10.馬車旅1日目
前回から続いてます!
「道中って屋台も何もないんだね」
ふとした疑問を扇は独り言のようにつぶやく。
馬車を降りて4人は辺りを散策した。
「そりゃそうだろ。国の周辺なら少しはあるけど、さすがにここいらで店やってたらモンスターの心配しないとならねえよ。」
「アルメリノとかすごい栄えてる国なら、国同士の道も整えられてるみたいだけどね!あ、野草とか果実とか野生の物は危ないから私のとこに持ってきてね!【鑑定】すれば食べれるか分かるから!」
どうやらフィルの能力は食べ物にも有用らしい。
足元には草や花が青々と生い茂っていた。
「んじゃ俺、肉探してくる」
「ああ気をつけて」
「危なくなったらちゃんと呼んでね!」
タカラはモンスターを探しに単独行動へ移る。残った3人で野草を探すことになった。
扇は試しに足元に生えていた草をむしってみる。市場の八百屋で見かけたような形だった。
今まで野草を採取して食べた事は無いし、以前いた世界でも経験は無い。野営に近いことであればキャンプを何度もしたことがあったが、それでも用意した食材でバーベキューをしただけで、いわばサバイバルという
経験は初めてだった。
「フィルこの草食べれる?」
「あ!これなら見なくてもわかるよ。鳴鳴草(鳴きなり)草だね。魔除けによく使われるやつ、風が吹くとぴぃーって鳴って面白いの。今からここら辺鑑定してみるから、食べれる草教えるね」
「すごい手慣れてる。仕事早いってよく言われない?」
「へへん、お褒めにあずかり光栄です。じゃあちょっと離れてて」
フィルが呪文を唱え術式を展開し始める。転移の時とは違い、青い光が足元を広がっていった。
「調べ終わったよ!それじゃあ始めよっか」
扇はフィルに教わりながら野草を取り始めた。
どうやらここ一帯は野菜の群生が豊富なようで、風切り草と魚鱗草、地蔵菜など葉物から根菜類まで様々な種類がとれた。
「これもね美味しいよ!あとは……」
「そんなに沢山とっても調理が大変だよ」
「でも、野菜いっぱいの方が私好きだし!」
フィルは笑顔で野草をむしり続ける。ふと扇が別の方向に目をやると、薄い青紫色の綺麗な花を発見した。すぐ近くでは野ウサギがモリモリと花を食べている。
「フィル、これとか色が綺麗で美味しそうじゃないか」
「あっ!それは駄目!」
「え?」
「きゅえぇぇ!」
彩りに使えそうだと花に手を伸ばした瞬間。近くで食べていた野ウサギが急に倒れ込んだ。その声に驚いて扇は咄嗟に立ち上がる。よく見ると野ウサギの口からは泡が吹きでており、体がピクピクと痙攣している。
素人目に見てもその光景から何が起きたかははっきりと分かった。
--この花には毒がある。
「扇君!大丈夫!?この花触ってないよね!?」
「うわぁびっくりした!大丈夫、触ってないよ」
フィルが心配そうに飛び込んでくる。野ウサギはすでに動かなくなっており息絶えたようだ。
「この花チョウソウ花って毒草で、最悪大型のモンスターも倒れるくらいの毒があるの。触ったらかぶれるくらいで済むんだけど、あの子みたいに食べたらすぐに倒れちゃうから……なにもないみたいで良かった」
「はぁ、ここらへんってそんな簡単に毒草が生えてるもんなの」
フィルがいなかった場合を考えてぞっとした。倒れてはないにしろ、毒でかどこかかぶれて、作戦を決行する前に家へ帰ることになっていたかもしれない。家に帰るまでが作戦だ。身の保身を優先して気をつけよう。
「さっき軽い毒草も見つけたし、ちょうど群生地なのかもしれないな。なるべく食べれる野草と同じものを採りましょ。……そういえばスガイは?」
その一言で、スガイの姿をしばらく見ていないことに気づく。フィルが【鑑定】を展開した後、後ろの林に向かったのは見ていたが、それ以降姿を見ていない。先ほどの野ウサギとスガイの姿が重なって少し嫌な予感が思い浮かぶ。扇はスガイの向かっていった林の方向へ歩みを進めた。
◆
「オウギ様~見てください!このでっかいキノコ!」
林を少し進んだところでガサゴソと胸丈ぐらいの大きなシルエットが動いているのが目に入った。スガイだ。辺りには大小様々な種類のキノコが生えており、その中で中央にそびえ立つ、特段大きなきのこを前にして彼は座っていた。
「スガイさん!なにしてんの!」
