第15話 復讐を終えて
その後の顛末。
グリュスベルクはあの後、問題なく復興したみたいだ。
オークゾンビたちは兵と騎士のみを襲わせるよう命令していた。一般人に手は出してないし、あまり街に損害も出していない。
赤薔薇騎士団という最大戦力が消えてしまったのはグリュスベルクにとって痛手であるが、まあ問題ないだろう。元々あの近辺には強力なモンスターはいない。
活躍できる場所がなかったからこそ、赤薔薇騎士団は腐ってしまった。今後は俺がこき使ってやるとしよう。
ちなみに騎士たちとエルザの死体はこっちで用意し置いておいた。
もちろん偽物だが、本物の素材を使って作った俺の自信作だ。死霊術師でもない奴らに見抜かれることはないだろう。
――――と、そんなことより大事な用事がある。
無事エルザへの復讐を果たした俺は、アリシアと共にリト村に赴いた。
「お待ちしておりました、クロウ様。この度は私たちを救っていただき、そして無念を晴らしていただきありがとうございます」
村に行くと、早速村長のジギィにそう頭を下げられた。
他の村人たちも集まっており、同じように頭を下げている。配下たちと同じ感じになってしまってなんともやりづらい。
「気にしないでくれ。礼を言いたいのはむしろこっちだ。ここの人は俺の情報を隠し通してくれた。おかげで今後も変わりなく動ける」
王都に存在を知られてしまったら、計画を変更しなければいけないところだった。
しかしそうならなかったので、じっくり計画を進めることができる。俺は彼らに心から感謝していた。
そしてだからこそ、責任も感じていた。
「俺たちに関わっていたら、今後も危険な目にあう可能性がある。そうならないためにも記憶を消させてくれないか? 俺たちのことを忘れれば、もう同じ目にあうことはないだろう」
我ながらいい提案だと思った。
せっかくできた繋がりを消してしまうのは惜しいが、彼らを危険に晒すのは気が引けた。
きっと引き受けてくれるだろうと思っていたが……
「せっかくの提案でございますが、固辞させていただきます」
「なに? どうしてだ、理由を聞かせてくれ」
「簡単な理由でございます。我らは今まで王国民として、真面目に暮らして参りました。しかしその結果があれでございます」
村長の言う「あれ」とは騎士団による虐殺だろう。
彼らはなんの罪も犯していないのに、自国の騎士に殺された。赤薔薇騎士団が王国の命で動いていたわけではないとはいえ、王国に対する信頼が瓦解するのは不思議ではない。
「起きたことを忘れ、王国民として再び過ごすなど、私たちにはできませぬ」
「……ならどうする気だ?」
「はい。クロウ様が認めてくださるのであれば……私たちもあなた様の配下に加えていただきたいのです」
村長はまっすぐ俺を見つめながら、そう言う。
他の村民たちも同じ気持ちのようで、誰もその言葉に異論は唱えず俺のことをじっと見ている。どうやら俺がいない間に話はまとまっていたみたいだ。
「いいのか? 俺は王国だけでなく、他の国とも事を構えるつもりだ。当然配下になれば、危険な目にあう確率は高くなる。平和な暮らしを捨て、本当に俺について来れるのか?」
「はい。私たちの心は決まっています。不作の時も手を差し伸べず、その上私たちに手をかけた王国ではなく、強く慈悲深いあなた様について行きたいのです」
村長の言葉に他の村人も頷く。
騎士の襲撃前から国に対する不信は大きかったのかもしれない。
「どうか私たちをあなたの覇道の末席に加えていただきたい。そしてどうか……クロウ様にいただいた大恩を少しでもお返しする機会をいただきたい。お願いいたします」
深々と頭を下げる村長。
どうやら気持ちは固いようだ。彼らを巻き込むのは少し気が引けるが、ここまで覚悟を決めた者を突き放すことはできない。
それに神や国に不信を抱く気持ちはよく分かる。
知ってしまえばもう、無知ではいられない。
「分かった。お前らの忠義、受け取った。今後リト村は俺が支配する。それでいいな?」
「はい、もちろんでございます。どうか我々を、よろしくお願いいたします……!」
村長が再び頭を下げると、他の村人も同じようにする。
まさかこんな展開になるとは思ってもなかったな。
だが地上に拠点が増えるのはいいことだ。この村を拠点に、色々なことをすることができる。
深淵穴でできることには限りがあるからな。これで戦い方にも幅が生まれる。
リト村の支配者となった俺は、これからどう戦うか作戦を練り直すのだった。
◇ ◇ ◇
「クロウさん! 待って下さい!」
リト村のこれからを村長と話し終え、深淵穴に戻ろうとしているとサーシャに話しかけられる。
そういえば変態騎士から助けて以来、ちゃんと話してなかったな。
あの時は色々やることがあったからアリシアに預けて安全な場所に移動してもらったんだ。
「サーシャか。体は大丈夫か?」
「はい。あの時助けてもらったおかげです。クロウさんがいなかったら私……って、もうクロウ『さん』なんて呼び方はダメですよね」
「いや構わない。確かに俺は村の支配者になったが、サーシャと友人であることに変わりはない。今まで通り接してくれ」
「本当ですか? それじゃええと……クロウさん。改めて助けていただきありがとうございます。クロウさんがいなかったら私……っ」
サーシャはあの時の恐怖を思い出したのか、瞳に涙を浮かべる。
そして耐えきれず駆け出すと、俺に抱きついてくる。
「うう……ごめんなさい……っ」
「いいんだ。頑張ったな」
俺は深くは語らず、震える彼女の頭をなでる。
隣のアリシアがとんでもない目でこちらを見ているが、ひとまず無視する。これくらいでいちいち嫉妬しないでほしい。
しばらくなでているとサーシャの震えは止まる。
落ち着いた彼女は名残惜しそうにしながらも俺から体を離す。
「ありがとうございますクロウさん……。私、クロウさんに会えて本当によかった。あの、お邪魔じゃなければ私も一緒に……いえ、なんでもありません」
サーシャは頭をぶんぶんと振って発言を撤回すると、にこっと笑みを浮かべる。
「私、この村で待ってます。いつでもいらして下さい」
「ああ。また来るよ」
俺がそう返事をすると満足したのか、最後に一礼してサーシャは村に帰っていく。
彼女を見送り歩き出すと、アリシアが隣にやって来る。
「よかったのですか? あの少女、クロウ様のことを……」
「いいんだ。俺と深く付き合えば、ロクなことにならない。地獄に付き合うのは少ない人数の方がいい」
地獄に付き合うには、彼女はあまりに普通で、そして眩しすぎる。
彼女には日の当たる人生を歩んでほしい。
「……私はどこまでもお供しますよ。クロウ様」
「ああ、頼りにしているよ」
そう返すとアリシアは嬉しそうに微笑む。
復讐が完了したのは、まだ二人。
残りの奴らにもかならず地獄を見せてやる。俺は暗く燃える復讐心を大事に抱えながら、自らの王国に帰還するのだった。
《書籍化と漫画化のお知らせ》
本作の「書籍化&コミカライズ」が決定しました!
これも応戦してくださる皆様のおかげです、ありがとうございます!
レーベルや発売時期等は追って発表させていただきます。
また、書籍化作業に伴い更新頻度を下げさせていただきます。
書籍版では更に表現を過激にする予定ですので楽しみにお待ち下さい。
私は他にもたくさん小説を投稿しておりますので、そちらを読んで待っていただけても嬉しいです!
今後ともよろしくお願いいたします!