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ダークフレイム調理人   作者: 伏見


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2/18

1.聖女?降臨する


「皆様成功しましたぞ!」

「我が国に安寧が訪れる!宴じゃ!宴じゃ!」

     

(何だよ五月蠅いな)


辺りがやけに騒がしい。気怠さが残っていて体が思うように動かない。やっとの事で、目を開けると、周りにはたくさんの人がいて、俺に注目を向けている。

何かのユニフォームだろうか、六、七人だけが修行僧のような白い服を身にまとい、その他大勢も、色とりどりの作務のような和服を着用していた。

 気が付くと、俺は広間の中央にいるようだ。足元には円形の模様となんだかよく分からない文字が羅列していて、暖かさがほのかに残っている。

 さっきまで、トンネルの中にいたはずなのに、ここは病院のどこかだろうか。それにしては天井は高すぎるし、壁はレンガで、等間隔の柱が並ぶ間にはガラスの窓が埋め込まれていたりと豪華な造りをしている。こんなところに病室があるとは到底思えない。


(俺助かったのか。あの時、トンネルの中で何かに襲われて……)


ふと起きる前の記憶をたどってみるが、現状と一致しない。

理解が追いつかず、変な感覚がする。


 だかに助けを求めようと顔を上げると一人の男と目が合った。白髪を少し残した緩いオールバックに整った顔立ちに対してキツいつり目が特徴的だった。観客に紛れて彼もこちらを見ていたが、体格が大きい分、人混みの中でもやけに目立つ。ボーッとしたまま見つめ返していると、片目を閉じてウィンクを飛ばされた。俺はびっくりして咄嗟に顔をそらした。


顔を向けた先には女性がいた。こちらの女性もとても美人だ。染めているのだろうか、ピンクの髪を緩く伸ばし、前髪は眉の上で切られている。

そうして順繰りと近くにいる人々の顔を見ていると何か違和感があることに気が付いた。


(……角の生えた人がいる)


思わず立ち上がり、もう一度周囲に目を向ける。他の観客はうさ耳だったり猫しっぽだったり。何もついていない人もいれば、中には竜の頭を模した観客もいた。俺は少ない脳みそで状況を整理する。結果、コスプレイベントに巻き込まれたのだと結論に至った。


「ああ!聖女様!よくおいでなさいました!」


気の抜けた明るい声が聞こえて振り向くと、そこには中学生くらいの背丈をした鼠がいた。種類的にはハツカネズミだろうか。白い和装を身につけていて--というか着られているようで、子供向けアニメに出てくるマスコットみたいだ。

 

 明るい声からは、本心から俺を歓迎している事が分かったが、耳がピクピクと忙しなく動いていて、興奮が読み取れた。声も少しうわずっている。きっと緊張しているのだろう。


「さ、さぁさぁ!こちらへ!早速王の元へご案内しますね」


「あの、ここ、どこですか。それに聖女様って……人違いだと思います」


「これは、失礼いたしました!異界から来たばかりで混乱しているのでしょう。状況が分からないのは無理もありません!あぁ、私スガイと申します」


スガイと名乗った鼠は、自分を聖女と呼び慕い、ここへ呼んだ理由を説明し始めた。

アルセリア亜大陸?桃源国とアーデフィン小国という国々が揉めていて、聖女の魔法がこの世界を救う?


 なんのゲームの舞台だ。まるでパ●スのフ●ルシのル●がパ●ジでコ●ーンを想起させるほどややこしい状況だ。思わずツッコミを入れたくなる。

没入型の演劇だとしてもやり過ぎではないか。


確かに、ここにいる民衆は東西折衷の顔立ちに加えて、動物の顔をしていたり、耳や尻尾が付いていたりと日常ではお目にかかれない姿をしているが……。いや、そもそも日本ではこんな都市見かけたことがない。仮にアジアのどこかだとしても、言語が通じているこの状況は説明が付かなくなる。


