第十一話 いつもより色のある朝
鳥のさえずりが、静かなサブ拠点に響いた。
窓から差し込む朝日の光が、木製の床を淡く照らしている。
颯真は瞼を重く開こうとした――が、ドアの方が先に開いた。
元気な声と共に、シアが部屋に入ってくる。
「早く起きて、ギルドに朝ごはん食べに行こう
こんなに美人に起こしてもらえるなんて、幸せものね」
颯真は一瞬、視線を止めた。
(え? なんか性格変わってない……? 吹っ切れたのか? 大丈夫かな……)
昨日まであんなに機嫌悪かったのに。
まあ、機嫌が戻っているなら、それでいい。
不機嫌でいられると、少し気まずい。
「おはよう」
シアの声に少し照れくさくなりながらも、颯真はぎこちなく頭を上げる。
(……今日は、ちゃんと朝を迎えられたな……)
「顔洗って目を覚まして、ほらギルドに行くから」
シアに促され、颯真は渋々洗面所へ向かう。
洗面を終え、昨日みんなで集まった場所へ戻ると、フェンドリードたちはすでに出発しているようだった。
机の上には、「魂宿鬼面」だけが静かに置かれている。
颯真は仮面に向かって、ぎこちなく声をかけた。
「おはよう、メルヴァン」
仮面の中から、微かに声が響く。
「今からギルドに飯を食いに行くのか?
なら俺も連れて行ってくれ、一人は退屈だ」
颯真は苦笑いを浮かべる。
シアは腕を組み、小さくため息をついた。
「仕方ないわね……じゃあ、三人で行きましょうか」
颯真は仮面をそっと手に取り、準備を整える。
ーーーーー
外はまだ人通りが少なく、冷たい空気の中に朝日が暖かく差し込んでいた。
颯真はシアとメルヴァン2人と一つを連れ静かな街道を歩いた。
通りにはほとんど人影もなく、朝日が建物の隙間から差し込み、石畳を淡く照らしている。
やがてギルドが見えてきた。
木製の扉と高い天井、重厚な梁が印象的だ。
入口付近に人はほとんどおらず、まだ朝の静けさが残っている。
颯真は少し緊張しながら、ドアを押し開けた。
中は、木の匂いと静かな空気が漂っている。
窓から差し込む光で、机や椅子が柔らかく照らされ、かすかにスープの香りが混ざる。
まだ誰も食事をしておらず、冒険者の足音も聞こえない。
落ち着いた朝の空気が流れていた。
(昨日夜に食べに来た時とは大違いだ)
シアは颯真の横で小さく笑いながら言った。
「ほら、まだ人が少なくて静かでしょ? 朝に来るのが一番落ち着くのよ」
颯真は頷き、用意された席に座った。
メルヴァンはテーブルの上に置かれ、シアのとんがり帽子と共に静かに存在感を放っている。
注文を終えると、しばらくして料理が運ばれてきた。
朝食はシンプルだが、温かいパンとスープ、フルーツが並ぶ。
颯真は一口ずつ味わいながら、胸の内で少し異世界を堪能している自分に気づく。
(……こうして異世界の朝を過ごせるだけでも、なんだかテンション上がるな!)
ふと、颯真はメルヴァンの仮面に目を向けた。
「飯、食べなくていいの?」
仮面の中から、なんとも言えない声が響く。
「食えるわけないだろ、煽ってんのか? ಠ_ಠ」
颯真は思わず吹き出しそうになる。
颯真は笑いを堪えながら、前のシアに目を向けた。
「……ねぇ、今日は何をする予定?」
シアは少し考え込むように眉をひそめた。
「特に決めてないけど……逆に、あなたは何かやりたいことあるの?」
そう聞かれて、颯真は黙り込んだ。
パンを見て、スープを見て、結局どちらも見ていない。視線だけが思考の代わりをしていた。
(やりたいこと、か)
浮かんだ答えは、ひどく分かりやすくて、ひどく自分勝手だった。
言えば嫌われる。
少なくとも、好かれる方向ではない。
でも――
せっかくここまで来て、
出かけた言葉を飲み込みたくはない、
多分叶わないとは思うが
颯真は顔を上げる。
ほんの少しだけ、申し訳なさそうに
「魔物と戦いたい!」
シアは驚きの表情を見せ、一瞬口を開けたまま固まる。
「え、……?」
メルヴァンの仮面が、いつもの皮肉混じりの声で口を挟む。
「お前、本気か?洞窟でのこと忘れてんじゃないだろうな…」
颯真は真剣な顔でうなずいた。
「うん、忘れてはない。でもどうしてもやりたいんだ」
なぜかはわからないが死にかけたはずなのに不思議と怖さがないのだ
シアはしばらく考えてから、小さく笑った。呆れたような感じに
「……無理よ。だって魔物討伐の免許を持ってない限り、勝手に魔物討伐するのは違法なんだから」
颯真は一瞬、言葉に詰まった。
「え……そうなの?」
「そりゃそうよ。未登録者が魔物を倒したら、最悪罰金か拘束よ」
颯真は顔をしかめながらも、少し考え込む。
(……そっか、ルールがあるんだな。)
まあルールがなくても肯定される気はしないが
ただ、シアが予想を超える発言をする
「……今日は特別に、ちょっとだけ私が付き合ってあげる
ただし、私がギルドで受けた簡単な依頼の手伝いね」
颯真は驚き顔で見返す。
「え、本当に!?いいの?」
メルヴァンの仮面が、わずかに揺れて声を響かせる。
「……お前ら、本気でする気か?ヴァルカに怒られるぞ、てかギルドでこんな話するなよな」
シアは肩をすくめた。半ば諦めた感じだ
「勝手に一人で行かれるよりはましだもの。
それにバレなきゃ大丈夫。まあ自分の身を守る方法を教えるいい機会かと思って」
颯真は深く頷いた。
「わかった。安全第一で行こう」
なんというか本当に申し訳なくなった
メルヴァンの仮面は、少し呆れたように響いた。
「……朝から元気すぎるな。まぁ、退屈も吹き飛ぶか」
ご飯を食べ終え、席を立つ。
朝日の光が石畳に柔らかく反射し、確実に好感度が底についた僕を温かく包み込んでいた。




