3.仮屋を手に入れた
城内で一晩過ごした後、扇は桃源国を後にした。
空は快晴で雲一つ無い。
スガイに案内されながら、森の中を馬車で移動する。
「これから案内する場所は、元は宿泊施設でした」
「1人でお使いになられるには広いかと思いますが、その分自由に使っていただいて構いません。あと監視と言っても定期的に訪れるだけですので」
国からの処分が下った後、扇の住居について会議が開かれた。
巫女であれば城内に住まう予定であったが、一連の事件で白紙となった。そうなると桃源国内に住居を作る話が出る。しかし、今回の儀式で国の予算を大幅に使用してしまい、元ある住居を紹介することで話はまとまった。
そして現在その居住地に向かっている途中である。桃源国の東西にはそれぞれ一本の道が繋がっている。
そこから枝分かれした一本の中に宿はあるのだという。
「着きましたよ、こちらが住まいになります」
「おぉ」
小道を抜けた森の中には空間が広がっていた。手前には小川が流れ、小さな太鼓橋を超えた先に二棟の平屋がたたずんでいた。
感嘆を述べたがそこまで立派な建物ではない。逆に屋根や柱など、所々壊れたり、錆た部分があった。遠目からでも見て分かる。
荷物と共に馬車から降りて、スガイに別れを告げる。風魔法が込められた数珠を渡されているので彼とはいつでも連絡が取れる。この国に関してまだ詳しく分かっていない。その点では国からの監視はありがたいと思った。
扇は馬車を見送るとそのまま屋敷の方へ向かった。
館は以前、旅人の宿泊施設として使われていた。ライバル店の出現によって経営難が続き閉店することになる。その後10年ほど放置されていたが、宿自体は立地的に国のすぐ近くで、利便性がいいと再評価された。個人から国の管理化になったがライバル店が利益を上げております結局、使われず現在に至るというわけだ。
「広いけどその分管理が大変そうだ」
新居は母屋と別棟で分かれている。
まずは母屋だ。扇は少し離れて観察を始める。
屋根に大きな問題は無い。雨風は一応防げそうだろう。日当たりも良さそうだ。
近づいて入り口に手をかける。窓も含めてスライド式で風情があるが、開く際に引っかかる。風化が始まって木がささくれているのだろうか。さすがに隙間風は防げないか。
この世界に四季があるのかは分からないが、暖かい時期でよかったと思う。
外部の観察を終えて、母屋の中へ足を踏み入れる。
玄関を入ってすぐに受付のカウンターが現れた。そこから部屋が四つに分かれている。部屋を巡ってみるとそれぞれ八畳ほどであり、窓のとてつけが悪い。幸い支柱や梁など、家を支える部位は問題がなさそうだ。
風呂とトイレは共用で、母屋の後ろ小屋に設置されている。
--母屋の構造はこんなものか。一通り確認できた。
次は別棟だ。
扇はもう一方の建物に目を向ける。
別棟は解放されており、離れたところからでも内部が分かった。椅子とテーブルが複数置かれいてる。一角に人が入れるスペースがある。カマドのようなものが残っていたので、別棟は食堂に使われていたのかもしれない。
「結構ボロボロだし、リフォームが必要かな」
「一人で住むにも大分広い」
スガイからは生活費と称していくらかの通貨をもらっている。
全部を直すにはそれでは足りない。
そういえば父はDIYが得意だった。この場にいたら協力してくれただろうか。
誰もいない状況に悲しくなる。離れた家族を思っていると腹が鳴った。
「とりあえず昼飯作ろっか」
扇は準備に取りかかるため、食堂の方に移動した。
◆
国を出るとき、通貨だけではなく、生活必需品と称していくつかの食材と、道具を一式渡されていた。
持ち込んだ木箱を開けて中を確認すると、ほとんど野菜が詰められており、保存用の葉に包まれた肉が数きれ一緒に入っている。
何の肉だろうかふと疑問に思ったが、昨日解体されていた動物を思い出し、それ以上考えることをやめた。
野菜は葉物が多かった、中にはニンジンのような野菜も見つけたが色はやけに赤い。タマネギの用に丸い野菜もあれば、もやしのようなひょろひょろとした野菜もあった。日持ちのことを含めて、レシピを考える。
次に調理器具だ。大袋の方を開けると、水の入った木筒が数本。直径20cm程のスキレットとフルーツナイフ、木製の食器とカトラリーが見つかる。黒い石も入っていたが、何に使うのか分からないため袋に戻した。
ちなみにスキレットは鉄製なので事前の処理が必要になる。空腹との勝負だ。
早々に準備に取りかかろう。
これで道具と食材はそろった。料理が作れる。
そう思った矢先、ガスが通っていないことに気づいた。
キャンプをしろと言うならば、火ダネくらいは入れてほしかった。
「何か火をおこせるものは」
近くに何かないか探すと、手元に目が行く。途端に昨日のことが思い出された。
そういえば自分は手から火を出していた。あれを応用すれば、火の代わりになるんじゃないか。闇魔法ということが気になったが、直接炙るわけではないし、大丈夫だろう。
問題はもう一度再現できるかということだった
(それ以外方法はないしな)
扇は外にでて木材を集め軽く整えた後、それに手をかざした。
家に燃え移ったらひとたまりも無ので、なるべく小さく小さくイメージする。手のひらがだんだん温かくなってきた。すると
ポッ
「やった・・・・・・!」
簡単に火がついた。どうやら成功したらしい。
火が手に入れば後は簡単だ。少し離れてスキレットを取り出した。
洗剤はないので木筒の水でスキレットを軽く洗い流す。
そして火で炙る。一応のカラ炊きだ。
火元から離れるのは怖いので、食材を一式急いで運び出す。
野菜をさっと洗った後。
まな板の上で食べやすい大きさにカットする。
そのまま焼くのは忍びなかったが、根菜類からスキレットに放り込む。
しばらくして熱が通ったら、次に肉を投下する。肉に火が通ったことを確認したら、最後に葉物を投入し食材が混ざるように炒めていく。
(ここにタレがあれば美味しくなるのに)
色々と、足りないモノが出てくる。
洗剤や油など料理だけでなく日用品も不足している。後でリストアップして明日買いに行くことにしよう。できればスガイに食材のことを聞きたいし。そうこうしているうちに、全体に火が通った。
野菜炒めの完成だ。
量は多めに作ったので、朝食までは保つだろう。明日になれば食材の補充はできるし、足りないならば野菜が少し余っている。それで漬物など補充しよう。スキレットから小皿へとりわける。まずはできた料理の確認から。早速実食だ。
「いただきます」
盛り付けた小皿から箸で掬い、口へと運ぶ。
よかった、素材の味そのままでシンプルだが、味はちゃんとおいしい。
むしろ苦労して作った分、いつも作っている野菜炒めよりおいしく感じた。しっかりとかみしめる。ほろりと目元から涙がこぼれた。
「ごちそうさまです」
ついつい箸が進んでしまったが、夜以降のことを考えておかわりはよしておこう。
しかしいくら美味いといってもおかず単品だ。白米が欲しくなってくる。この世界は日本と似てるし、稲作とかやっていないのだろうか。
必要物品リストに項目が増えた。明日市場で探してみよう。
扇は食器を台所へ持って行き、洗い終えると、屋敷の簡単な掃除からはじめることにした。




