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第十六話 断たれた退路

颯真は、一度ゆっくりと息を吐く。

肩の力を抜くつもりだったが、心臓はまだ少し早鐘のように打っている。

目の前で、シアが指先に微細な光を走らせている。



「次は凍結よ」



小さく言う。魔力の流れを掌に集中させる手つきは、先ほどの火球と同じ。

でも、違う。

冷気が指先から漏れる感覚は、熱の時とは別の鮮やかな手応えだ。



「まずは感覚を掴むの。相手の動きを止めるイメージで――」



「演唱はー「凍れ(コールド)」ー」



颯真は深く息を吸い、手を前に突き出す。

掌の奥に冷たい気配が生まれる。



凍れ(コールド)



小さく、しかし確かに、指先から霜のような光が漏れた瞬間、

倒木に触れた一枝がぱり、と音を立てて凍る。



(……うわ……これも来た……!)



自分の意志に魔力が応える感覚。胸の奥が少し熱くなる。いや、冷気なのに熱い、

とでも言うべきか――。

シアは少しだけ眉を上げ、興味深そうに頷く。



「上出来。じゃあ残りの毒集め魔法でやってみなさい」



颯真は剣を脇に置き、慎重に森の中を進む。



1匹、2匹、3匹……



緑色の小瓶を手に、毒針に触れないように魔力を使いながら絞り出す。



――気づけば5匹分の毒を集め終わっていた。

特に大きな危険もなく進む。

時間の感覚は、魔法の集中で少し歪む。



「……ふう」



ようやく深く息を吐く。掌の感覚はまだ残っているが、少し軽くなったような気がした。

森の奥は依然として静かで、鳥の声すら遠くに感じる。





シアは背中から小さな袋を取り出し、軽く膝をついて中身を確認する。



「じゃあ、一旦休憩にしましょうか。そろそろ昼よ」



颯真は小さく頷く。



ここまで集中し続けた頭の中に、昼食という“日常の匂い”がふわりと差し込む。

魔法の緊張感と、森の静寂の隙間に、ほんの少しだけ日常が戻った瞬間だ



颯真は土手に腰を下ろし、サンドイッチをかじる。

口の中にパンとハムの味が広がる瞬間、緊張がすっと抜けた気がした。



「お前、すごいよな」



メルヴァンが突然口を開く。声は軽いのに、どこか楽しそうだ。



「初級とはいえ、あんなにすぐ魔法覚えちゃうんだから。

俺は魔法使えないんだよね、才能っていうの? いいなー」



シアが眉を少し上げ、軽く鼻で笑う。

「まあ、メルができるのってただの魔力放出だもんね。桁違いだけど」



颯真はむにゃりと口元を抑る、サンドイッチが出ないように



「才能じゃないよ、きっと。ただ……妄想するのが好きなだけ」



僕には才能なんかない、だから「もしこんな才能があったら?」

という妄想をするのだ。



メルヴァンの瞳が小さくキラリと光る。



「きっと好きっていうのは才能なんだと思うぜ! 多分な!」



「そんなもんかな….」



手元のサンドイッチに視線を落とす、心の中はまだ興奮でざわついている。

火球の感触、凍結の冷気。掌に残る力の余韻が、まだ消えていない。



シアが口を開く。



「あなたの世界って、どんなところなの?」



颯真は少し考え、空を見上げる。遠くに森の木漏れ日が揺れている。



「うーん……なんというか、味気のないところだよ。

予定はないけど、色も匂いも、結局全部決まりきってるみたいな。」



「あなたと同じ、地球?の日本から来たっていう継承持ちの人も言ってたわ。

味っけのないところだって」



シアの瞳は真剣だ。でも、その声には少しだけ羨望が混じっていた。



「でも私は楽しみ。だって、非日常だもの」



颯真は頷く。

でも、心の奥では少し揺れていた。





シアは立ち上がる。

背筋を伸ばし、とんがり帽子が影を落とす

風に揺れる髪の先が光を受けて細かく揺れる。



「よし、休憩終わり。ほら、残りも集めちゃいましょう」



気づけば手元にあったサンドイッチは消えていた。

――一体誰が食べたのやら



森の奥に目を向け、颯真は手をかざす。



「サーチ――」



魔力の波を掌に集め、周囲を探る。

だが、

⸻いない。

いない、いない、いない。

空っぽだ

昼食前に少なくとも近くにいた三体のマッドピラーは、どこにも見当たらない。



(……)



移動した? いや、何故だかそんな気はしない。

1番合理的で説得力がある。だが、おそらくそれは間違いだ。

微かに漂う魔力の痕跡も、動いた形跡もない。

まるで、


……消えた。


神隠し? いや、――サソリ隠しか。



シアの声が森の静寂に響く。



「おかしい……マッドピラーがいないわね」



颯真は視線を巡らせ、森の奥に広がる木々を見つめる。

鳥も、微かな虫の羽音さえ、今日は妙に遠く感じる。

森が風に揺られざわざわと音を立てる。



颯真は何度も魔力を集中させ、サーチを繰り返す。



「……いない」



低く呟き、森の木々の間を注意深く見回す。

視界の端で揺れる葉、影に潜む小動物の気配。

反応はゼロだ。



シアも何度もサーチを繰り返す。



「……やっぱり、いないわ」



眉間に小さな皺が寄る。

普段は冷静な彼女の声にも、わずかな困惑が混ざっていた。



「……どういうことだ?」



颯真は思わず声に出す。



「昼前には確かに三体は近くに……」



言葉が途中で止まる。説明できない感覚が、胸の奥を圧迫する。



森全体が、時間ごと閉じたような――迷宮のような感覚を纏っている。



「少し場所を変えましょう。何もここに固執する理由もない」



シアの声は低く、でも決意が含まれている。

颯真は頷き、足を踏み出す。



湿った土の感触、踏みしめる落ち葉の匂い、

地面を踏み締め前に進む



だが、道は……消えた。

これから行くはずだった道が

いつでも戻れた道が、



ない



気づけば道がない

戻ろうとしても道がない


植物が檻のようになっている

まるで虫籠だ



一行は初めて、はっきりと嫌な予感を自覚した。

これは罠だと断定するには、根拠が足りなかった。

だがこれではっきりとした。



「……閉じ込められた……?」



⸻これは人為的で明らかに敵意のある罠であると

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