5.パーティ(前編)
今回は長くなったので区切りました。
テンポ悪いかも(汗)
今日は朝から天気が悪く、雨が断続的に降っている。
昼食の時間になり扇は食堂へ足を運ぶ。
今日のランチは焼き魚定食だ。使ったのはフィンという魚でサンマのような姿だった。この世界ではよく食べられている魚らしい。
スキレットに一尾は大きいので半分に切ってから焼く。味付けは簡単に塩とこしょうだ。二十分ほどですぐ焼けた。
焼きフィンは薄皮はパリパリと、実はホロホロと箸で簡単にほぐせる。温かい白米と味噌汁もそろっていて、肌寒い今日にはぴったりの選択だった。しかもこの魚、骨まで食べれるので面倒な処理など必要ない。
今後の恒常ストックレギュラー入り確定。お墨付きの証をくれてやろう。
頬張りきれなかったフィンの尻尾が、口の端からはみ出ていたが、扇は味わうことに夢中で目を輝かしていた。
目の前のサンマに手でグッドを送って、箸を進める。
(やっぱり少ないよな)
食べてる最中扇は、ふと食材の残量が気になり出した。
肉はトントリアのひき肉とベーコンがのこっているが、夕飯で使い切る。あとは野菜が残っている。いざとなれば温野菜だけでも1日分もつだろうか。
また市場に出向く必要がある。このペースだ二日か三日に1回か。それではペースが速すぎる。早く冷蔵庫の代わりを見つけたい。
そんなことを考えていると、皿の上はあっという間にカラになった。
食事を終えると次の準備に取りかかる。昨日のリベンジをしよう。
赤鱗の実もといトマトは多めに買っていたので実験と称して試作するには余裕がある。
市販のトマトケチャップは増粘剤や企業努力で成り立ってるので同じものは作れないが、極力似たようなものならできるだろう。
(煮詰めるだけで簡単だし。)
早速、鍋の中にトマトとタマネギを刻んで入れる。このときトマトは食感を残さないためにも皮をむいて、ジェル部分を取り除いておく。
そして水分は追加せずに砂糖と塩と酢のみを加えて、ジャムのようにドロドロになるまで煮詰める。
お好みでローリエなど香りの強い葉をいれるのも良し。
最後にザルで漉せば完成だ。
一般人が作るならこんなもので上出来だろう。
早速実食。・・・・・・はせずに、これは夕飯にとっておく。
すぐ痛むモノではないし、比較的冷たい場所--キッチンの暗所に入れておけば少しは大丈夫だろう。頭上の戸棚を開いて入れておく。
あとは夜になるまでのお楽しみだ。
(やれることがない、後は何をしよう)
料理が一段落した今、手持ち無沙汰になっていた。強いて言えば、この古びた屋敷を整えたい。昨日で屋内の掃除は徹底的に終わらせたが、屋敷のDIYまでは自分には無理だった。
(そういえばスガイさんにリフォームのことを聞いていないな。)
(ちょうど晴れているし、買い出しついでに城下にいくのもありかな。)
食器を洗い終え、戸棚に収納する。
扇は立ち上がり母屋に向かって歩き始めた。
母屋のドアに手をかけようとしたそのとき、木陰の茂みから何やら音がすることに気づく。
怪訝になって耳を傾けるとヒソヒソと声が聞こえてくる。何人かで話をしているようだった。
「あの子が元巫女ってワケね。大分かわいい系男子だ。ねね、もうちょっと近づいてみようよ!」
「あーでも気づかれてね。こっち見てるよ」
「え゛っ、そんなことないでしょ。近くに気になるものがあるんでしょ、ほら鳥とか!」
女と男の声だ。声色からして若そうだ。
(国からの使いか?そんなの聞いてないけど)
会話する声がだんだん声が大きくなってくる。
「ちょっと押さないでよ!」
「俺!押してない!そっちがスペースとってるのが悪いんだよ」
「はぁ?デブって言いたいの!?」
「バッ!そんなこと一言も言ってねえだろ!」
「怒ったからね!このっ!」
声が途絶えた次の瞬間、茂みから男女が飛び出てきた。
扇は身を構えていたが見知らぬ相手の出現に少したじろいでしまう。
「痛てててて!やめろウサギ女!お前爪長いから尚更突き刺さるんだよ。」
「さっきから口悪い!目つきも悪いし、そんなんだから人寄ってこないのよ!」
「容姿の悪口は卑怯だぞ!」
「それ、そのまま返すわ!」
何たる修羅場。目の前でやらないでくれ。
女は男の袂をつかみながら逃げないよう固定し、右手で頬を引っ張っている。
(どっかで見たことあるんだよなぁ……)
争う光景を前に目を細めて見ていると、あることに気が付いた。
「あ!あんたら!召喚の時いましたよね!」
「へ!あー…」
「バレたじゃねぇか!」
指摘した途端雨が降り出した。
◆
扇は2人を連れて食堂へ駆け込んだ。
雨は一気に降り出したので、頭からつま先まで雨がしみこんで、床に水たまりを作りそうになる。
とりあえず2人を椅子に座らせると、キッチンからお茶とタオルをもってきて2人に渡した。
「いーや、ありがとうな。勝手に騒がしくしてたのにお茶まで出してくれて」
「ああなったのはタカラのせいじゃん!あ、タオルありがとね!私フィルシリア!名前長いからフィルでいいよ」
「俺はタカラ」
「扇です」
扇は2人と対面になるよう席に座った。
