第22話 未成年飲酒、確定演出!!
この作品は決して未成年飲酒を助長しているわけではありません。
しばらく進んだ先、通りの角にひときわ明るい建物が見えてきた。
看板はあるが、やっぱり異世界の文字は見慣れないものだった。
(……読めない)
多分酒場だ、いや絶対に
それだけは、雰囲気で分かる
世界共通のあの雰囲気だ
扉の向こうから、笑い声と椅子を引く音が溢れている
(人生初、酒場……)
一歩踏み出しかけて、ふと立ち止る
やってはいけないことの前の葛藤の様に
(ん? ちょっと待て)
(未成年で酒飲むの、まずくないか?)
そんな不安をよそに、ヴェインたちは迷いなく扉を押し開ける
ジェットコースターはいつだって乗ってしまったら途中で嫌になっても降りることは叶わない
「じゃ、行くぞ」
「あ、ちょっ——」
止める間もなく、中へ消えていった。
僕とシアは顔を見合わせた
「……入るよ」
「…はい」
(まあ飲まなきゃいいだけの話)
二人も続いて酒場に足を踏み入れた
中は、やはり賑やかだった。
木の床、低い天井、並ぶテーブル。
酒と料理の匂いが鼻を突き、あちこちで笑い声が弾けている
その瞬間。
奥のテーブルから、やけに通る声が飛んできた。
「お〜い、リーダー!
こっちだこっち!」
酔っ払い特有の、妙に上機嫌な声
ヴェインは苦笑しながら、そちらへ歩き出す
「おう。悪い、遅れた」
「おせーぞ!生きてたか!」
「当たり前だろ」
軽口を叩き合う様子に、緊張はない。
颯真は、その場にぽつんと立ち尽くしていた。
(……完全にアウェーだ)
すると、横からフェルクが肩を叩く。
「ほら、ぼさっとしてないで行くぞ!」
そう言って、彼は勢いよく駆け出した。
「ちょっ——」
止める間もなく、フェルクは突っ走っていく。
「若いなぁ……」
その後ろを、グレインがのんびりとした足取りで追った。
残され、一人ため息をひとつ
(流される人生だな、ほんと)
そう思いながら、シアと並んでテーブルへ向かった
長方形の長い木の机の上には、所狭しと料理が並んでいた
肉厚な何かのステーキ、香草の乗った野菜、衣が荒い揚げ物
湯気と油の匂いが立ち上り、腹が反射的に鳴きそうになる
(結構……うまそうだなー)
テーブルには、すでに七人が座っていた
ヴェインたち三人を除くと、さらに四人
一人は女性で、頭に狼のような耳がついている
(獣人族……か?
いや待て、森人族の前例もあるし、)
まあ今決めることじゃない
もう一人の女性は、尖った耳を持つ森人族
表情は穏やかだ。
残りの二人は男で、どちらも自分と同じような外見をしていた
肌の色や目の雰囲気からして、おそらく魔人族
(人間、いないんだな)
結果的に、
魔人族が二人、獣人?族が一人、森人族が一人
種族はばらばらだが、空気はやけにまとまっている
シアと僕が席の前につくと、視線が一斉に集まった
(……全員、結構酔ってるな)
顔が赤い、声がでかい
すでに何杯目か分からない者もいそうだ
フェルクが、待ってましたとばかりに声を張り上げる
「よし! 紹介するぞ!」
まず、狼耳の女性を指さす
「この人はラティナ! 討伐士五級!
見た目通り、力が強いから前衛担当!」
「見た目通りって何よ」
ラティナは笑いながら、フェルクの頭を軽く小突いた。
次に、森人族の女性。
「こっちはミリエ!討伐士六級 回復と補助が専門だ!」
「よろしくね」
短く微笑むだけだが、どこか安心感がある。
続いて、魔人族の男二人。
「で、こっちがドラン討伐士五級! 力仕事担当!」
「おう」
低い声で返事をする、大柄な男。
「もう一人がカイ! 討伐士5級、魔術使いだ!」
「どうも」
こちらは細身で、杯を片手に軽く会釈した
(……キャラ濃いな)
内心で圧倒されながら着席する、
代わりにヴェインが立ち上がる
このテーブルは座れる人の上限が設定でもされているんだろうか?