「……あのぅ聖女様?どこかお加減が悪いのでしょうか」


俺が頑張って状況を整理していると、スガイは声をかけて様子を伺ってきた。とりあえず、ここから離れて、どこか別の場所に移りたい。


「あ、ごめん。スガイ……さん?大丈夫なんだけど、ここから離れたいなって」


「え、いえ!城内にて聖女様のお住まいは確保しております。桃源国王もお待ちです。お疲れのところ大変ですが、本城の方へご案内いたしますね」


そう、スガイは嬉しそうに話し始めたが、まだ混乱は収まりそうにない。


気を失っている間にどこか知らない村に連れてこられたのだろう。家族のことも心配だった。危険が分かったら隙を見て逃げ出そう。


「……ここからそのお城って近いですか?」


首を傾けてそう聞くと、スガイは微笑んで答える。


「そう遠くないです。歩いてすぐ、着いちゃいますよ!もしかして歩けないほどお疲れでしょうか?」


「いや、問題ないです。早速お願いします」


そう答えると、スガイの耳はさらにはためくスピードを上げたのだった。




儀式が終わり民衆の間を縫って外に出ると、見慣れぬ建物が出現する。辺りはすっかり夜だった。

空には星空が広がり、吊された提灯に灯りが灯っている。

辺りの様子は暗くなっても賑やかだ。木製の建物やレンガを用いた石造りの平屋など和風の建築が並んでいる。

中にはぽつぽつと屋台が並んでいて祭りを想起させた。

変わった面や、草で編まれた風車。

別の屋台には串焼きの肉や魚などが売られていて見ているだけで飽きそうにない。

焦るべき状況のはずなのに、この光景に心躍る自分がいる。


そう、城下の光景を微笑みながら眺めていると、少し前を歩くスガイが口を開いた。


「ところで聖女様、失礼ながらお名前と年齢を伺ってもよいですか」


「あー札山扇(ふだやま おうぎ)です。年齢は十七歳」


「オウギ様!なんとも美しい響きです

ね!黒い髪もお綺麗ですのに、短くされているのはもったいない」


「あはは、ありがとうございます」


少し照れて答えると、スガイも軽く微笑みを返してくる。

彼の話し方はどこか穏やかで優しい。見知らぬ相手に素性を伝えるのは憚られるが、名前だけならと素直に伝える。そのくらい問題ないだろう。


「それにしても変わったお召し物ですね。男の子(おのこ)の洋装にも見えますが……。城に着き次第召し物を用意させましょう。お好みの色がございましたらお申し付けください。私の見立てでは、黒い髪に桃や翡翠の色が栄えそうですな。

それに、オウギ様からはいい匂いがします。どこの香を使われているのでしょうか?」

一言答えただけで、スガイの口からはずいずいと質問が返ってきた。

 嬉しそうに話す姿は見ていて心地よい。

 しかし、どうやらスガイは俺のことを女性と勘違いしているようだ。賞賛の内容が女性に対しての物としか聞こえない。

いや、同年代に比べて華奢な体つきをしている自負はあるのだが……。

それでも女性と並べばすぐに分かるだろう。

スガイは「聖女」が召喚された前提で話をしている。この国の勝手が分からない以上、男だとバレたら何をされるか分からない。俺はそのことに言及しないことに決めた。


興味津々で質問をしてくるスガイを笑顔であしらいつつ、俺は屋台の方に目を向ける。商人のかけ声が飛び交い、途中花火を持った子供が駆けぬけ、それをスガイが注意する。城下は活気に満ちていた。


ふと屋台に目をむけると、自分の国とは違う売り方に興味がわいた。


「ここでは野菜とか肉とか屋台で売ってるんですか?」

「そうですよ。気に入った物を手に取って、店主に金を払って購入します。聖女様の国とは違うのですか。」

「方法に変わりは無いけど、売っているところが違いますね」

「どれも新鮮な食材ですよ。雑貨なんかも売ってます。後ほど資金をお渡しするので、時間ができたら自由にお回りください」

「まるでタイムワープしたみたいだ」


その光景はヨーロッパや外国のアジア圏を彷彿とさせた。普通はスーパーで売られているはずの食材が、木の箱に整えられて売られている。

 両親が共働きなので家事は妹と分担して行っているが、妹は不器用なので食事の大半は俺が用意していた。


(異国の食材使ってみるのも楽しそうだな)


食材に目をこらしてみる。

大きい物から小ぶりな物まで日本で買える物とほぼ変わらない。

一般的な葉物が並べてあれば、ときおり赤地に黒の模様を携えた不思議な実が目につく。魚は個性があるようで、大きな個体が多かった。口元に牙が並んでいる個体に関しては捕まえるのが大変だろう。


「安いよ!安いよ!今日は特別に魔トンの切り売りするから見ていってくれ」


羊肉が身近なのか。切り売りもしているようだ。

俺は気になって屋台の方に目を向けたが……台の上置かれたのは羊じゃない。――豚だ。それも体の側面に目玉がずらりと並んでいる。今まで見たことのない動物だ。


(嫌な物を見てしまった・・・・・・)



俺は素早く顔を背ける事、で精神的ダメージを回避した。

気づけばスガイとの距離が開いている。離れないよう歩みを早めると、そうこうしているうちに王城が見えてきた。



 

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