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第十五話 まるでゲームの中のよう

森は、異様なほど静まり返っていた。



倒れ伏したマッドピラーの死骸。

折れた木。

抉れた地面。



その中心で、颯真は剣を握ったまま立ち尽くしていた。



「……すげえ……」



思わず漏れた呟きは、静寂に吸い込まれる。



次の瞬間――



「――何、考えてるのよ!!!」



鋭い声が森を切り裂く。



颯真の肩がびくりと跳ねた。

振り向くと、シアが信じられないものを見るような目でこちらを睨んでいる。怒りと焦りが剥き出しだ。



(やばい……やっちまった……)



直感が走る。指示を待たずに突っ込んだ――その危険な行動が、シアを本気で怒らせたのだ。



「まあ、でも、倒せたし……」

思わず言い訳が口をつく。



「結果論で話さないで!!」



声が震える。



「もし残りの二体が挟撃してきてたら?」

「毒が掠ってたら?」

「その 能力(アビリティ)が途中で切れてたら――!」



ぐっと力が込められ、颯真の体が胸ごと引き寄せられる。

肩や背中がぎゅっと緊張し、手のひらに汗が滲む。



「あなた、死んでたかもしれないのよ!」



言葉が胸に突き刺さった。



「大体、あなたおかしいのよ……」



シアの声が再び鋭く響く。



「洞窟で助けた時だって魔物に襲われて、死にかけたでしょ?」

「それなのに、魔物が怖くないの?死にたいの?」

「一体どういうつもりなの!」



颯真は言葉を失った。胸の奥がぎゅっと締め付けられる。

その通りだ――自分は確かに危険な行動を繰り返していた。



(……確かに、俺はこんなことを平気で……?)



その問いに対する答えはすでに出ている。



現実味が未だに足りないのだ。



急に異世界に来て、未知の力を手に入れ、魔法も使える。

だから、頭のどこかで「これは現実じゃない」と思っている自分がいた。



死ぬことの恐怖よりも、戦いの興奮や力を試す気持ちが勝ってしまう

――少しおかしいのは自分でも分かっていた。




(これは現実で、死ぬ時は死ぬんだ……)



(……少し、自分を戒めないとな……)



心の奥で、冷静な自分がそう囁く。



「……ごめんなさい」



颯真は剣の柄を握り直し、申し訳なさで目を逸らす。

心臓が早鐘のように打ち、手のひらの汗を感じながらも、言葉に力を込めた。




「指示を待たず無視して突っ込んで……危険だった。本当にごめん」




シアは一瞬だけ目を細めた。

その視線は鋭いが、燃えてはいない。火種を踏み消したあとの、熱だけが残っている。



「指示を待たずに突っ込むのはやめなさい。危険すぎる」



「次に同じことをしたら、この任務は私一人でやる。あなたは後方待機。意見も却下」



そこで一拍、間を置く。



「……それと」





「あなた、少し自己中心的すぎるわ」



声音は低い。冷たい。

感情を込めない分、逃げ場がない。




「……勘違いしないで」



声は静かで、抑揚がない。



「ここにいるのは、あなたの希望でしょう。使命でも義務でもない。あなたのわがまま」



一拍。



「だから、自重して」



視線だけが、はっきりとこちらを捉える。



「次にまた自己中心的なことをしたら――

仲間としてじゃなく、人として扱う気はない」



死刑宣告だ



その声は落ち着きを取り戻していたが、まだ真剣さを失っていない。



「……わかった」



颯真は小さく頷く。

これ以上迷惑はかけられない。ここにいるのは使命でも正義でもない、

そうだ、僕のわがままなのだからだから。





シアは深くため息をつき、腰を落としてマッドピラーの死骸のそばに膝をつく。

小さなバッグから小瓶を取り出し、手早く魔力を集中させ、指先に微細な魔法の光を走らせる。



「じゃあ、毒の取り方を教えるわ。まずは、こうやって毒針に触れないように魔力で刺激を抑えて絞り出すの。



この緑色の液体が毒、触らないようにね。



そうしたらこの瓶に入れる。ほら、やってみなさい」



颯真は慎重に手を伸ばし、剣は脇に置いたまま。



(えっと、まずは針に触れないようにして……絞り出すイメージ……)



毒針の付け根から先端に向けて手をかざしながら動かす。

緑色の液体が徐々に出てくる、すかさず瓶を近づけて毒を採取する。



(お、上手くいったか……?)



