに向かうため、タカラの案内で市場に向かう。


「便利だよなあの能力。国外は難しいけど、移動にも戦闘にも

役に立つ」

「確かに羨ましいな。外に住んでると、こっちになかなかこれないし」

「ところで今日の目的は?」

「今週分の食材だよ。今まで使ったものを一通り買ってみるつもり。おいしい食材あったら教えてよ、そんな高くないやつね。」

「俺、料理詳しくないんだけどな」


国から支給された資金は金貨10枚と銀貨50枚。銀貨10枚で金貨1枚分、ざっくり換算すると金貨1枚で1週間分の食費がまかなえる。スガイに頼めばある程度は協力してくれるので、衣食住には困らず、少しは貯金に回せる計算だ。今日は冷蔵庫の代わりも探してみて、資金が足りれば購入したい。


突き当たりを横に曲がると、早速市場にでた。

市場に入った瞬間、どこからか甘い匂いが漂ってきた。


「扇、ちょっといいか?」

「どうした?」

「朝食食べたけどさ、まだ腹減ってて。あれ食べてもいいか?」

「え、まだはいるの。しかもグランボアの串焼き?」

「お願いだよ~」

「しょうがないな、俺も味見したいからちょっとくれ」

「じゃあ半分こな!」


グランボアは豚型の大型モンスターで、肉が分厚く、油はサッパリしていてステーキ向きだ。串焼きといっても一本で腹が満たされる。そんなものがまだ入るのか。タカラの胃袋に驚きながら二人は屋台に向かった


「串焼き1つお願いします」

「ん、まいど。1つ銀貨20枚ちょうだいネ」


店主は若い女性だ。鬼人だろうか。黒い髪を左右に角のように束ねていておしゃれな髪型をしていた。身なりに気を遣っているのだろう。この国の女性はモデルのように綺麗な人もいて、さらには角や獣耳が着いていたりと、大分フェチズムをくすぐってくる。


いやそれは置いておいて、今なんと言った。提示された額に扇は驚く。容姿は可愛らしいが、言っていることが強欲だ。店主に聞き返す。


「値段高すぎないか?確かにグランボアの狩猟は大変だけど、見かけない値段だよ」

「ウチのはタレが違うのですヨ。」

「これなら銀貨1枚だな。高くても銀貨2枚だろ」

「そうこうイチャモンつけられても困りマス。味は保証しますし、作ってしまったのだからちゃんと払いなサイ。」

「あんだと~?」

「タカラ待て。どうぞ、代金払います。さぞ美味しいんでしょう」

「フフン」


仕方が無いので金を払って肉を受け取る。試しに一食べてみると味は美味い。タレはニンニクが効いてしっかりしているが、サッパリとした甘さがあり肉と良くなじんでいる。しかし肝心の肉が気になった。


「おいしいけど、肉がパサパサしてる。焼きすぎなんじゃないか」

「確かに弾力が無くて堅いかもな」

「!」

「それにタレに油が染みててモッタリしてる。量が多い分、食べてる内に飽きてきそうだ」

「そんなことはないはずです。ちゃんと強火で焼いて、短時間で一気においしさを閉じ込めてますから。タレも食材を厳選して……」

「それが原因だ」

「はぁ?」

「豚肉は牛や鶏のももに比べて基本的に脂肪が少ない。加熱のしすぎで水分が抜けてパサパサになるんだ。強火で焼くのはあんまり適してないかな。事前に下処理とかはしてる?」

「なんと文句ですカ。……焼く前にハンマーで叩いて、厚さを均一にしてマス。それに切ってから焼いているので、強火で焼いても全体に熱は通ってるはずデスヨ」

「屋台だから仕方ないけど、一気に焼きたいなら酒とか果物につけておくのをお勧めするよ。果物ならタレにも使ってるでしょ?ニンニクとショウガの味もするけど、甘さがサッパリしてる。確かにタレはちゃんと美味しいね」

「よく分かりましたネ。企業秘密なので詳しくは言えませんが一部果実を使っておりマス。……そんなに言うなら、あなたの意見少しは参考にさせていただきまショウ。ちなみに焼くなら弱火が良いのですカ?」

