第8話 帰還
「これで最後か。骨の騎士、やれ」
『ウウッ!』
骨の騎士は任せろとばかりに吠えると、倒れている家屋をガシッとつかみ起こす。
俺はそれを確認した後、魔法を発動する。
「修繕」
魔法が発動すると家の壊れた箇所があっという間に修繕される。
複雑な物を直すのは難しい魔法だが、木製の家くらいなら簡単に直せる。
オークに壁を破壊されてしまっていたその家だが、すぐに元通りの家に直ってくれる。これなら生活しても問題ないだろう。
「凄い……魔法とはこんなこともできるのか!」
「ありがとうございますクロウ様! あなたはこの村の救世主です!」
「ありがたやありがたや……」
村人たちはとても喜び、中には俺を拝む者まで現れ始める。
喜んでくれるのは嬉しいが、ここまでされるとむず痒いな。
さて、もうこの村は大丈夫だろう。日も落ちて来たしそろそろ帰るとしよう。
念の為この村にエルダーゾンビというアンデッドを二体ほど配置しておいた。オークが数体くらい来たとしても追い返せるだろう。
もっと強いアンデッドを残しておくこともできるが、強すぎるアンデッドを残すのも良くないだろう。いらぬトラブルを招いてしまうかもしれないからな。
「クロウさん! 待ってください!」
村を去ろうかとしていると、村娘のサーシャがこちらに走ってくる。
この村には若者は少ない。まだ若いサーシャは復興する時も率先して働き、老人や子どもを助けていた。
心優しい性格をしているんだろう。今の俺には少し眩しい。
「もう行かれるんですか? もう遅いですし泊まっていっても……」
「悪いな。配下が帰りを待っているんだ。帰りが遅くなったら心配してしまう」
「そう……ですか。そうですよね。すみません」
サーシャはしゅんと落ち込む。
オークに襲われてからまだ時間は経ってない。心細いんだろう。
「オークが来てもエルダーゾンビが倒してくれる。心配しなくても大丈夫だ」
「いえそういうわけじゃ……いや、なんでもないです。呼び止めてしまってごめんなさい。もう大丈夫です」
そう言ってサーシャは笑みを見せる。
まだ少し不安そうだが……まあ大丈夫だろう。
「あの……この村では毎年収穫祭を開いているんです。オークに荒らされちゃったので立て直すのは大変かもしれませんが、絶対に今年もやります。だからその時は……またこの村に来ていただけませんか?」
「収穫祭か……分かった。その時はまた来させてもらおう。エルダーゾンビに手紙を渡してくれれば伝わるようにしておこう」
「本当ですか!? ありがとうございます!」
サーシャは本当に嬉しそうに笑う。
俺が来たらそんなに嬉しいのだろうか? いや、恩人に恩を返したいだけか。そう考えれば腑に落ちる。
「それじゃあサーシャ、また会おう。困ったことがあったら力になる。連絡してくれ」
「本当にありがとうございました! また会えるのを楽しみに待ってます……!」
こうして俺は、村人たちに見送られ、リト村を後にしたのだった。
◇ ◇ ◇
「……まあまあの収穫だったな。外に来た甲斐があった」
俺は深淵穴に向かいながらそう口にする。
すると後ろから付いて来ているアリシアが反応してくる。
「クロウ様。あの村に少し入れ込み過ぎではないでしょうか? あの村はごく普通のどこにでもある小さな村。クロウ様ほどの方があそこまで手を貸す必要はないと思います」
「それは違うぞアリシア。小さい村だからこそ深く付き合う必要がある。大きな都市は神律教会と繋がっている可能性が高い。しかしリト村にそのような者はいないだろう。まずは少しずつ、味方を増やす必要がある。ならばまず親交するべきはあのような村にするべきだ。そこから少しずつ、地上での協力者を増やしていく」
神との全面対決の前に、できるだけ多くの協力者を作っておきたい。
しかし協力者を増やせば増やすほど、こちらの情報が神律教会に漏れる可能性は高くなる。
だからこそ協力者を増やす活動は慎重に、じっくりと行う必要がある。
リト村はその足がかりとして最適な対象だ。
一人ひとりが強力な力を持つ英雄たちでは、こういったちまちまとした作戦は思いつかないのかもしれない。
「……そこまで考えていらっしゃいましたとは、流石クロウ様でございます。私が浅慮でございました。今後はどう動かれるのでしょうか?」
「『ボールット』という都市に俺の元仲間がいると村長から聞いた。まずはそこだ。少しずつ外で活動する者を増やし、ボールットの情報を入手する。ジーナあたりが適任だろう」
「かしこまりました。戻りましたらすぐ手配いたします」
「ああ、頼む」
そんなことを話していると、俺は深淵穴のすぐ側にたどり着く。
相変わらず穴の底は黒く、瘴気が溜まっている。
誰もこの瘴気の下に巨大都市があるとは思わないだろう。
「ここに転移魔法陣を作る。魔力を流せば起動し、イーサ・フェルディナに作っておいた魔法陣に転移することができる。普段は見えないようにしておくから、使う者には詳しい場所を伝えておいてくれ」
こうしておけば俺がいなくても外と中を自由に行き来できるようになる。
ここからだ。
ここから奴らとの戦いが始まる。
俺を裏切った元仲間。そしてその裏で好き勝手している神。
やつらの喉元に刃を突き立ててやる。
「首を洗って待っていろ。全員殺してやるからな……!」
俺は決意を新たにすると、魔法陣を起動してイーサ・フェルディナに帰還するのだった。