第二話 異変は突然、出会は必然
『ドッ!』
突然、何かに弾き出されるような衝撃が走り、酷い頭痛とともに目が覚めた。
痛みに眉をひそめ、額に手を当てる。脳の奥がズキズキと脈打っていた。
目を開けると――そこは真っ暗な暗闇だった。
光源はどこにもなく、視界は完全に闇に覆われている。
背中側が岩のように硬いことに気づき、思わず体を起こした。
(あれ? 僕、ベットで寝てたはず…)
手探りで周囲を確かめる。ゴツゴツした岩の壁……それ以外には何も触れない。
冷たい空気が肌を刺す。足元も湿っていて、石のように硬い。
さらにお尻に冷たい感覚が走る。
(冷たっ…!濡れてる…?)
驚いて立ち上がる。
(ここはどこだ?まさか、洞窟……?)
試しに頬をつねってみる。
しっかり痛かった。
——夢ではないようだ。
急に不安が込み上げてくる。
「誰かー! 母さーん、父さーん!」
返事はない。
反響した自分の声だけが跳ね返ってくる。
その大きな反響から、ここが相当広い場所であることが察せられた。
突然の状況に心臓が早鐘を打ち、混乱が体を支配する。
まるで竜巻の渦中に放り込まれたかのようだ。
どうすればいいのか、まるでわからない。
それでも、無理やり深呼吸して落ち着こうとする。
「スゥーーーーハァーーー……」
(とりあえず、今持っているものを整理しよう)
使えそうなのは——スマホ。
さらに足元を探ると、何か固いものに触れた。
暗すぎてよく見えない。
今の頼りはスマホだけだ。
電波が飛んでいないか画面を確認する。
スマホの上部には、圏外の表記
(まあ、だよな)
ライトのアイコンをタップすると、光がぱっと広がった。
光があるだけで、世界は一気に「理解できるもの」になる。
ふと思う人間は、かなり視覚に頼っているのだと。
その光で床を照らし、さっきの物体にライトを向ける。
——除草剤だった。
(日曜に母さんが使ってたやつ……なんで?)
理由はわからないが、一応役に立つかもしれないので持っておくことにした。
(立ち止まっていてもしょうがない。一旦情報収集をしよう)
スマホのライトを頼りに、壁伝いに歩き始める。
ここは一体どこの洞窟なのか?
もしかすると、異世界なのでは――?
そんな考えがぐるぐると頭を回る。
いざ本当にそれっぽい状況になると、喜びより恐怖が先に来るのだから、我ながら都合がいい。
「ぺちっ…ぺちっ…ぺちっ」
自分の足音が普段より大きく聞こえる。
ふと、前方の闇の奥で、淡く青白い“何か”が揺れた。
「……光?」
思わず足を止める。
(もしかして……人?)
救われるような思いで、胸がぎゅっと締めつけられた。
人かもしれない
その一心で、光に向かって足を速める。
進むうちに、光は徐々に大きく、はっきりとしていく。
いきなり、視界がふっと開けた。
「……うわ」
思わず声が漏れる。
広い空間だった。
天井も壁も、無数の青白く光る鉱物がびっしりと張りついている。
光は揺らめき、淡い霧のように空間を満たしていた。
幻想的で、どこか現実味がない。
まるでゲームの中か、ファンタジーの挿絵のような光景だった。
しかし、そこに“人”の姿はなかった。
期待がしぼみ、胸の奥が痛む。
それでも——
「……明るいだけ、マシか」
闇の中を歩き続けていた恐怖が少し和らぎ、肩の力がすっと抜けた。
光のおかげで周囲がよく見える。
足元の危険も減ったし、なぜか孤独感が少し薄れた気がする。
——僕はスマホのライトを消した。
(しかし、なんだこの鉱石は 見たことないし、蛍石でもここまで光らないだろうし…)
青白い鉱石を間近で見ようと、足を進めるそのとき——
「なっ…どっ..」
耳の奥に、かすれたような声が届いた。
「……っ!?」
全身がびくんと大きく跳ねた。
心臓が喉まで競り上がってきて、呼吸が止まりそうになる。
反射的に振り向いた。
「うわっ!」
飛び出た岩の壁で隠れていてここに来た時は気づかなかったが、そこにあったのは――死体だった。
壁に寄りかかるように倒れ、皮膚は変色し死斑が出ている。
死んでからまあまあ時間が経っているようだ。
嫌な匂いを覚悟したがそこまで臭くはなかった。
冷たい空気を吸って鼻が少し麻痺しているようだ。
そして、そのすぐ横には、木製っぽい鬼らしの面が落ちていた。
鼻のような出っ張り以外、のっぺりと平ら。
二本の角が生え、頬まで裂けた口、丸くくり抜かれた目はどこか虚で、
闇の中からこちらをのぞいていた。
突然鬼の面の口が動く。
「こんなところに1人でくるなんて…
勇気があるのか、それとも無謀なだけか」
自分の目と耳を疑った、だって仮面が動くなんて見たこと聞いたこともない。
さっきのかすれた声と打って変わって生き生きとした声がする。
「まあ、変な格好から察するに能力強度0のやつなんだろうなー。」
(なっ、なんだこいつ…敵か? 能力… 強度? なんだそれ)
急に喋る鬼の面に恐怖を覚えたが、それよりも唖然の方が勝って、頭が真っ白になった。
「おっ、お前誰だ!僕の..敵なのか?!」
鬼の面が目と口を大きく開けて驚いた顔になる。
「えっ、聞こえてるのか!?」
「聞こえるけど…一応。」
「ま、じか」
少し間を空けて鬼の面が話し出す。
「俺が誰かっていう質問だったな。
俺の名はメルヴァン、ヴェイルブレイドの一員って言ったらわかるか?」
(ヴェイルブレイド? なんかの組織名みたいだけどなんだそれ?)
疑問を解消するために聞いたのに、また疑問ができてしまった。
「いや…わからない。
寝てたら突然弾き飛ばされるような感覚になって、
それで起きたらここに…」
メルヴァンは少し考え込むように間を空ける。
「……ああなるほど、勘違いしてた。
お前、被召喚者じゃないんだな。
転移災害に巻き込まれて、こっちの世界弾き出された、運のないやつってわけね」
被召喚者? 転移災害? ヴェイルブレイド? 能力強度0?
どんどん疑問が増えていく。
——メルヴァンに全ての疑問をぶつけることにした。
「なあ、この世界はガチで異世界なのか?
ここはどこで、転移災害ってなんだ、ヴェイルブレイドってなんだ、
被召喚者ってなんだ、能力強度0ってなんだ、
そしてお前は一体なんなんだ!」
言い終えると同時に、メルヴァンがニヤリと笑う。
「突然見覚えのない場所に飛ばされて不安だよな。
いいぜ、その疑問、俺が全部答えてやる!!」
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