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第5話 地方都市ボールット

 オルデウス神王国領土内、地方都市ボールット。


 大都市の経由地点にあるこの都市は、貿易で栄えた都市だ。

 しかし近年は治安が悪化したことにより経由する商会が減り、以前より賑わうことも少なくなっていた。


 そんなボールットであったが、そこをある人物が拠点として使い始めたことでにわかに活気を取り戻しつつあった。


「はあ、はあ……!」


 ボールットの街道を一人の男が駆ける。

 男は麻袋を抱えており、その中には盗んだ貴金属が雑多に放り込まれている。


「ま、待て! それを返してくれ!」


 男を追うのは恰幅の良い商人。

 商人は積荷から少し目を離した隙に、商品を奪われてしまっていた。最近はボールットの治安が悪化しこういった盗難が増えていることは把握していた。しかし一瞬の隙を突かれ盗まれてしまった。


 商人は一生懸命走るが、泥棒の足は速くその距離はどんどん離されていく。街道には他にも人がいるが、助けようとすれば返り討ちに遭う危険がある。気まずそうにしているだけで助けようとはしない。


 このままだと逃げられてしまう。商人は絶望するが次の瞬間ある人物が泥棒の行く手を塞ぐように現れる。


「そこまでだ。俺の縄張りでこれ以上好き勝手やらせねえ」


 現れたのは鍛え上げられた肉体を持つ、赤髪の男。

 その人物を見た泥棒は悔しげな表情を浮かべ、その人物の名前を呟く。


「ガオラン・ローエン……!!」

「はっ、盗っ人でも俺の名前を知ってるか。じゃあ逆立ちしたって英雄おれに勝てねえことは分かんな?」


 ガオランと呼ばれた男は「ニィ」と笑みを浮かべる。


 ガオラン・ローエンはかつて勇者アレスと共に魔王を倒した、伝説の拳闘士。英雄だ。

 魔王を倒し英雄となった彼はこの都市に拠点にし、自警団のような活動していた。


「来な。遊んでやる」


 拳を構えるガオラン。

 その構えは堂に入っており、その男が熟練の戦士であることを窺わせる。


「うるせえ! そこをどかねえなら……死ねっ!」


 泥棒は懐から短剣を取り出すと、行く手を塞ぐガオランに切りかかる。

 するとガオランは目にも留まらぬ速さで拳を打ち込む。


「遅ェよ」


 短剣が突き出され、体に命中するより速く数十発の拳が泥棒の肉体に打ち込まれる。

 その一発一発が必殺の威力を秘めており、そのラッシュを食らった泥棒は短剣をその場に落とし、自身も倒れる。


「あが、が……」

「んだよもう終わりか。張り合いがねえな」


 ガオランはつまらなそうにそう言うと、倒れた男が持っていた麻袋を拾い、追いついた商人にそれを投げて返す。


「ほれ、もう盗られんじゃねえぞ」

「あ、ありがとうございますガオラン様! このご恩は忘れません!」

「別にたいしたことはしてねえよ。忘れちまいな」


 ガオランはだるそうに言う。

 そんな様子を見た都市の市民は、次々に彼に声援を送る。


「ありがとうガオラン様! あんたはここの英雄だ!」

「ガオラン様万歳!」

「いつも助けてくれてありがとう!」


 口々に彼を褒め称える市民たち。

 ガオランは「へっ、うるせえ奴らだ」と面倒くさそうに吐き捨てるとその場を後にする。

 市民はそんな彼の姿が見えなくなるまで、彼に声援を送り続けるのだった。


◇ ◇ ◇


「かーっ! これだから英雄様はやめられねえなっ! あんな雑魚潰しただけで金になるんだからよ! もう面倒くせえ冒険なんざやれねえな」


 ガオランは上機嫌にそう言うと、高そうなソファにドサっと座る。

 ここは彼の自宅兼事務所。中には彼の部下が複数人おり、彼の仕事をサポートしている。


「で、どうだ。さっきの奴はどんくらい隠し持ってたんだ」

「はい。盗賊ギルドの一員でしたが、アジトにかなり隠し持っていました。金貨が入った箱が4個に、魔道具もありました。売り払えば結構な額になるかと思います」

「オッケーオッケー、全部換金しとけ。足がつかねえように気をつけろよ。英雄様が盗品をポッケバイバイしてるなんてバレたらカッコ悪いからな」


 英雄となったガオランは、冒険者としての活動を中止していた。

 そしてこの都市で盗賊を退治し、盗賊が持っていた金品を自分の物として蓄えていた。おかげで冒険者として活動していた頃よりもずっと懐が暖かくなっていた。


(こんな地方都市の管理権を貰った時はムカついたが、まあそれはそれでやれっことはある。ここで力を蓄えて、もっともっと偉く金持ちになってやる……!)


 魔王を討ち取ったアレスたちは英雄となり、様々な褒美を得ていた。

 地方都市の管理権を貰ったガオランは外れくじを引いたと最初は怒っていたが、今はこの立場を気に入っていた。

 治安は悪いが、おかげで盗品を簡単に入手することができ、うまい汁を吸うことができた。しかも格下を倒すだけで市民からは褒め称えられる。

 自己顕示欲の高いガオランはここでの生活を気に入っていた。


「金目のもんは分かった。他のもんはあったか?」


 ガオランは下卑た笑みを浮かべながら尋ねる。

 その言葉の意味を察した部下は、手持ちの資料を見ながら答える。


「はい。女性の奴隷を四人ほど隠し持っていました。顔は悪くないかと」

「いいねいいね。もちろんそいつらのことは他に知られてねえよな?」


 ガオランの言葉に部下は頷く。


「良くやった……上出来だ。そいつらは俺の別宅に送っとけ」

「かしこまりました」


 ガオランは笑みを堪えながら命じる。

 

(くくく……たまらねえ。冒険者をやってた時は苦労していた女の調達がこんなに楽なんてな。いくら使い潰しても向こうから俺のもとにやって来てくれるからなあ)


 ガオランが本気を出せば、この都市の治安は他の都市並みに良くなる。

 しかしあえて治安が不安定な状況を維持することで彼は甘い汁を吸っていた。治安が良くなってくると裏から手を回し、犯罪組織を呼び込むようなことも行なっていた。


(マッチポンプ最高サイコォー! 最高だぜ英雄って奴はよぉ!)


 ガオランは人生の春を謳歌していた。

 心の中で高笑いしていると、扉が開いて部下の一人が入ってくる。


「ガオラン様に会いたいと申している商人が来ているのですが、どうしましょうか」

「ん? 商人だあ? 今楽しい話をしてんだから他の奴に相手させろ」


 興味なさそうにそう言うガオランだったが、部下の次の言葉で態度が一変する。


「ガオラン様に利益のある話と言っていましたが大丈夫でしょうか? それにその商人はかなりの美女だったのですが……」

「なんだって? それを早く言えよ。くく……いいねえ、賄賂ってわけか」


 これまでもガオランと商売をするために女性を賄賂として渡してくる組織はあった。今回もそのたぐいだと理解したガオランは、それを受け取ることにする。


「通せ、話を聞いてやる」


 ガオランは早速その商人を呼ぶ。

 楽しみそうに彼女の到着を待つガオラン。


 ――――しかしその選択こそが彼の地獄の始まりであったことを、彼はまだ知らなかった。

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