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第3話 赤薔薇騎士団

 ――――クロウがリト村に着く数時間前。

 騎馬に乗って平原を進む、騎士の一団がいた。


「はあ……なんで俺たちがこんなところに。こんなの下っ端に行かせたらいいじゃないですか」


 騎士の一人がそうぼやく。

 彼の鎧には赤い薔薇ばらの紋章が彫られている。その紋章は都市グリュスベルクに属する『赤薔薇騎士団』のものであった。


 赤薔薇騎士団は有名な騎士団であり、都市所属でありながらその名は王都にまで知られている。

 全員が卓越した剣の腕を誇り、今までに何体もの飛竜ワイバーンを仕留めた記録が残っている。


 もっとも有名なのはその『情け容赦なさ』。

 命じられれば民間人であっても容赦なく殺すと言われており、事実グリュスベルクに反抗するような行動に出た村が跡形もなく消えるという事案が過去に起きている。


 彼らの鎧が赤みを帯びているのは返り血を隠すためと言われており、彼らとすれ違い血の匂いを感じたという者は何人も存在する。


 先ほどぼやいた若者、ライン・ファラリスも赤薔薇騎士団の一員であり、彼は新人ながらその優れた剣の腕ですでに騎士団の中でも上位の存在になっていた。


「今向かってるのってしょうもない村っすよね? こんなとこ行ってもたいした功績にならないし、貧乏くじ引いたなー」

「そうぼやくなライン。これも仕事だ。真面目にこなせ」


 ラインをそう叱責したのは赤薔薇騎士団の団長、カイト・リュッヘンであった。

 キラキラと輝く金髪に整った顔立ち。二十三歳という若さで騎士団長になった彼は、グリュスベルクでは知らない人はいない有名人であった。


 規則に厳しいながらも面倒見のいい彼は、ラインだけでなく他の団員からも慕われる存在であった。


「でも団長ぉ。やっぱり俺たちが来る必要ってあったんすかね? オークたちが消えたのは気になりますけど、それでもこの程度のことで俺や団長、それに指南役・・・まで来ることはないと思うんすけど」


 ラインはそう言うと後ろをチラと見る。

 騎士団の中には一人だけ、赤薔薇騎士団の鎧を身に着けていない者がいた。


 冒険者らしい軽装に、二振りの剣を装備した女性。

 燃えるような赤い髪が特徴的なその人物は、伝説の冒険者パーティ『竜の尻尾(ドラゴンテイル)』に所属していたエルザ・ハーマインであった。


「お、なんだライン。あたしをジロジロ見て発情してんのか? 可愛いやつだな」


 エルザはラインの視線に気がつくと、彼の隣に馬を移動させ、肩を組む。

 ラインは「ちょっとやめてくださいよ~」と言いつつもどこか嬉しそうで、彼女の露出している胸をチラチラと見ている。


「ひひ、しっかり見てんじゃねえか。そんなに焦んなくても夜になったら可愛がってやるから安心しろ。もちろん他の奴らもな……♡」


 エルザは他の騎士たちを眺めながら楽しそうに言う。


 魔王討伐の功績を認められたエルザは、冒険者を辞め、赤薔薇騎士団の指南役・・・に就任した。

 そこで騎士たちに剣を教え、そして夜は彼らを食い散らかしていた(・・・・・・・・・)


(役得役得♪ 騎士団はイケメン揃いでたまんねえ~♪)


 エルザは大の面食いであり、大のイケメン好きであった。

 彼女が知る一番のイケメンは元仲間の勇者アレスであったが、アレスは彼女になびかなかった。

 常に近くにいながらも、自分になびかないアレスの存在にエルザは悶々とした日々を送っていた。クロウをなぶった時は彼にその苛々をぶつけてもいた。


(一人ひとりのイケメン度はアレスに負けるけど、数がいるから最高だ。元々騎士団は女っ気がないし、英雄を抱けるとあって騎士たちも乗り気だ。しばらく男には困らなそうだね……♪)


 この世の春を満喫するエルザ。

 グリュスベルクにいても暇な彼女は、こうして騎士団にくっついて仕事を手伝うことが多かった。


「おいカイト。なんでその村に向かってんだっけか?」

「出る前に説明したじゃないですか……」

「はは、悪いな。今日はお前から相手してやるから許してくれ」

「はあ……」


 団長のカイトはため息をつきながらも、エルザの提案を断ったりはしない。

 彼からしても英雄を抱けるというのは魅力的なシチュエーションであり、また抜群のスタイルを持つ彼女の体にのめり込んでもいた。


「我々と協力関係にあったオーク(・・・)と連絡が取れなくなりました。最後に襲ったのはこの先にあるリト村という小さな村。オークたちがやられたとは考えられませんが、調査は必要でしょう」


 オークと赤薔薇騎士団は協力関係にあった。

 まずはオークが周辺の治安を悪化させる。そして国民の不安が頂点に達したところで騎士団がオークを討伐し、名声を得る。

 もちろんオークたちは自分たちが討伐される運命にあることは知らなかった。騎士団はこれまでもいくつかの亜人と協力関係を結んだ後に滅ぼすと行ったマッチポンプを行ってきていた。


 平和が続けば続くほど、民は騎士団を必要としなくなる。税を納めさせるためにも騎士団の活躍は必須であった。


「騎士団もえぐいことしてるよな。まさかオークと手を組んでるとは思わなかったよ」

「……綺麗事だけでは世界は回りません。時には誰かが手を汚す必要がある。それが私たちなのです」

「へえ……」


 自分に言い聞かせるように言うカイトを見て、エルザは笑みを浮かべる。

 それが詭弁であることをエルザはよく分かっていた。


 もっと他にいくらでもやりようはある。だが彼らはこれしかやり方を知らなかった。


(歪んでるねえ……。ま、それは私もか)


 騎士団の蛮行を聞いた時、エルザは少し驚きはしたが、見下したり怒ったりなどはしなかった。

 所詮この世は弱肉強食。騙される民の方が悪いと思っていた。


 なので彼女は騎士団の行いを咎めることなく、むしろ手を貸していた。


「……見えてきたな」


 しばらく進むと彼らの前にリト村が姿を現す。

 どこにでもある、小規模な村。本当にオークはこの村でやられたのかと騎士たちは首をひねる。


「なんだ? 祭りの準備をしているのか? ずいぶん余裕があるんだな」


 村では収穫祭の準備が行われていた。

 料理が作られ、飾り付けが行われている。最近は各地で不作が続き、祭りができる余裕があるところなどほとんどないはず。

 いったいどういうことだ? とカイトは疑問に思う。


「赤薔薇騎士団だ! 村長を出せ!」


 団長のカイトは村に到着すると、大きな声で叫ぶ。

 すると祭りの準備をしていた村人たちが急いで走り出し、リト村の村長を呼び出しに行く。


「……お前たち気をつけろ。この村はなにかおかしい」


 カイトは部下の騎士たちにそう告げる。

 消えたオークと、不自然に豊かな食料。カイトはこの村にはなにか(・・・)があると思い始めていた。


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