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第四話 ヴェイルブレイド


颯真は瞼をゆっくりと開ける。

月明かりが窓から差し込んでいて

木製の壁が暖炉の火で照らされている。



体が重く、自重で胸が圧迫されているのを感じる。

背中に鈍い痛みが残っていた。

喉も乾き、微かに寒気が体を包む。



「……ここは……?」



その問いに応えるように、壁に寄りかかっていた少女が静かに声を発した。



「……気づいたの、良かった。」



その少女は腰まで伸びた長い髪を持ち、

落ち着いた表情をしている。



ただ目線はこっちを向いていない



そばの椅子には2m近くはありそうな棒(おそらく杖)が立てかけられており、

杖の先端にツバの広いとんがり帽子がかかっている。



「ここは、あなたのいたオルディス大洞窟に向かう途中にある休憩小屋」



(そうだ僕、異世界(ネクサリア)に来たんだった…

あの洞窟オルディス大洞窟っていうのか)



「……えっと……あなたは……?」



少女は静かに話し始めた。



「初めまして。私はリーシェ・ヴァレンシア。

……今、私の仲間があなたのことを治療中よ」



どうやら洞窟で見た人影はこの人たちのようだ。



「助けてくれたのか……ありがとう。」



ヴァレンシアは表情変えずにいう



「助けたのはフェン姉さんよ。

あなたの事情はメルヴァンから色々聞いたわ

転移災害に巻き込まれるなんて災難だったわね」



少し引っかかったので、ヴァレンシアに問う。



「あれ、確かメルヴァンの声って普通聞こえないんじゃ……」



ヴァレンシアは少し間を空けて答える。



「それはね、私が 能力(アビリティ)全覚(トリニティ)無碍(コミュニオン)

を持ってるから聞くことができるの。

ちなみに今あなたがこの世界の言語を喋れてるのもこの 能力(アビリティ)のおかげ」



「え?ここって日本語通じるんじゃないの?」



ヴァレンシアは少し呆れた顔になる。



「そんなわけないでしょ。ここはあなたのいた世界じゃないんだよ?



まあ、なぜかメルヴァンと普通にしゃべれてしまったせいで

勘違いするのも無理ないか……」



確かにその通りだ



少しうつ伏せになっている体がつらくなり、動こうとしたが、

ヴァレンシアに静止させられる。



「ダメ、動かないで、今治療中なんだから。」



その言葉の直後、扉が勢いよく開き、もじゃもじゃの髭を持つ気の良さそうな中年の男が入ってきた。



(この人がドラヴィンおじさん?)



「おお、目を覚ましたか! 一時はどうなるかと思ったが……よかったよかった。

ヴァレンシア、3人を呼んできてくれ」



ヴァレンシアが頷き、さっきドラヴィンが入ってきた扉から静かに出ていった。



颯真はまだぼんやりとしながらも、少し安心したように息を吐いた。



ドラヴィンは颯真の背中に軟膏のようなものを塗りながら口を開く。

塗られている際痛みは不思議となかった。



「いや〜お前さん、相当運がいいぞ。

いや、運がいいなんてレベルじゃないかもしれんな!」


ドラヴィンは笑いながらそういった。



「包帯を巻くから、ちょっと起きてくれ」



颯真はゆっくりと体を起こす。



まだ頭がクラクラしている。



包帯を巻いてもらっている間しばらく颯真はボケーっと椅子に立てかけてある杖を見ていた。



「よしおわりだ!」



ドラヴィンが大きな手でぱん、と手を払ったその瞬間

足音が近づき、扉が再び開いた。



先頭に立って入ってきたのは、髪を後ろで一つに束ねた女性だった。

制帽のような物をかぶっており背筋は真っ直ぐ、冷たい空気すら断ち切るような鋭い眼差し。

腰には剣が一振り。鞘から漏れる気配が異様に静かだ。



「……気が付いたか、よかった。」



彼女は短く言い、しかしその声にはわずかな安堵が混じっていた。



(この人、すごく堂々としている..)



