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第2話 収穫祭

「そういえば収穫祭は今日だったか?」


 起きて朝食を取って少しして。

 いつも通り復讐のための仕事をこなしながら、俺はアリシアに尋ねる。


「はい。本日の昼から始まり、夕方がもっとも盛り上がる時間らしいです」


 アリシアは淡々と俺の質問に答える。

 朝はアリシアが気絶するまで攻め立てたのだが、そんなこと微塵も感じさせないほどいつも通りだ。アリシアを見ているとプロフェッショナルというものを思い知らされる。


「そうか。なら向かうとするか。しばらく顔を出していないしな」


 リト村に初めて行ってから、俺は一回しか顔を出していない。

 何度か食料を渡したり交流を行ってはいるが、それは配下に任せてしまっている。俺はガオランへの復讐を優先していたからだ。


 今はちょうど少しだけ手が空いている。エルザへの復讐が本格化する前に行っておくべきだろう。


「今から向かう。アリシアも準備してくれ」

「かしこまりました。他に誰か伴いますか?」

「いや。大丈夫だ。祭に行くだけだからな」


 俺は手早く準備をすると、アリシアと共に王城内の転移魔法陣がある部屋に向かう。

 そしてその転移魔法陣を起動すると、イーサ・フェルディナ内のとある建物の中に転移する。

 そしてその建物の中にある別の(・・)転移魔法陣を起動し、今度は地上の転移魔法陣に転移する。


 外に繋がる転移魔法陣を直接王城内に置かずこんな面倒くさいことをしているのは、侵入者対策だ。

 地上の転移魔法陣は魔法によって隠しているし、他人では起動できないようにしている。

 しかし念には念を、だ。

 俺たちは失敗するわけにはいかないのだから。

 転移魔法陣が置かれているこの建物には侵入者を撃退する罠をいくつも仕掛けている。ここまですれば王城に侵入されることはないだろう。


「リト村はだいぶ復興が進んだんだろう? 行くのが楽しみだな」


 俺はそんなことを呟きながら地上を進む。

 森の中をしばらく進み、まっすぐに村を目指す。


 すると視界が開け、俺たちの前にリト村が姿を現す。

 しかし復興したはずのリト村の光景は、俺の想像していた姿とは全く異なっていた。


 しかもそれは――――悪い意味で。


「なんだこれは……」


 燃える家屋。荒らされた畑。祭りのために用意されたであろう飾りは無惨に壊され、あたりに転がっている。

 いや、大事なのはそんなことではない。


 もっとも俺たちの目を引いたのは、殺された(・・・・)村人の無惨な死体であった。

 死因は様々。斬られたり刺されたり焼かれたり。あらゆる方法で村人たちは殺されていた。その死体の数は十や二十ではきかない。

 村人のほぼ全員に近い数の死体が村の中に転がっている。生きている人はいても数人だろう。


「クロウ様、これは――――」


 話しかけようとして、アリシアは言葉を止める。

 それほどまでに俺の顔には怒りが満ちていたんだろう。


 また、

 まただ(・・・)


 俺は二年前の時と同じように、身を焦がすような怒りを再び感じていた。


「この殺され方……オークとは違う。おそらく人の手によるものだろう。いったい誰がこんなことを……!」


 この村の人たちは善良な人間だった。

 誰かの恨みを買うような人たちに見えない。


 つまりこの人たちは何者かの悪意・・によって殺されたことになる。

 勝手な理由により尊厳を踏みにじられ、殺されたその姿はかつての俺の姿と重なって見えた。


「う、うう……」


 怒りに震えていると、誰かの声が耳に入る。

 村の中に入りその声の主を探すと、倒れている村人の一人が呻いているのが目に入った。背中を斬られているが、傷はそれほど深くなく運良く生き残ってくれていたようだ。


「大丈夫か。今治療する」

「く、クロウ殿……すみません。祭りが……」

「いいんだ。それより動くな」


 俺は傷口に回復薬ポーションをかけ、治療する。

 みるみる内に傷口が塞がり、顔色が良くなっていく。よし、これなら大丈夫だろう。


「ありがとう……ございます」

「気にするな。それよりなにがあったんだ?」


 俺が尋ねると、その村人は目に涙を浮かべる。


「き、騎士団……が……っ」


 村人はそこまで言うと、意識を失う。

 息はしていて、脈も正常。命に問題はなさそうだ。


「クロウ様。これは……」

「ああ。なにか異常事態イレギュラーが起きているみたいだな」


 この村人は「騎士団」と最後に言っていた。

 どこのどいつだか知らないが、この村に手を出したことを後悔させてやらないといけないな。

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