「オウギ様!実は私マッシュが大の好物でして!匂いのする方へ向かったらご覧の通り、辺りに沢山のマッシュを見つけました。特にこの大きいの!今晩は是非これを調理していただきたいのです!」
「それは……いいんだけど」
スガイが潤んだ瞳でこちらを見てくる。
マッシュとはキノコのことか。キノコ、こちらに来てから食べていないな。確かに焼くだけでも美味いのだ、夕飯の献立に加えたくなる。しかし、キノコこそ有毒性の判別は難しいのではないか。専門家でも判断は難しいと聞く。はたしてこのキノコは食べられるのだろうか。
「これ、毒あるよ」
後ろから追ってきたフィルが指摘する。【鑑定】能力を使わずに見た瞬間即答した。
「ほれみたことか、……ってなんで分かったんだ?」
「このマッシュ、フォーザ大国が産地で有名なんだよ。触る分には問題ないから小さい頃、突っついて遊んでたの。毒があるから食べられないかな」
「そっそんなぁ……!こんなにも美味しそうなのに……!」
スガイがショックで縮こまる。耳を押さえながら小さくなったその姿はとても可愛らしくて、れっきとした国の従者には見えなかった。
この可愛い鼠に、どうにかしてこのキノコを食べさせたいという気持ちがわき上がる。この世界には魔法があるのだ、どうにか方法はないだろうか。
「毒消しの魔法とか使えない?ほら魔法水晶あればさ……」
「フィル様は回復魔法は使えませんし、毒消しの魔法水晶は手持ちがないのです。仕方が無いので、ここは私が諦めます……」
「一応解決できそうな方法は2つあるかな」
「ホントですか!」
「どんな案だ?教えてくれ」
フィルには何か解決策があるようだ。
夕餉の支度の前に面倒な事は避けたかったが、タカラはまだ戻ってこない。スガイのためだ、その間であればできることはやろう。
「1つは扇君が頑張って毒を吸収するの。毒も魔法属性の1つだし、むしろ闇魔法から派生したものだから、取り除ける可能性はある。そこまで熟練してればだけどね」
「もう一つは?」
「多分こっちの方ができるかな。毒消しの薬草と一緒にマッシュを鍋で煮る!これだけ。でも絶対に採れるってワケじゃないよ!最後は【鑑識】でちゃんと確認するから抜けてなかったら食べるのやめようね!」
毒消し草なら先ほど採取した野草の中に混じっていたはずだ。
解決の目処が立ち、フィリアは大キノコの【転移】を行うと馬車に向かって歩き出す。扇とスガイも周辺のキノコをいくつか採った後、集めた野草を抱えて後に続く。
「キャンプ地は道の周辺でいいかな。人通りも少ないし、森の奥入ったら襲われたとき大変だしね」
野営地点が決まり、馬車から必要な道具を降ろす。複数持ってきた鍋の中から毒抜きのために大きな鍋を選んだ。
(残念だけどこれは今回で用済みになるなぁ)
早速鍋に水を張り、今回は魔法水晶で火をつけて切り分けた大キノコと一緒に毒消し草を鍋で煮る。
少し時間が経つと、水の表面がうっすら青紫に色づいてきた。
どうやら毒抜きの効果はあるようで、隣にいたスガイの瞳が輝き出す。
途中途中水を入れ替えて、水の色を観察してまた煮る。それを繰り返して水に色が付かなくなれば毒抜きの終了だ。
「どうだろうこれで」
「色はもう付いてませんが、鑑定しないことにはなんとも……」
「いっちょやってみるか!【鑑定】!……うん!毒抜けきったみたいだよ」
「よしっ」
「これでオウギ様のキノコ料理が食べられるのですね!」
「ああ、今から作るから待っててくれ」
「おーい、肉取ってきたぞ」
ちょうどいいタイミングでタカラが戻ってきたようだ。手に持っている肉はコッコル鳥だった。鶏肉とキノコと野菜、キャンプの材料としては上出来だ。調味料に酒を持ってきたのでそれで酒蒸しにするとしよう。
スガイが周辺に結界を展開し、フィルとタカラは食材を切って参加した
酒で蒸しただけの料理だったが、スガイは舌鼓をうって感嘆していた。
そう、毎度褒め称えられていては照れてしまうのだが、ありがたく受け取ることにしよう。
国を出てから1日目。扇は慣れない旅に疲れたのか、食事を終えるとはしゃぐ3人をよそにすぐに床へついた。
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