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第12話 切断《スラッシュ》

「ありえない……ありえない! あたしがクロウに負けるだって!? ありえないぃ!」


 エルザは何度もクロウに斬りかかる。

 しかしすでに彼女の動きは完全に見切られてしまった。クロウはそれらを全て丁寧にさばき、そしてお返しに剣の刃を彼女の首にピタリと当てて止める。


「一本。これが稽古じゃなければ死んでいたな」

「こ、の……っ!」


 その後もクロウは何度もエルザに寸止めをする。

 その度に彼女のプライドはズタズタに傷つけられる。精神的にも肉体的にも疲弊した彼女は、肩で息をするようになる。


「はあ、はあ……」

「エルザもこの程度だったか。ところでまだ天使・・は来ないのか?」

「お前、天使のことまで知ってるのか。はは……良かったな、あたしは天使がつくのを拒否した。ツラのいい女は嫌いだからね。つまりいくら時間がかかっても天使が助けに来ることはない」

「そうか。それは残念だ」


 クロウの言葉にエルザは「は?」と信じられない表情をする。

 天使は人智を超えた存在。それが敵としてやって来なければ普通安堵するだろう。それなのにクロウの反応は真逆であった。


「天使が来たら生け取りにしようと思ってたんだが……はあ、今回はなしか。まあいい。お前だけで我慢するとしよう」

「てめえ……クロウのくせに生意気なんだよ! 自分がどれだけ無様に死んだのかをもう忘れたのか!」

「忘れるわけないだろ。俺はあの時の苦しみをお前らに返すためだけに生きてるんだからな」


 クロウはそう言うと右手を上げて、親指と中指の先端を合わせる。

 そしてその二つの指にぐっと力を入れ、弾く準備をする。


「もういい。天使が来ないのなら、とっとと終わらせよう」

「はっ、終わるのはお前だ!」


 エルザは足に力を込めると、再びクロウに突進しようとする。

 しかしそれより早くクロウは指を弾きパチッ、と音を鳴らす。するとその瞬間、エルザの左の太ももが両断され、足が地面に転がる。


「な、あああああっ!!!???」


 突然体を襲った激痛にエルザは叫ぶ。

 今まで力を込めていた足が失くなったことによりバランスを崩した彼女はその場に倒れ、激痛にあえぐ。


「あ、足ぃ! あたしの足がぁ! てめえなにしやがった!」

「初級魔法の『切断スラッシュ』だ。威力は控えめだが、出が早くて使いやすい。便利だろ?」

切断スラッシュだって……!? そんなカス魔法がこんなに強いわけないだろ!」

「そんなこと言われても事実だからな……やれやれ」


 切断スラッシュはクロウが語った通り初級魔法でたいした威力はなく、射程も短い。

 普通の剣で斬った方が威力が出るので、これを好き好んで使う者は少ない。


 しかし英雄による修行を経たクロウの切断スラッシュは、初級魔法を大きく超える性能になっていた。

 彼の放つ切断スラッシュは普通のモノより鋭利で、速く、遠くまで届く。

 高速で飛来する不可視の刃は鉄程度なら簡単に両断してしまう。人の肉体など朝飯前だ。


 クロウが倒れているエルザに近づくと、彼女は剣を握り起きあがろうとする。

 するとクロウは再び『切断スラッシュ』を放ち、剣を握っている右手を肘の先から斬り落としてしまう。


「い゛っ!? あ、ぐぐ……!」


 左足に続けて右手まで失ったエルザ。

 受けたダメージは甚大であり、彼女は再び地面を舐める。


 一方クロウは彼女が落とした剣を拾うと、興味深そうにそれを眺める。


「聖属性を付与された剣。教会の祝福を受けたものだな? なるほど、これなら俺のアンデッドを倒せるわけだ」

「あのアンデッド……やっぱりお前が……」

「これなら俺を殺せると思ったか? 確かに死霊術師ネクロマンサーに聖属性はよく効く、弱点だ。だが」


 クロウはその刀身を素手で握ると、そのままバキッと握り潰して(・・・)しまう。

 目の前でただの金属片となり地面に落ちる剣を見て、エルザは驚愕し固まる。


「ば、ばけもの……」

「そうだ。お前らがそうしてくれたんだ」


 クロウはそう言うと、エルザの頭部を蹴り飛ばし昏倒させる。

 これ以上ここでやることはない。後は家に帰ってからのお楽しみだ。


「さて、程よいところでアンデッドを死体に戻すか。新鮮な死体を使ってるから、アンデッドとは思われないだろう」

「後から調査されたとしても、モンスターの襲来にしか見えないでしょう。鮮やかな手腕、感服いたしました」


 アリシアはそう言うと、気を失っているエルザに止血の処置をし、担ぎ上げる。

 まだエルザには復讐が済んでいない。ここで死んでしまったら主人の楽しみがなくなってしまう。


「もうこの都市には用はない。帰るぞアリシア」

「はい。お供させていただきます」


 こうして目標を達成したクロウは、誰に見られることもなく都市を去ったのだった。

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