「最初は中火で弱火に落としていくのがベスト」


睨み合う二人の間に見えない火花が散っていたが、店主はあっさりと扇のアドバイスに耳を傾けた。


「名も無き国民よ、アドバイスをいただいたのでこちら差し上げまス」

「ああありがとう?」

「気が向いたらまた来てくだサイ。次は安くなってるかもしれまセン」


店主は折りたたまれた小さな紙を扇に渡す。広げてみると秘伝のタレのレシピのようだ。銀貨25枚は痛手だがこれなら割に合う。頑なに教えないと行っていたが、扇のアドバイスに価値を見いだしたのだろう。次回以降はさらに美味しくなっているはずだ。また来よう。


店を後にして二人は市場へ戻り、食材を補充し始める。タカラの勧める食材はほぼほぼ肉だったが、種類による柔らかさの違いなど詳しく知ることは出来た。


 途中、冷蔵庫の代わりを探して、家具屋や雑貨屋に立ち寄ってみる。この国では灯りは提灯を使っているようでオリエンタルなものが多かった。しかし物を冷やせる箱なんて便利な物は扱ってないようで、店員に聞いても不思議な顔をされる。冷蔵庫の代わりはまったく見つからず、恥ずかしさがるので後はスガイに頼むことにする。

最後はタカラに勧められた肉をいくつか買って、本日の買い出しは終了した。 


買い物を終え、最初の路地裏に戻る。タカラと話していると、程なくしてフィルの姿が見えた。


「フィルお帰り。どうだった?」

「パパにはちゃんと伝えたよ。後は国王の返事を待つだけかな、会議が通れば数日で招集されると思う。扇君はどう?目的のものあった?」


「今日は肉屋にぼったくられたんだよな」

「それは!解決しただろう」

「え!なにかトラブルでもあったの?」


タカラがニヤリとしながらからかってくるが、軽くいなして会話を続ける。


「屋台で肉を買ったらちょっとね、元は取れたから問題ないよ」

「よく分からないけど大事にはならなかったのね。よかった!あとは買い出しも揃ったかな」

「うん、目的の食材はちゃんと補充できた。ただ今日も冷蔵庫は見つからなかったよ」

「……ずっとそれ探してるけど、それどんなもの?教えてくれれば一緒に探すよ?」

「ざっくりだけど、中が冷えてる大きい箱、みたいな。段が色々分かれてて食材を痛まないように保管できるんだよ」

「ほぉそれは面妖な。ってそれ魔法水晶あれば簡単にできるよ」

「……何それ」

「扇君も持ってるじゃん。腕につけてるその数珠も魔法水晶だよ」


魔法水晶とは、名前の通り魔法が込められた水晶である。基本的に元素魔法が込められていて、例えば火が欲しいときに水晶に触れて【発動】(アクティベート)と唱えれば、魔法使いでなくても魔法を使えるという優れものだ。


この世界では電気ではなく魔法が生活基盤になっている。連絡手段として使っていた数珠だったが、そんな仕組みだったのか。


フィルが言うに、数珠は風の魔法水晶だが、氷の魔法水晶があり、この世界では氷の魔法水晶を箱に入れて食材を保存している。温度差を出すには箱を分けないといけないが、扇が求めていた冷蔵庫そのものだった


肝心の魔法水晶の入手手段だが、身近で使われている分どこでも買えるようで、路地裏の家具屋で簡単に入手できた。

これで食材の保管に心配することはなくなった。


「そろそろ家に送るね。買い忘れ無いかな?」

「もう十分買ったよ。【空間転移】(テレポート)お願いします」

「はーいじゃあ寄って寄って!」

「扇!また近いうち飯食わせてな」

「すぐに会えるだろ、今度は肉料理作ってやるよ」

 「いくよ〜【空間転移】(テレポート)


フィルに寄った際に胸元まで強く抱き寄せられる。また彼女の冗談だろうが、離れると危ないのでされるがまま移動を待つ。


(帰ったら貰ったレシピで焼き鳥かな)


意識を背けるため、今日の献立を考えているうちに、あっという間に光が満ちていった。

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