手には“鬼の面(メルヴァン)”を抱えている。

心なしかメルヴァンは疲れているように見えた。



さらに、長身の男が軽い足取りで入ってくる。

茶髪が揺れ、いかにも居酒屋にいそうな人だ。



「大丈夫か? よく生きてたな!」



気さくで朗らかな声が小屋に響いた。



(耳が長い、エルフなのか?……後ろに背負ってる弓重そうだな)



最後にヴァレンシアが戻ってきて、全員が僕を囲むように立つ。

その光景に少し圧倒された



さっきまで無言を貫いていたメルヴァンが口を開く



「お前の最後の質問に答えてやるよ

俺たちは夜を払うもの(ヴェイルブレイド)



魔物どもからみんなを守る正義のヒーローだ!」



メルヴァンは誇らしげだったが、反対にヴァレンシアは呆れた顔をしている。



言い終わると同時に

最初に入ってきた女性が一歩前に出た。

その佇まいは静かだが、一切の隙がない。



「私はヴァルカ・フェンドリード。

……ヴェイルブレイドのリーダーだ」




冷静な声。けれど、その目はどこか優しい。




次に耳の長い男が口を開く

「俺はフェアレン・グレイシス! 弓の名人だ、よろしくな!」




続けてドラヴィンが口を開く

「俺はドラヴィン・コルマーだよろしくな!」




ヴァレンシアがそっと颯真の横に寄り、控えめに言った。

「……私はさっき言った通り、リーシェ・ヴァレンシア。よろしく」




そして――

つられて、というのが正しい。



颯真も口を開く。



開かなければならない気がした。


理由は分からないが、ここで黙っていると、


自分だけが場からはみ出してしまう気がしたからだ。



「……僕は、瓜原颯真。よろしく」



少しだけ、間が空いた。



その直後、空気が、ふっと軽くなる。

さっきまで感じていた、無言の圧迫感が、ほんのわずか薄れた。



輪に入れたわけじゃない。

ただ、拒絶されていないと分かっただけ。



それだけで、胸の奥の緊張が、少しだけ緩んだ。



⸻フェンドリードが静かに周囲を見渡し、ドラヴィンへ視線を向けた。



「……ドラヴィン。彼はいつ頃動けるようになる?街まで連れていっても問題はないか?」



ドラヴィンは腕を組み、颯真の様子をしばらく見てから答える。



「んー……そうだな。今日一晩ちゃんと休ませればいけると思う。

無理はさせられんが、普通に動く分には問題ないはずだ」



フェンドリードはゆっくりと頷くと、今度は颯真へ向き直った。



「……聞いての通りだ。明日、とりあえず近くの町まで連れていく。

今はとにかく休め。まだ体が本調子じゃないだろう」



颯真は、少し躊躇いながらも無言で頷いた。

それを確認すると、フェンドリードは表情を緩めて小さく言った。



「安心していい。この小屋は安全だ。何かあればすぐに呼べ」



その一言を最後に、フェンドリードは踵を返し扉へ向かう。



「じゃあなーゆっくり休めよー」

と、メルヴァン



続いてフェアレンが軽く手を振る。



「じゃ、ゆっくり寝とけよ。ここから街まで結構あるからな!」



ドラヴィンは大きな手で颯真の肩をぽん、と優しく叩いた。



「痛むならすぐ言えよ。薬はまだあるからな」



ヴァレンシアは少し心配そうにしてから、静かに言う。



「それじゃあ、また明日」



一人、また一人と部屋を出ていき、扉が閉まると同時に、

室内には暖炉のパチパチという音だけが残った。



重い瞼が再び下りていく。

体の痛みはまだあるけれど、さっきよりずっと軽かった。

もしかするとこの世界にきて初めて安堵したかもしれない。


⸻暖かい暖炉の火にあてられているうちに颯真は眠りに落ちていた。

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