8.旅人
背丈こそ子供に思えたが、彼女の瞳には人を制止するような冷たい何かが宿っているように感じた。
◆
昨日、食事を済ませると2人はスガイと共に早々に家を後にした。会話の内容からするにアーデフィン小国の傭兵として使役するようだ。
そうなると後日また合うことになるかもしれない。2人とも武力に自信があるようなので対立だけは避けたい。
桃源国の方でも話はまとまっていたらしく、あと3日後には小国へ旅立つ計画になったそうだ。準備の期間が短いことに驚いたが、スガイはすべて国でサポートするから心配ないの一点張りだった。本当に上手くいくのか心配だが。
「扇君今日はこれ食べたいなぁ~作ってぇ」
「野菜ばっかでつまんねえよ、やっぱり肉料理だよな」
「朝、昼で肉料理とかあり得ないんだけど!だからそんなでかいのよ」
「筋肉質って言ってくれ」
フィルとタカラは作戦会議のためにこちらへ通うことになった。家の前にはモンスター除けの薬草が生えているが、傭兵の2人が近くのみちでコッコルに襲われたこともあり、護衛の名目も兼ねている。2人がいるだけでずいぶんと賑やかになる。どうやら今日は桃源国のレシピを持ってきたようだ。
「扇はどれ食べたい?」
「今日の昼は白米と蒸し野菜かな。やっぱり肉ばっかだと体に悪いよ」
「ほらねー!扇君もそうでしょ」
「じゃあ夜ご飯は肉にしような。それで解決」
「そういうことじゃないでしょ!」
何をするでもなくみんなで談笑している。これでは高校を思い出す。和やかな雰囲気に癒やされる反面何か準備とか必要ではないかと不安になる。
「ところでさ、俺このままでいいの」
「うーん当日も聖女様にはじっとしててもらう予定だしなぁ、なんか練習する?火加減とか」
「ならよぉ、俺相手に勝負してみるか?扇も魔法持ちだし、この先家族探すんなら戦闘の仕方覚えてたほうが役に立つだろ。俺、付き合うぜ」
「・・・・・・ちょっと興味あるかも。でも闇属性って危なくないか」
「大丈夫だって。モンスターの中にも闇属性持ちはちゃんといるし、俺ちゃんと強いんだぜ」
「それなら、お願いしようかな」
話がまとまり、3人で外へ出た。
「んじゃ、扇から。魔法出してくれ」
「ああ」
「やり過ぎないよーにね!」
タカラがどこからか日本刀を取り出した。手首にはめた魔法水晶が収納を担っているようだ。そのまま手前に構える。太刀だろうか、体格に比例して太めの刃が似合っている。扇も手を前に突き出し、いつもの炎をイメージする。炎が生まれるとそのままタカラの方へ投げ出した。
「よいしょ、もっと強くしてこいよ」
「こう?」
「ほっ。いやもっともっと」
「これっは!」
「まだまだ弱えな!」
まるで野球のバッティングのようだ。いくら強く大きい炎を投げてもタカラはそれをタイミング良く捉えて、刃で消していく。
「当てるつもりで来いよ」
(……いいのか当てて)
この場にはヒーラーがいない。野菜にはそれぞれ属性消しの効果や回復効果はあるが当てるのは心配だった。しかしタカラが挑発してくるのだ、少しはそれに乗ってやろうか。前から考えていたアイデアがある。
「行くぞ」
--ヒュンッ
まずは通常通り炎を投げる。もちろん今まで以上に意識して速度は速めた。正面から向かってくる火玉にタカラは刀を構えている。
まだ行動には移さない。
刀を振るギリギリまでを狙う。
まだいける。
まだだ。
まだ……
(今だ……!)