「じゃあ、連れてきたやつの紹介だ」
何かと思えば紹介だった
代わりにやってくれるのはありがたい
そう言って、まずシアを見る
「この人は、ヴェイルブレイドのシアだ」
一瞬、空気が止まった
「……え?」
「マジで?」
「“あの”ヴァレンシア?」
さっきまで酔っていた面々の目が、はっきりと覚める
ラティナが耳をぴくりと動かした
「本物?」
「本人だ」
ヴェインが即答すると、どよめきが走る
「うわ……」
「まじか」
シアは慣れた様子で、軽く肩をすくめる
「どうも」
それだけ
だが、その一言で十分だった
ヴェインは続けて、僕を示す
「で、こっちがカワハラソウマ、だ」
視線が、今度は僕に集中する
(や、やばい……はぁー)
居心地の悪さに、背筋が伸びる
カイが興味深そうに目を細めた
「魔人族……じゃないな?」
(おお、やっぱりわかるのかそうゆうの)
「えっと……」
答えに言い詰まる僕を見て、フェルクが代わりに言う
「転移災害の被災者だ!」
一拍の沈黙
それから、ドランが鼻を鳴らした
「人間か!こりゃまた珍しい、
まあでもそのうち珍しく無くなるのかガハハハ!」
ドランの豪快な笑いが収まると、ラティナが手を叩いた
「はいはい、じゃあ飯頼も。
ほら、新入り二人、何食べる?」
そう言って、木製のメニュー表を差し出してくる
……が
(うん、読めない)
文字はびっしり並んでいるが、意味は一つも分からない
一瞬だけ固まる、思考停止だ。視線をさまよわせた
できれば早く決めたいところ
(どうする……適当なの選んで食べれなかったら終わりだ、
でもメニューに写真ついてないし…)
と、そのときーー
目の前の皿に盛られている、衣の荒い揚げ物が目に入る。
黄金色で、油がまだじゅわっと光っている。
(あ!これだ!)
僕は、咄嗟にそれを指さした
「……それと、同じやつで」
シアも頷く
「私もそれでいい」
ラティナが一瞬きょとんとしてから、笑った
「なるほどね。じゃあ人気メニューで決まり」
ヴェインがまとめるように言う
「揚げ物二つと、あとは適当に人数分頼む
それとー」
注文を終えると、自然と会話が始まった
フェルクが身を乗り出す
「なあソウマ、
ソウマの世界って、なんか面白いものあるの?」
(面白いもの……)
少し考えてから口を開く
「ゲーム、とかかな」
言ってから、はっとする
(あれ?)
(RPG系って……この世界、ほぼそれじゃないか?)
魔物、スキル、ギルド、魔法
冷静に考えると、完全に被っている。
(FPSとかなら、まだウケるか……?)
そんなことを考えていると、カイが首を傾げた。
「ゲーム? それが何なのか分からないな、
他には?」
「他……」
過去の記憶を辿る
犬の散歩
入学式やらかした…
なんで今思い出すんだよ
最悪だいつも黒歴史は唐突にくる
まさに災厄だ
こんなのさっさと忘れよう…
忘れたい
……
そうだな
家族旅行で行った、あのときの景色
「……スキーとか
あと、波乗りとかかな」
一瞬、テーブルが静かになった。
「……?」
カイが聞き返す。
「それは、どんなものなんだ?」
「スキーは、雪山を滑り降りるんだ。
波乗りは……文字通り、海の波に乗る」
そこまで言った瞬間
全員の動きが止まった
「…………え?」
ラティナの耳が、ぴんと立つ
ドランが目を見開いた
「雪山を……滑る……?」
フェルクが身を乗り出す
「海に入るのか!?