シアはその手元をじっと見つめ、眉を少し上げて不思議そうな表情を浮かべる。



(魔力の総量が、かなり増えてる……?やっぱり何かおかしい。

 あの馬鹿力もそう。)



(メルがいくら強いとはいえ、 自壊(デストラクション)でもない 不安定(トレモア)型がここまで引き出せるはずが……

まあ考えても意味ないか。)



立ち上がり、颯真の肩越しに視線を向ける。



「上手くできてるわ、結構上手……


それと、メルヴァンをかぶっている状態だと、あなたの魔力総量がかなり増えるみたい」



颯真は目を輝かせ、少し前のめりになって聞く。



「マジか……じゃあ、強い攻撃魔法とか使えたりするの?」



シアは落ち着いた顔で、手元で魔法陣を描き、指先に光を走らせる。



「ええ、もちろん。残りの毒集めは魔法を使ってやりましょう」



片手を上げ、二つの魔法を示す。



「今回教えるのは二つ。

一つは小規模な火球。攻撃や威嚇に使えるわ。

もう一つは凍結。敵の動きを鈍らせるのに有効よ。どっちも初級魔法、簡単よ」



颯真は拳を軽く握り、興奮した表情で頷く。



(……やっぱりこの 能力(アビリティ)、すごく強いんだ。これで魔法をブッパな….

まて、だめだだめだ、浮かれるな……少し落ち着け、自分……自重だ自重)



颯真は一度、ゆっくりと息を吐いた。

剣から手を離し、両足を肩幅に開いて立つ。



シアが少し距離を取り、手本を見せるように指先を前へ向けた。



「火球は単純よ。魔力を一点に集めて、イメージを固定するだけ」

「熱、膨張、爆ぜる感覚を意識して」

「演唱は――」



一拍置いて、静かに告げる。



「『燃えよ(イグナ)』」



その瞬間、シアの指先に小さな火の玉が灯る。

拳ほどの大きさだが、周囲の空気がわずかに歪み、確かな熱を放っていた。



「これを、あの倒木に」



指先が示した先、少し離れた場所に折れた木が横たわっている。



「最初は威力を抑えなさい。暴発させたら、また怒るから」



それは忠告であり、予告でもあった。



颯真は小さく喉を鳴らし、もう一度心を落ち着かせる。



ライト、サーチ――

これまで教わった魔法で、すでに一つ気づいていたことがある。



重要なのは――想像だ。

演唱は、あくまで引き金に過ぎない。



(熱が……集まって……圧縮されて……前に放たれる……)



右手を前に伸ばす。

掌の奥で、じわりと熱が生まれた。



(うわ……来た……!)



流れる魔力が、これまでよりもはっきりと、自分の意志に応えている。

胸の内側から溢れた力が、腕を通って掌へと集中していく感覚。



――その最中、思う



(……日頃から妄想しておいてよかった!……)



あまりに場違いな考えに、内心で苦笑する。



ゲーム、漫画、小説。

「もし自分が魔法を使えたら」

そんな空想を、何度となく繰り返してきた。



まさか、それが役に立つとは、過去の自分にあったら1000円渡したっていい。



「『燃えよ(イグナ)』」



小さく、しかしはっきりと呟く。



「ボフっ!」



掌の前に、拳大の火球がぽっと灯った。

揺らめきながらも、形は崩れず、安定している。



「……!」



颯真の目が大きく見開かれる。



「そのまま、前へ。放すだけ」



シアの声に導かれ、颯真は腕を軽く振り出した。



火球は弧を描き、倒木に当たって――

ボッ、という控えめな音と共に弾ける。



焦げた木の匂いが、静かな森に広がった。



「……できた」



思わず漏れた声は、わずかに震えていた。


シアは腕を組み、小さく息を吐く。



「上出来よ」

「魔力量の制御も……ね」



颯真は、嬉しそうに小さく笑った。



「ありがとう」



⸻そして、胸の奥で静かに思う。


やっぱりまだ現実味はない。

けれど――これは確かに現実で。

だから、この夢みたいに色づいた現実を、受け止めて行くしかないのだと。



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