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最低以下スタートの僕、異世界で“俺”を貫く〜気付けば伝説の英雄に〜  作者: マークされた場所
第1章 能力覚醒編

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第19話 さっきの地獄を、もう一度

森は、焼けたあとの静寂に包まれているーー

焦げた土と灰の匂いが、まだ空気の底に沈んで

誰も喋らない。

沈黙を破るその一言で、何かが壊れそうだったから

禁忌の様に


睨み合いは続く


その沈黙に、シアの声が響く

沈黙を破る


「教団のお偉いさんが、ずいぶんと単独行動ね」


杖を下げないまま、視線だけを向ける

エルドリックはそれを気にした様子もなく、自分の手を触っている


「少し個人的な用があってな」


あまりに気軽な言い方だ

さっきまでこの森を地獄に変えかけた張本人とは思えない

慣れている様だ


颯真は喉を鳴らす

この場で一番、場違いなのは自分だとわかっている

それでも、聞かなければならない気がした

いや聞きたかった


「……教団の、目的って……なんなんですか」


声が、わずかに震えた


エルドリックは面白そうに目を細める


「知りたいか?」


否定する理由はあるわけない

気になったら聞いたんだ

僕は小さく、頷いた


エルドリックは、森の焼け跡を見渡しながら続ける


「我々〈グレイシス〉はな、世界保護を目論んでいる」



「は?」



あまりに端的で、拍子抜けする言葉だった


(世界維持教団と言いながら悪者なんだろうな)

思っている節があった。

だから判断は容易だと思っていた

おかしい、すぐ判断するつもりだったのに

今言ったことは嘘とも思えない


(……悪者、なんだよな?)


世界保護?理解が追いつかない


エルドリックは笑う


「どうだ? 正義のヒーローみたいで、いいだろう?」


冗談めかした口調。

だが、その奥に一切の揺らぎはなかった



だが、

自分の中で点と点が線になったことがある

確かに世界保護が目的なら、


『世界を滅ぼす存在とされているメルヴァンを排除する』


というのは確かに妥当だろう

メルヴァンを襲う理由は分かった



だが、

まだ分からないことがある



『メルヴァンが世界を滅ぼす存在になる』

と言っている根拠だ。

だから僕は、さらに聞く。



「……メルヴァンが世界を滅ぼす存在になるという根拠は?」



手が自然と、被っているメルヴァンに触れていた

だが、メルヴァンは一言も発さなかった



その問いに、エルドリックは即答した

「予言だよ。教団の予言の書に、そう書いてある」



空気が、一段冷えた気がした



「そいつは、いずれ世界を滅ぼす存在になる、と」



軽く告げられた言葉なのに、重い

颯真の背中に、嫌な汗が滲む


シアが、一歩前に出た


「……私の知っているメルは、そんなことしない」


声は低く、鋭い。


「予言なんて信じられないーー

予言なんかより私は仲間を信じる」


それを聞くなりエルドリックは、楽しそうに口角を上げる


「じゃあ私はその予言を信じる仲間を信じるさ、」


エルドリックは、軽く息を吐く


「もっとも⸻」


視線を空に向ける

煙の名残が、薄く流れていくのを眺めながら


「私は予言なんて、欠片も信用していないがな、」

「私にとって、その予言は“そう書いてあるだけ”にすぎない」


その言葉に、颯真は思わず眉をひそめた。


「……え?」


シアも、一瞬だけ表情を動かす。


「信用していない?

じゃあ、さっきの話は何」


エルドリックは、肩をすくめる。


「教団が信じている、という事実を言っただけだ」

「私個人の見解じゃない」


あまりにも割り切った言い方だった

そこには、信仰も畏怖もおそらく存在しない

ただの情報としての“予言”