そんなことしてたら魔物に襲われないのか!?」
僕は圧倒されながらもなんとか答える
「魔物?」
「そんなの……いないけど」
次の瞬間ーー
「えええええええ!?」
テーブルが揺れるほどの声が上がった。
「マジで!?」
「信じられない……!」
「それ、天国じゃない?」
ミリエが羨ましそうに目を細める
「いいな〜……
私、そんな”平和”な世界に生まれたかったな〜」
一瞬、
“つまらない世界だぞ”
と言いかけて、口をつぐんだ。
これは言ってはいけない、
超失礼な気がした
代わりに、曖昧に笑うだけにする
そのタイミングで、料理が運ばれてきた
ドン!
(おお、来た!)
大皿に盛られた、山のような唐揚げ
香ばしい匂いが一気に広がる
(うわ……)
僕は手を合わせかける。
「いただきま——」
ドン!
「へ?」
もう一つ、目の前に置かれた。
ジョッキだ。
琥珀色の液体が、泡を立てて揺れている。
(……あ)
見なくても分かる。
(ぜっっっっったい、酒だ)
僕は、ゆっくりとそのジョッキから視線を逸らした。
ラティナが、颯真の前に置かれた唐揚げを見て笑った。
「アンタ、目利きがいいねえ。
そのマッドピラーの唐揚げ」
胸を張るように続ける。
「酒に合うんだよ。
この店で一番人気のおつまみさ」
「…………は?」
またもや思考が、一瞬で停止する。
(おいおい、マジかよ)
(ウソだろ)
視線が、唐揚げとジョッキの間を往復した。
この際唐揚げの中身がマッドピラーだろうがなんだろうがどうでもいい
不味いのはそれがおつまみという事実!
(おつまみ……?)
(これ、おつまみだったのか……!)
言われてみれば、確かに。
味が濃そうだし、油も強い。
冷静に考えれば、酒前提の料理なのは分かる。
(でもさ……!)
最悪だ。
選択を急いだせいで、完全に地雷を踏んだ。
せめてステーキにしていれば。
いや、飲み物を先に指定していれば。
(というか、最初に聞いとけよ……!)
だが、もう遅い。
目の前には、
酒。
おつまみ。
逃げ道なし。
“未成年飲酒確定演出”‼︎
異世界の字が読めない弊害、ここに来て本格発動‼︎
(終)
そんな絶望をよそに、料理は次々と運ばれてくる。
肉。
パン。
煮込み。
ーーー
全員分の料理が揃ったところで、ヴェインが立ち上がった。
ジョッキを掲げる。
「よし。全員揃ったな」
周囲が自然と静まる。
「ギルドマスターの護衛任務、無事完了。
それと……今日、生きて帰れたことに」
少しだけ間を置いて、口角を上げた。
「乾杯だ」
「「「乾杯!!」」
一斉に、ジョッキが掲げられる。
その勢いのまま、フェルクが僕の肩を叩いた。
「ほらソウマ!
お前も乾杯しろよ!」
なっ!
なんと僕と同じぐらいであろうフェルクも酒を飲んでいる…!
森人族だから僕と年齢ずれてんのかな、ああでもエルフと同じとは限らないか…
ちょっと待て、何回やるんだよこのくだり、
もう森人族とエルフは別物として考えよう
どちらにせよ
(……終わった……)
再度ゆっくりとジョッキを見る。
泡。
琥珀色。
どう見ても酒。
現実は変わらない
(未成年なんですけど)
だが、周囲はもう完全に祝宴モードだ
誰も気にしていない
というか、気にする文化があるのかも怪しい
あと、
自分が雰囲気を壊すと申し訳ない極まりない!
(……もう、もういいや)
僕は決意をキメル
酒の入ったコップを、そっと掲げる。
「……乾杯」
そうして、異世界で初めての乾杯に参加した。
そのまま観念してお酒をぐびっと一口、口に含んだ。




