【閑話】別れたタカラの話
日が落ちてきたせいか、風が冷たい。
普段と変わらないラフな和装をしていたが、羽織る物を持ってくれば良かったとタカラは少し後悔した。
3人と離れたタカラは、標的を探して森の中を進んでいた。
いつ戦闘に入ってもいいように、右手には太刀を携えている。
単独行動には慣れているが、迷子になるのは困るので、なるべく目印になるような木を見つけては表面を剥いで目印をつけてから、足を進めた。
(ビッグボアとか出たらラッキーなんだけど)
「コケーコケーッ」
鳴き声と共にコッコルが茂みから出てきた。獲物にしては小さいが、この先、獲物が出なかったときのことを考えて、狩ることにする。
コッコルがこちらに気づいて、睨むと同時に翼をはためかせながらこちらへ走ってくる。
タカラはすぐには太刀を抜かず、コッコルが近づくギリギリまでの距離を狙った。
--1歩、2歩、3歩
コッコルのくちばしが、大腿に着きそうになったその瞬間。タカラは一気に太刀を引き抜いた。
途端にコッコルの胴体と首が切り離された。成功だ。一羽、食料が手に入る。
「朝飯のことを考えるとあと2、3羽欲しいよな」
コッコルの胴体はドクドクと血を流している。タカラは服が汚れないよう、離しながらまた足を進めた。
「コケコケッコケー!」
「コッコココケッ」
「なんだ大量じゃねえか。どっかに巣でもあんのか。おっと」
奥からコッコルが続けて飛び出してきた。数えると5羽ほど、敵意はないのか、逃げるようにしてこちらへ向かってくる。当たりそうになるのを避けるとそのまま一直線に走って行った。
--ブフーッブフーッ
コッコルが出てきた茂みの奥から、なにか荒い息づかいが聞こえてきた。地面を伝って、微量ながらに魔力も感じる。すでにこちらに標的を構えているのだろう。
「やっと大物が食えそうだなァ!!」
茂みから、タカラの背丈を超える巨体が飛び出してくる。
そのまま加速するよう一直線にタカラめがけて向かってきた。
猪のようなシルエットに、口元に大きな二本の牙を携えた、正体はワイルドボアだった。
少し挙動が鈍い。固体の性格からなのか、今まで狩った固体に比べてスピードが遅いように感じた。口から泡がでている。どこか興奮しているようにも見えた。
しかし、タカラにはそんなこと関係ない。自分に向かってくる敵意は例外なく、たたき伏せるのみだった。
タカラは一度身をかわして、突進をやり過ごす。
振り返ろうとしたワイルドボアの牙を瞬時につかむ。
そのまま腕を力一杯振って近くの大木に巨躯をぶち当てると、大きな音と共に木が折れてしまった。
角こそ無いが、タカラは鬼人とヒューマンのハーフだ。鬼人は他の種族に比べて筋肉量が秀でているので、護衛や剣士などで能力を発揮する者が多い。身体能力の面でタカラはは鬼人の遺伝子を引き継いでいる。たかが大木が折れてしまうほどの衝撃を受けて、ワイルドボアは怯んでいる。
「もうちっと強いと思ったんだけど……。んまこれなら明日の昼間で保つかな」
怯んでいるワイドボアの首筋に太刀を添えて、一気に刺す。瞬間うなるような鳴き声と共に、ワイルドボアの目から光が消えた。
納刀すると、右手にはめた魔法水晶に手をかざして、太刀を収納した。
「……あれ、こいつすごい臭いな。なんか付いてる?」
タカラは顔をしかめ、鼻をつまんだ。
ワイルドボアの体から、紫色の液体が流れ始め、そこから異臭が匂ってくる。
どうやら毒に犯されていたようだ。
「なんだ弱ってたのかよ、悪いことしちまったな。……あ、てか毒持ちならこの肉、食べれねえじゃんか!」
すぐ決着が付いたとはいえ、無駄な戦闘に労力を消費してしまった。
体力と共に腹も減った気がする。
気を落としたのもつかの間、タカラは逃げていったコッコルを思い出し、太刀を片手に走り出した。




