第30話 適応こそ真のアビリティ!
マスターが、地面に突き立てた剣を支えに立ち上がる
息は荒い、それでも目は死んでいなかった
「……お前、一体何をした!!」
その問いに、エルドリックはあっさりと答えた
「適応した環境にな」
(は?適応?どうゆう事だ?)
ざわり、と空気が軋む
シアが困惑の表情を浮かべている
「どうゆうこと?」
エルドリックは笑みを浮かべる
「仕方がない、教えてやろう。私はお前見たくケチではないからな
ーー私の能力の本質は、環境への適応にある」
彼は、こちらを見渡す
まるで講義でもするような口調だった
「斬撃、打撃、魔法
同じものを当て続ければ、そのダメージはいずれ効かなくなる
要は抗体の獲得だ」
「今回、お前たちは毒を撒いたようだな。
だが、そんなものはもう効かない」
少し疑問だった部分が腑に落ちる
(適応……そういうことか!)
(あの森の時……さっきまで効いていたはずのシアの魔法が、突然効かなくなったのは……!)
一拍
「そして――おまけに、こんなことまでできる」
エルドリックが、手を掲げる
『毒蔓木!!』
ベキッ!
その瞬間、エルドリックの右腕から木が生えた
いや、ただの木ではない、完璧な剣だ
濁った色を帯び、空気そのものを腐らせるような気配を放っている
植物でできた、まさに”毒剣”
触れたら終わりだと、本能が叫んでいた
「さっきまで樹鬼たちを蝕んでいた毒は、今や力の一部だ」
淡々と、誇らしげに
そして、エルドリックは語り始めた
「再命とは、人格を新たに上書きし、別の生物として命を与えることだ」
「人間にとって、己のための感情はノイズだ」
言葉が、刃のように降り注ぐ。
「そんな感情があるから、自分を見る。自分だけを見る。種族を見ない」
「だから、これ以上繁栄せん」
「……いや、繁栄の天井に着いただけかもしれん」
彼は、鼻で笑った
「だが、そのせいで人類は暇を持て余し、あろうことか個人を極めた」
「まるで、他の種族に絶対繁栄で負けないと決まりきっているかのようにな」
「確かに今、人類は一番繁栄しているかもしれん
だが、その現状にあぐらをかいているようでは、いずれ越される。いずれ消える」
「他の種族を舐めすぎだ。怠惰極まりない」
そして、結論
「だから作る」
「己のない人間を、完璧な人間を、種のために完璧な生命体を」
「別の生命として、再度命を与えるのだ」
――ぞっとした
頭のどこかで、理解してしまう部分があったからだ
あいつの世界を守る、それはきっと大義で正義だった
……少しだけ
ほんの少しだけ、正しいと思ってた
でも、すぐに打ち消す
(前言撤回だ)
(狂ってる。こいつは……悪だ)
……それでも
なのに、どうして完全に否定しきれない
人類のためには正しいけど、人間のためにはきっと正しくないと思う
人類と人間、一体どっちが正しいんだ!?
いや、コイツはみんなを傷つけたんだ!何がなんだろうと悪だ‼︎
思考が揺らいだ、その刹那
エルドリックが、腕を振り下ろす
グゴオオォォォ!
樹鬼ドラゴンが咆哮し、地面が震える
こちらに人差し指を立てて言う
『毒斬り』
コオッ!
短いドラゴンの呼吸音
ブォオッ!
一閃
一瞬で視界が、真っ白になった
重く白い空気が押し付けられる
霧だ
濃密で、重く、甘ったるい
(まずい……!!)
(吸っちゃいけない!!)
そう思った時には、もう遅かった
すってしまった
「ゲホっ!ゲホっ!」
喉が焼けるように痛み、肺が拒絶する
意識が、急速に遠のく
膝が、崩れる
「くっそお、エウろぽゐヱゑ¿…@」
呂律が回らない
視界の端で、シア、マスターが倒れるのが見えた
音が、消える
世界が、ひっくり返り暗転する
最後に見えたのは、
霧の向こうで、静かに立つエルドリックと5体のドラゴン
そして大量の人影ーー絶望
完全敗北した
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