第7話 再会
「せ、仙狐族だって……!?」
ガオランは床に手をつき、なんとか体を起こしながら呟く。
掌底によるダメージは甚大であり、内臓が複数損傷し、骨も何本かヒビが入っている。しかしガオランは驚異的な生命力のおかげでまだ活動できていた。
(俺でも知ってるぞ、仙狐族と言えば太古の時代に活躍した伝説の種族じゃねえか! なんでそんな奴が俺の前に! しかもクロウの手下だって? あいつは死んだはずだろうが!)
ガオランは心の中で悪態をつきながら立ち上がる。
体中が痛み、今すぐにでも横になりたい衝動に駆られる。しかしここで倒れては確実に殺されてしまう。ガオランは痛みを押し殺しなんとか立ち続ける。
「頑丈ですね。殺さないよう手加減はしましたが、立てるなんて」
「はあ、はあ……適当抜かしてんじゃねえぞ。俺を生かす理由があるってのか」
「ええ、もちろんです。だってあのお方の復讐を私が横取りするなんてあってはいけませんもの」
「あの方? 復讐? なにわけのわかんねえことを……誰が俺に復讐してえってんだ」
ガオランは話を長引かせて回復を図る。
そろそろ逃げることができるくらいには回復できそうだ……と思った瞬間、それはやって来る。
「そんなの、俺に決まってるだろガオラン」
男性の声と共に、扉がキィと音を立てて開く。
そして黒衣を身にまとった青年が一人、部屋の中にやってくる。
ガオランは一瞬、その人物が誰か分からなかった。しかしその人物と目が合ったその時、彼が何者なのかを直感的に理解する。
「クロウ、なのか……!?」
「ああ。久しぶりだなガオラン。お前らに会うために地獄から戻ってきたよ」
死んだはずのクロウが目の前に現れ、ガオランは激しく動揺する。
あれほど痛めつけ、更に深淵穴に落としたのに生きているはずがない。しかし目の前の人物がクロウ本人であると、ガオランの直感が彼に伝える。
「クロウ様! もう来られたのですか!」
「ああ、この建物の周囲はもう閉鎖できたからな。これでガオランはもう逃げられない。それもジーナがガオランの気を引いてくれていたおかげだ。ありがとう」
「とんでもありませんクロウ様! 当然のことをしたまでです。この身はあなた様のもの……なんでも命じてください……♡」
ジーナはそう言うと甘えるようにクロウに身を寄せる。
クロウはそんな彼女を労うようにその頭をなでる。するとジーナのお尻から生えたもふもふの尻尾が嬉しそうにぶんぶんと動く。
狙っていた女がクロウに甘えているのを見て、ガオランは怒りと嫉妬に包まれる。
「さて……ガオラン。俺がここに来た理由は分かるな?」
「へっ、復讐って言いてえんだろ? さんざん痛めつけてやったからなあ」
ガオランはクロウと距離を取りながら言う。
クロウは昔より体が大きくなり成長している。強くなっているのは確実だろう。
しかし仙狐族のジーナより強いとは思えなかった。今生きているのもなにかの死霊術の効果、仙狐族を従えているのも死霊術で洗脳でもしているのだろうと当たりをつける。
(だったら勝ち目はある! 速攻でクロウを殺せば洗脳も解けるはずだ!)
ガオランは逃走から殺害に目標を変更し、臨戦体勢を取る。
するとそれを見たクロウはジーナを下げて自分が前に出る。
「そうだよなあ、復讐は自分の手でやりてえよなクロウ。安心しろちゃんとキッチリもう一回殺してやるからよ」
「……やけに喋るなガオラン。俺が怖いのか?」
「抜かせっ!」
ガオランは一気に駆け出し、クロウに殴りかかる。
クロウの使う死霊術は底が知れない。ならば死霊術が発動するよりも早く殺せばいい。ガオランは以前のクロウであれば知覚できないほどの速度で接近し、頭部めがけて拳を放つ。
(――――勝った!)
勝利を確信するガオラン。
しかしその会心の一撃を、クロウは片手でたやすく受け止めてしまう。
「……は?」
なにが起きたのか分からず呆然とするガオラン。
するとクロウはそんな彼の顔面に固く握った拳を叩き込む。
「が……っ!?」
鼻から脳天に突き抜ける鋭い痛み。
ガオランは一瞬よろけるが、姿勢を立て直し再びクロウに襲いかかる。
「ありえねえ……こんなのなにかの間違いだ!」
ガオランは拳に魔力を込め、クロウを殴りつける。
その技の名前は『破魂拳』。ガオランの必殺技であった。
当たれば竜の鱗すら砕く拳がクロウの顔面に突き刺さる。拳から伝わる確かな手応えに、ガオランはニィ、と笑みを浮かべる。しかし、
「……はあ。この程度か」
拳を下げると、そこには呆れた表情を浮かべるクロウの姿があった。
破魂拳が直撃したにもかかわらず、クロウは傷一つ負っていなかった。
「お前らに勝つために二年間鍛えたが……どうやら備えすぎたみたいだな。まさかガオランがここまで弱かったなんて」
「馬鹿な……ありえねえ! あのクソザコのクロウが俺の攻撃に耐えただと!?」
「俺は変わったんだよガオラン。死霊術だけじゃない、魔法、格闘術、剣術にその他の技術……英雄たちに鍛えられ、俺は強くなった。それも全てお前たちに復讐するためだ」
クロウの体から恐ろしい魔力が放たれ、ガオランは「ひ……っ」と怯えた表情を見せる。
ここに来てガオランはようやく理解した。
自分たちの仲間だった弱いクロウはもういない、ここにいるのは復讐の鬼と化した化物なのだと。
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