シアの視線が鋭くなる


「……じゃあ、なんであなたは

そんな教団にいるの」


問いは短い

だが、真っ直ぐだった


エルドリックは、その問いを待っていたかのように、口元を歪める


「利害の一致さ」


また即答だった


「私はな⸻」


彼は、ゆっくりと自分の胸に指を当て


「完全生命体を作りたい」


森の静寂が、わずかに軋んだ気がした


「病気でも死なない」

「飢えでも死なない」

「環境が変わっても、死なない存在だ」


淡々と、指を折り列挙する


「壊れない兵であり」

「滅びぬ人間だ」


その言葉に、僕は喉が詰まるのを感じた

あまりに冷静で、あまりに当然のようで

なにを言っているのかすぐには飲み込めない


シアは、表情を変えなかった

だが、杖を握る手に、わずかな力が籠もった


「……それで」


促すように言う


エルドリックは頷いた


「教団も、それを求めていた」

「世界がどんな終末を迎えても、生き残れる人類をな」


視線が、メルヴァンへ向く

値踏みするような、研究者の目


「生き残れれば、それでいいと」


エルドリックは続ける


「研究資金を出してくれる」

「安全な実験室も用意してくれる」

「素材も、惜しみなく提供してくれる」

「控えめに言って最高のビジネスパートナーだ」


さっき折った指を今度は

一つ一つ、開きながら。


「だから入った」

「それだけの話だ」


あまりにも、合理的だった

善も悪も、そこには存在しない

あるのは、目的と手段だけ


シアは少し口角を上げながら返す

「フッ、あなたさっき仲間を信じるとか言ってたくせして随分と軽薄ね」


エルドリックは答える

「さっきのはただのジョークだよ」


エルドリックの視線が、ゆっくりと颯真⸻いや、

颯真のかぶっているメルヴァンへ向く


「教団にとってそいつは排除対象”」

「私にとっては⸻」


ほんの一瞬

研究者の顔が、歪んだ


笑み


「最高の実験素材だ!」


エルドリックは、そこで言葉を切った

森の奥から、かすかな風が吹く

焼け焦げた枝が、ぱちりと音を立てて崩れた


「……だから、今回ここに来たのは」


彼は、肩越しに森を一瞥する

教団の気配がないことを、確かめるように


「別に教団の使いではない

完全に私個人の判断だ」


淡々とした声だった

誇らしさも、後ろめたさもない


「報告すれば、教団は即座に“処分”を選ぶだろう」

「危険因子は排除する。それがあいつらのやり方だ」


エルドリックは軽く笑う


「だが、それでは困る、

解析も、検証も、仮説の証明もできない

何より欲が満たされない」


彼の視線が、再びメルヴァンへ向く

仮面の奥にある“何か”を、透かして見るように


「お前は壊すには惜しすぎるんだ、

奴らは価値をわかっちゃいない

私は世界が壊れようが自分の知識欲を満たしたい」


エルドリックは、はっきりと言い放った


「だから始末しに来たというのは、立前だ」


その言葉が、森に沈む

彼は、愉快そうに笑った


「それに今は好都合でな」


再度指を閉じ、名前をあげる


「あの化け女も、クソジジイも、狙撃野郎も」


一つ一つ、嘲るように


「全員、出払っていると来たものだ」


エルドリックは、見渡して鼻で笑った


「今は下っ端護衛一人に、お荷物が二つと来たものだ」


颯真は息を呑む


エルドリックの視線が、ゆっくりとメルヴァンの仮面へ向いた


「だから」


静かな声で、断言する


「そいつは、もらっていくぞ」


空気が、張り詰めた

シアが即座に一歩踏み出す

杖を構え、魔力を迸らせる


「……随分と舐めてくれるじゃない」


エルドリックはニヤリと笑う

そして⸻指を、鳴らした


バチン!⸻と乾いた音


次の瞬間


ボコッ⸻!

地面が、盛り上がる


土が弾け、根がうねり、木が生える

⸻いや、違う


出てくる


(な、なんだ!?)


ゴゴゴッ⸻!

エルドリックの足元から、巨大な影がせり上がった


枝と幹で組まれた胴体

絡み合う蔦が筋肉のように張り巡らされ、

頭部には、竜の形をした顎


⸻木の、ドラゴン。


その巨体が姿を現した瞬間、森の残骸が一斉に軋んだ


さらに


ボコッ!


周囲の地面から、次々と木人間が這い上がる

⸻だが、前とは数が違う。密度が違う


「予備は、ちゃんと残しておくものだ」


エルドリックは、穏やかに言った


「全てにおいての基本だろう?」


僕の背中は冷え切っている

さっきの地獄を、もう一度

しかも、今度は⸻本命つき


シアが、低く息を吐いた

こっちを少しみて


「……悪いけど今回ばかりは守りきれない

戦おうとしないで、逃げることだけ考えて」


僕は何も言わずに頷く


エルドリックは、ゆっくりと両手を広げる


「安心しろ」

「殺す気はない」


にやりと、歪んだ笑み


こいつは⸻強敵だ


木のドラゴンが、低く唸る


ゴォオオオオォン


その音だけで、森の空気がビリビリと震えた

まるで至近距離花火の振動


また、戦闘が、始まる。

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