タカラが刀を振りかざすギリギリのところで、炎が曲がるようイメージをして念を飛ばした。
すると炎はギュンと右の方へ舵を切ってタカラに向かっていく。いわゆる変化球を狙った。
「っ!」
一瞬本当に当たるんじゃないかとヒヤヒヤしたが、タカラは一気に体勢を変えて変化球を受け止めた。
(そんなこと、出来るのか)
「タカラ大丈夫!?」
「っぶねー!当たるかと思った!」
「まぁ当てるつもりだったかな」
「容赦ねえ!」
「言ってきたのそっちだし」
「でもすごいね!もう使いこなしてる」
「実戦に出ても問題ないな」
扇は2人に褒められて少し嬉しくなった。どんどんいこう。次の炎を手のひらに出して、もっとはなく投げようと大きく腕を振りかぶった。その瞬間、足元がぬかるみにはまったように重い感じがした。すぐに視界がおぼつかなくなる。するとどんどん身体から力が抜けるような感覚が襲ってきた。
「扇くん!」
「扇!」
2人が駆け寄ってきたところで、扇の視界が暗くなっ
た。
◆
視界に薄い水色が広がる。こんな色の布団あっただろうかと思いながら視線を動かすと、扇の頭元に少女が座っていた。少女は水色の髪を腰ぐらいまで伸ばし、前髪を切りそろえていた。左右のこめかみを三つ編みにしており、背丈は小さいながらも前髪からのぞく瞳はどこか酷く冷静な印象を与えた。どうやら目に入った水色は彼女の髪の毛だったようだ。
「起きたの。体調は大丈夫?」
「えっと何とか」
「そう、良かった」
「……」
今いるのは自分の部屋だが、見知らぬ少女を前に居心地が悪くなる。口数が少ないぶん、話しかけていいのか心配になった。2人の間に静寂が流れたのもつかの間、ガラリと部屋の扉があいて、そこから元気な声が入ってくる。
「あっ!扇くん起きた!良かった〜魔力切れ起こしてたんだよ!急に倒れるからビックリした〜!」
「心配かけてごめん。これが魔力切れってやつなんだな……。普段は料理にしか使わないから初めてなったよ」
「狩りしないし、そうだよね。鍛えれば魔力って増えるから、落ち着いたらトレーニングしよっか」
「ところで彼女誰?」
フィルが心配そうに頭を擦り付けてきた。サラサラとした髪が摩擦で擦れていたい。落ち着いたところでフィルに状況の説明を促すと、少女が口を開いた。
「名前はソフィー。近寄ったらちょうど倒れてたから、私の魔力を与えたの。どうやら問題なく馴染んだみたいで良かったわ」
「そんな経緯が、ありがとうございます」
「いいのよ。それよりお腹が減ったわ。あなた料理上手なんでしょ。お代はそれでちょうだいな」
「彼女お腹空いててここに寄ったんだって。そこに扇くんが倒れちゃったので介抱してくれたのだ!……私たちじゃ料理できないから作ってあげて〜!」
そういうことか。命程ではないが、ピンチを救ってくれたようだ。恩人は食べ物をご所望だ。得意の料理でもてなそう。
扇は体調に気をつけながら体を起こし、二人を連れて食堂へ向かった。
食堂にはタカラがいて、心配されたが、問題ないことを伝えると安堵していた。
扇は早速キッチンに立つ
火をくべて、フライパンに魔トンの肉を敷いて焼く。ここに来て初日に見かけたショッキングな見た目をしたあの豚だ。加工されればただの肉だったので、抵抗なく買うことができた。次いで、酒、みりん、砂糖、しょうゆ、刻みショウガを混ぜてタレを作り、フライパンに投下して味がつくように絡めながら煮詰める。
昼は蒸し野菜の予定だったが客人は腹をすかしてるし、扇自身も先ほど倒れたので精力をつけるためにも肉料理を選択した。しかしずっと肉料理だとバランスが悪い。そこで玉ねぎ、キャベツ、もやし、にんじんと野菜も入れれば生姜焼き風野菜炒めの完成だ。
かさ増しで量があるので、残れば夕飯にとっておける。
白米とみそ汁も添えて早速3人のものとへ運ぼう。
「この国、肉の姿焼きしかないと思ったけど。ちゃんと丁寧な料理あるのね」
「焼いただけって言ったら変わらないけどね。どうぞ食べてください」
「こいつの料理めっちゃ美味いんすよ。腹減ってるならちょうど良かったですね」
「私待ちきれない!いただきまーす」
「いただきます」
皆で手を合わせると。各々食べ始める。旅人--ソフィーは祈るように手を組んでいたが、肉を一口食べると黙々と箸を進めていた。表情は大きく変わらないが気に入ってくれたのか。
あっという間に皆平らげた。タカラはまだ足りず、おかわりを所望してきたので仕方がないから夕飯分も出すことにした。ギルドのアタッカーだとやはり消耗が激しいのだろう。訓練の相手にもなってくれたのでたんと食べるがいい。
「どうも、ごちそうさま。私はそろそろ御暇するわ」
「治療していただいてありがとうございました。まだお腹へったら寄ってください。簡単なものなら出せますので」
「そうね。でもこの先の用事が済んだらすぐ国へ戻るし、もう会わないかも。」
ぐいっとソフィーが近くに寄る。すると不意に耳打ちをしてきた。
「……それにしてもあなた珍しい魔法持ってるのね。体力の消耗も激しいみたいだし、使い方には気をつけなさい」
「えっ」
いつの間にか扇の魔法がバレていた。調理中にでも見られたのだろうか。魔法に通じているようなので、アドバイスは素直に受け取ることにする。
「……ご忠告ありがとうございます」
「それじゃ私、行くわね」
ソフィーを太鼓橋まで見送り、食堂へ戻る。
「不思議な人だな」
「あの人、コルメド国の紋章つけてた。もしかしたら国から偵察しにきたのかも……?扇くんなんか言われたの?」
「……いや、魔力消耗気をつけろってさ」
闇魔法を知られたことに焦ったが、ソフィーはすぐ国へ帰ると言っていた。きっと会うことはないだろう。まぁ会ってしまっても、知っているのは一部だけだ。周りにバレないようにすればいい。
しかし、話していると色々な国の名前が出されるので、場所の判断が追いつかない。環境も違ってくるのだ、国の把握は後々の料理のレパートリーにも影響してくるだろうし、それに、外に出る必要があれば国の配置は知っておく必要があるだろう。
扇は後学のためと称してフィルに声をかけに行った。