ピンク髪のウサギ耳の女と、銀髪のオールバックの男。どちらも見覚えがある。召喚されて最初に目に入ったおかげで、尚更印象に残っていた。見た目からしてきっと同世代だ。
「どう?ここの生活慣れた?」
「世界が変わっちゃったんで慣れるもなにもないかな」
「あはは、そうだよね」
「食事するのに食材買ってたから食べ物に関しては詳しくなったよ。ただ文化はまだまだ分からないことばっかだな」
「でも米屋の事件で魔法使いこなしてたって聞いたぜ。すげーじゃん!」
「自由に出せるようになったからつい」
前日の一件はもう回っていたようで、改めて褒められると照れてしまう。ただ文化のことはからっきし分からない。スガイにずっとはいてもらえないので、図書館とか情報収集の場所に行ければいいのだけど。
ちょうど疑問に思っていたことがあったので2人に聞いてみた。
「ねぇ、フィルさん。俺のスキルって特殊らしいけど、闇属性って具体的にどんな効果があるの」
「タメでいいよ。魔法の基本については聞いた?」
「元素魔法が最強って事は聞いた」
「そうね。簡単に言うと闇魔法単体なら、対象の力の増強が主になってて、人に付与することでその人の力を増強できるようになる。ただそれには代償が必要で、付与されたものは内容に寄るけど体とか魔力源の破壊が引き起こされるの。最悪命がなくなることもある」
人間の生死に関連した話が出てきて驚く。
「俺自身には影響はないの?」
「何回か使ってるんでしょ。何か気分悪くなったりとかしてない?」
「得には何も」
「じゃあ相性がいいんだね!相性が悪ければ魔法を出そうとしたらすぐ気持ち悪くなるから!魔法の使用で影響が出るのは魔力の消費だけかな」
「問題ないって事だな」
それを聞いて安心した。扇の料理スタイルは変えなくていいようだ。
安堵したところで新たな疑問が浮かび上がった。再び質問する。
「ところで、2人は今日は何しに来たの」
率直な疑問を伝えると、フィルの表情が少し硬いものになった。タカラはその様子を横から見ている。笑ってはいなかったが楽しそうな顔に見えた。フィルが話を切り出す。
「た、単刀直入なんだけど」
「はい」
「扇君にね」
「うん」
「巫女のふりをして隣国に交渉をしていただきたいのです」
「……は?」
改まったからか、敬語と私語がごっちゃになっている。色々と突っ込みたい部分があったが予想外の内容に、言葉が詰まる。
「え、隣国って例の揉めてるっていう」
「アーデフィン小国」
「そうそれ」
「待ってよ俺、そんな立場じゃないし。てか巫女じゃないし!」
「実は君が召喚されて、その次の日にもう一度召喚の儀が執り行われたの。でも何も呼べなくて失敗に終わっちゃって。巫女が召喚されたことは広まったけど失敗したことは極秘にされてる。私たちも協力するし、いるだけで誤魔化せるかもしれないから!」
「そう言われても」
フィルが必死に訴えると濡れた髪から水が飛んで来る。困った。そもそもなんでそんなことを知っているのか。こんなに機密漏洩しているなら、隣国にもバレていそうだが。
「ちなみに俺側のメリットってなにがあるんだろうか」
「ああ!そうよね!メリット、メリット……うーん」
「なぁ扇、お前今困ってることないか」
横にいたタカラの手助けにフィルがナイスと突っ込んでいる。間近で困っていることといえば、あれがあった。
「冷蔵庫が欲しい」
「なにそれ?」
「食材を冷やす箱、みたいな?」
「ほえ〜そんなのがあるのか!じゃなくて!元の世界に帰るとかどっか行きたいとか!」
「……あ、じゃあ、家族に会いたい」
「家族?」
「俺が召喚されたって事は、きっと他のみんなも無事に召喚されてるはず。ただ情報も何も分からないし、一人でここを離れるのも難しいから」
「それなら!解決できるかも」
難しいと思って出した要求に、思いも寄らない返答が帰ってきた。
「今回の対立でアーデフィン側は輸送だけじゃなくて、人の往来にも制限をつけてるの。そのせいでアーデフィン王国から桃源国間での行き来が自由にできていない。もし、この問題が解決できれば流通は戻るし、人の往来も回復する。扇君の協力があったって事なら国は喜んで使者を派遣するし、なんなら誰か雇って探しに行ける!万事解決ってワケ!これでどうかな」
扇の瞳に光が宿る。解決の糸口が見つかった気がした。確かにフィルの言う通りだ。国の援助を受けられれば探せる範囲が一気に広がる。バレた時のことを考えると不安になるが、この解決策がベストな方法だろう
「……その話、乗った」
「え!いいの!?」
「あれ違う?」
「じゃなくて!是非、お願いします」
扇とフィルが手を取り合う。
「このアイデアまだ仮検討の段階だったから、元巫女から許可取ったって、あとで国王に伝えておくね!」
「なんだ仮検討か。後俺は元でも巫女じゃないって」
「でも多分採用されると思うよ。あとはどう誤魔化すかだけどね。じゃあ私たちはこれで」
--グルルルル
そうフィルが切り上げようと立ち上がった瞬間。彼女の腹の虫が鳴った。隣でタカラが笑い出す。恥ずかしそうに腹を押さえているフィルに扇は提案した。
「2人とも、なんか食べてく?」
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