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第7話 冷たい部屋

 グリュスベルクは都市としてはそれほど大きくはない。


 しかし周囲を堅牢な城壁に囲まれており、その中には優秀な兵士や騎士を多く抱えている。これはかつてこの都市が魔族との戦に使われた名残であり、その戦力は王都にも引けを取らないと言われている。


 更に今は英雄の一人、エルザをも抱え込みその戦力は更に増強。磐石のものとなった。

 盗賊も尻尾を巻いて逃げるほどの都市へと成長を遂げた。


 なんの力も持たない村娘のサーシャは、そんな都市の中心部に連れ去られてしまった。


「おい。そろそろ吐く気になったか?」


 赤薔薇騎士団本部。

 横に訓練所が併設されているその建物の地下に、サーシャはいた。

 手と足を縄で縛られ、服は汚れているが目立った怪我はない。


 赤薔薇騎士団はラインの暴走のせいもあり、情報を吐かせる前に村人のほとんどを殺してしまった。

 唯一連れ帰れたのはサーシャひとり。つまり彼女から情報を引き出せなければオークがどうなったのか、あの村になぜ高位のアンデッドがいたのかなどの真相は闇に葬られてしまう。


 ゆえにラインは暴走した責任を取るために、サーシャを尋問していたのだ。


「女ぁ! いい加減話せ! あのアンデッドはなんだったんだ!」


 ラインは彼女の首をつかみ、持ち上げる。

 常時であればもっと痛めつけているのだが、もう口が利ける村人はサーシャしか残っていない。過度に暴力を振るえば、あっという間に死んでしまう。


 ラインは死なないよう気をつけつつ、彼女に苦痛を与える。


「言え! さもないと本当に殺すぞ!」

「誰が……言うもんか」


 サーシャは首を絞められ苦しそうにしながらも、ラインを睨みつける。

 絶望的な状況にあっても、彼女の目からはまだ光は消えていなかった。


「村のみんなを殺したあなたたちを、私は絶対に許さない! どんな目にあっても私はなにも話さない! あたなたちに従うくらいなら死んだ方がマシよです!」

「てめぇ……生かしてやっているっていうのに……!」


 ラインは額に青筋を立てると、サーシャの頬に平手打ちをする。

 パァン! という音と共にサーシャは倒れ、頬を押さえる。彼女のやわらかい頬は赤く腫れ上がっている。


「……っ」


 その痛み、そして湧き上がる恐怖心で目に涙が浮かぶ。

 しかし彼女はそれをぐっと堪え、我慢する。


(せめて、せめてクロウさんのことだけは隠し通さないと……)


 大切な人を目の前で全て失ったサーシャ。

 それでも心が壊れるギリギリのところで踏みとどまることができたのは、クロウがいたからであった。


 恩人である彼が無事なこと。そして彼のことを守ることができているという事実だけが彼女の壊れかけの心を守ることができていた。


 ゆえに彼女は冷たい地下室に拉致されても、どれだけ殴られても、クロウの秘密を守り抜くことができていた。


「おいライン。まだかかっているのか?」


 地下室に一人の男がやって来て、ラインに話しかける。

 カイト・リュッヘン。赤薔薇騎士団の団長である彼は、本来庇護対象であるはずの少女を冷たい目で一瞥した後、ラインに視線を向ける。


「情報ひとつ引き出すのにどれだけかかっているんだ。早くしろ」

「すいません。でもこの女なかなかしぶとくて……」

「まああの村の者たちは不自然に口が固かったからな。村人風情が、なにをそんなに必死に守っているのだか……くだらない」


 心底くだらなさそうに吐き捨てるカイト。

 彼のそのあまりに失礼な態度に、サーシャは思うところがあり、体を起こす。


「……謝ってください」

「ん?」

「謝ってください……みんなに、謝ってください! 村のみんなはあなたの様な人に馬鹿にされるような人たちじゃありません!」


 サーシャはカイトを睨みながら言い放つ。

 ここで声を荒げれば、自分の立場が更に悪くなることは分かっている。しかしそれでも自分と同じようにどんなに痛い目にあってもクロウのことを黙り抜いた彼らのことを馬鹿にされるのだけは許せなかった。


 だが彼女の勇気ある行動は、カイトの機嫌を損ねるだけで終わってしまう。


「教えてやるライン。女と肉は叩けば叩くほどやわらかくなるもんだ」


 カイトはそう言うと、サーシャの顔面に拳を叩き込む。

 あまりの痛みにサーシャは叫ぶこともできずその場に倒れ、動けなくなる。鼻の骨が折れ、鼻から血がドクドクと流れ落ちる。

 ツンとした鋭い痛みが脳にまで達し、彼女の目から涙がこぼれ落ちる。


「い゛、あ……っ」

「うは、えげつな。さすが団長ぉ、容赦ないっすね」


 団長の容赦ない暴力を見て、ラインはテンションを高くする。

 そんな彼に、カイトはいつもと変わらない調子で命令する。


「犯せ。そうすれば少しは従順になるだろう」

「お、いいんすか?」

「ああ。そうすれば少しはしおらしくなるだろう」

「よっしゃ! そうこなくっちゃ!」


 今まで「待て」をされていたライン。

 待ちに待ったお楽しみの許可が下りると、ノリノリで彼女に覆い被さる。


 なにをされるのか察したサーシャは「いやっ!」と彼を振り払おうとするが、力の差は大きくラインはビクともしない。


「この瞬間が一番楽しいんだよなぁ。なあ、初めて?」

「は、離れて……や……っ」


 ラインを押し返して必死に抵抗するサーシャ。

 するとラインは「ちっ」と面倒くさそうに舌打ちすると、彼女の頬を殴り、地面に叩きつける。


「が……っ」


 頭が地面にぶつかり、脳が揺れる。

 脳震盪を起こしたサーシャは意識が朦朧として、抵抗する力が弱くなる。


 ラインはその隙に彼女の服を無理やり引き裂き、お楽しみの準備をする。

 サーシャは薄れる意識の中、それをぼんやりと眺めていた。


(クロウさん……せめてあなただけは……)


 恩人の無事を祈るサーシャ。

 そんな彼女の優しい想いを踏みにじるかのように、ラインは彼女を脱がせようとする。


「意外と胸でかいな。こりゃあ楽しめそうだ」


 下着姿の彼女を見て、舌なめずりするライン。

 興奮が頂点に達した彼が自分のものを出そうとしたその瞬間『ズン』と地面が大きく揺れる。


「なんだなんだ!?」

「地震か……!?」


 突然のことに慌てるラインとカイト。

 その後も何回か地面が揺れ、地上からは慌てるような人の声が聞こえてくる。


 なにかが起きている。ラインはひとまず下げかけのズボンを履き直す。


「団長、これは……」

「分からん。一度地上に出た方が良さそうだな」


 カイトは一旦地上に出てなにが起きたのかを確認しようかと思っていると、地下室の扉が開き、騎士の一人が中に入ってくる。


「団長! 緊急事態です!」

「なんだ。報告しろ」

「はい。グリュスベルクに多数のモンスターが襲来しました。モンスターはいくつが種類がいますが……そのほとんどは『オーク』と思われます!」

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