第18話 世界維持教団⸻”再命”遂行卿⸻
シアの瞳は、いつも何処を見ているのかわからない
けど、今は違った
目の前の人型の木を、確実に捕らえている
「そのまま伏せておいて、当たったら多分あなた死ぬから」
(……みっともない。)
男ならもっとシャキッとしてろよ。
でも、
⸻そんな自己嫌悪もどうでも良くなる光景が目に飛び込んだ。
シアの瞳が、光を捉える
その視線は、もう迷いもためらいもなかった
コーーッ
薄い青紫の光が、杖の先から柱となって天まで立つ
初めて見る光景に僕は息を飲む
(……なんだ、これは……)
口が動く。低く、力強く、演唱が始まった
『炎よ、闇を裂け。』
オーラが杖に集まる
シュルシュルと凝縮される魔力
静かだが、確実に力が籠められていく
空気が震える
甘く、重く、燃える匂い
魔力が練られ、世界を押し包む
『空を裂き、地を焼け。』
だが、まだ序盤。
時間がかかる
このままでは木人間にやられる
奴らは止まる気がない
⸻その瞬間
二重の声が響いた
『⸻ 絶対空隙⸻』
演唱の最中に、別の声が同時に
普通は不可能
しかし、聞こえた。二つの声が同時に響く
空色の魔法陣が、シアの周囲に幾つも現れる
弾幕となり、木人間を寄せ付けない
ーシュッーーーー=
ーシュッーーーーーーー=
ーシュッーーーーー=
頭上を流星のように飛び交う魔法陣。
圧巻だ
まるで天体ショーのよう
パァン!
弾幕に触れた木人間は、全て吹き飛ぶ
弾ける様に、空色の粒子となって
欠損した体は動かず、完全に止まった
⸻隙が、消えた
演唱は続く
『燃え盛る星の欠片を集め、破滅の序曲を奏で。』
ーシュル シュル シュル
魔力が杖に収束する
空色の魔法陣は吸収され、消えた
代わりに杖の先に、真紅の魔法陣が輝く
光がうねる
空気を揺らす
静かだが杖は、圧倒的破壊力を内包している
『その熱で全てを焦がし、灰と煙に塗り替えろ。』
魔力が解き放たれる直前
ーーシアが告げる
「『終局を告げる虚焔!』」
シアはすぐに杖を逆さまに地面へ突き立てる
キン!
魔力が地面に一気に流れ込む
足元の地面が揺れ、亀裂のようなオレンジ色の光が走る。
ゴゴゴゴ……
地鳴りのような轟音。
次の瞬間——
ベキっ!
ベキ
ベキ
亀裂音が上にむかって上昇してくる
地面が噴き上がる
シアの周囲5mの外に、魔力の柱が迸る
視界は真っ白
仮面越しでも目を瞑っても、全てが白
ドッシュ
ガッ!
轟音と共に、音も消えた
わかるのは、この円から出たら即死だということだけ
⸻
徐々に視界が戻る
耳には高い耳鳴りが残る
胸の奥まで振動が響き、颯真は思わず身をすくめる
地面はズタボロ。亀裂が走り、熱が立ち込める
煤が黒い雪の様に降る
森の空気は煙の匂いで重い
木人間は、消えた
檻のように立っていた植物も灰になり、森の一部が焼き尽くされている
ただ圧倒されて立ち尽くした
シアは何事もなかったかのように、杖を握り直す
「こそこそしてないで、出てきなさい」
ーーすると、
返事をするかのように
ボコッ!
煙の中から音が鳴る
そこにはーー
新芽がひょっこりと顔を出していた
距離にして4メートルほどか
(?さっきまでこんなのなかったよな…)
ザッ!
シアは即座に構える
杖に魔力を纏わせ、戦闘態勢に入る
ベキベキ!
(なっ⁉︎)
新芽はみるみる成長する
根が地面を蹴り、枝が伸び、あっという間に人型へ変貌
しかし先ほどの木人間とは違う
生きている。呼吸があり、意思が感じられる
皮膚が形成され、手足の形がはっきりしていく
そして口を動かした——
「いやはや、予想外だ」
どこか胡散臭い声
颯僕は思わず身をすくめる
「今連れている大半の”樹鬼”を焼き払われるとは」
その木人間はやがて完全に人の姿となる
颯真の目に映った顔——
僕には見覚えのある顔
あ……
長く、薄茶色の髪
耳がやや長く、目つき鋭く、どこか胡散臭い
ギルドの手配書で見た顔と同じだった
⸻エルドリック・グリーフィン
説明はいらない、こいつが
操り主だ
シアが杖を構えたまま低く問いかける
「一体、なんの用?」
木人間使い、いや樹鬼使いは薄く笑った。
「決まっているだろう、化け物を始末しに来たんだ
世界を滅ぼされないようにな」
颯真は息を呑む
「封印できたと聞いたのに、逃れているのを見てしまって
居ても立っても居られなくなってな。」
声は軽いが、威圧感は凄まじい
「全く、あいつは爪が甘い」
ため息混じりの呆れ口調。少し笑っている
樹鬼使いはゆっくり、颯真に視線を向けた
「見ない奴だな……新入りか?」
僕の心臓が跳ねる
目の前の人物の威圧感は、ハッタリではない——
⸻強敵。
樹鬼使いは口元を歪め咳払いをする、
そして自己紹介を始める
「では、自己紹介だ。
私は世界維持教団、十三の遂行執位が一つ、
⸻ 第漆執権
⸻ ”再命”遂行卿。
エルドリック・グリーフィン。」
空気が一瞬凍る。
森の葉も、風も、鳥の声も止まったような感覚。
全員の視線が⸻ 再命遂行卿⸻に注がれる。




