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第2話 地上へ…

 翌日。

 配下の英雄に見送られた俺は、アリシアと共に深淵穴アビスの最端部に足を運んでいた。


 深淵穴アビスは広い。

 イーサ・フェルディナはかなりの規模の都市であるが、深淵穴アビスの面積はそれよりずっと広いのだ。


 なので深淵穴アビスの端の方は瘴気がまだ残っており、黒く濁った空気をしている。


「……っ」


 瘴気が増えてきたことでアリシアは少し辛そうにする。

 アリシアたち英雄も蘇生した時に瘴気を体内に取り込んだ影響で、ある程度瘴気に対する耐性を獲得している。

 しかしそれでも俺のように完全な耐性(・・・・・)を獲得することはできなかった。まあ普通の人間は少し瘴気を吸っただけで動けなくなるから、十分高い耐性を持ってはいるんだが。


「大丈夫か、少し休むか?」

「いえ……大丈夫です。この程度の瘴気、問題ありません」


 アリシアは気丈にそう言うが、やはり辛さを隠せていない。

 今日やることは多い。ここで消耗していては後が大変だ。俺は手を前に出し、空気中を漂う瘴気を目標に定める。


吸収アブソーブ


 魔法を発動すると、空気中の瘴気が俺の手に引き寄せられ、吸収されていく。

 ものの数秒で目の前の瘴気は全て俺の手の中に吸収され、なくなる。吸収された瘴気は俺の体内で、新たな俺の力となる。

 人間には猛毒な瘴気も、俺にとってはエネルギー源だ。いくら吸収してもダメージを受けるどころか回復する。


「これでマシになったか?」

「はい……ありがとうございます。楽になりました。お手を煩わせてしまい、申し訳ございません」



 アリシアの顔色が見るからに良くなる。

 これなら大丈夫そうだな。


「気にしなくていい。どの道、瘴気は消しながら進む予定だったからな」

「いえ、それでは気が済みません。このご恩は今夜に必ず返させていただきます……♡」

「えっ」


 湿度高めの視線を向けてくるアリシア。

 昨日の夜あれだけしたのに、今日もする気なのか? 恩を返すという名目だけど、アリシアがしたいだけなんじゃないか……?


 いや、配下を疑うのは良くないな。恩を返そうとしているだけだ。

 こんなに慕ってくれる配下が、よこしまな気持ちだけでこんなことを言っているわけないよな。たぶん。


「……と、深淵穴アビスの最端に着いたな。ここから上がるとするか」


 深淵穴アビスの端は垂直の絶壁になっている。上から落ちたらどこにもつかまることはできず、地面に叩きつけられて死ぬだろう。実際俺もそうやって死んだからな。


 壁に引っかかりはほとんどなく、ここを登るのは至難の業だ。

 だから俺たちは楽をすることにする。


飛行フライ


 初級魔法『飛行フライ』。

 その名の通り、体を空中に浮かせて空を飛ぶ魔法だ。


 飛行フライは体を浮かせて制空権を取り、有利な状況で戦えるようにするといった使われ方をする。

 飛行フライを使用しながら高速で移動するのは技術がいるし、魔力もかなり使ってしまうからだ。


 しかし俺やアリシアはそんなちまちました使い方はしない。

 魔力を惜しみなく使い、一気に深淵穴アビスの外まで加速する。


「アリシア、ついて来い」

「はい。どこまでも」


 俺たちは飛行フライで上に上に進んでいく。

 当然穴の中には瘴気が充満しているので、それを吸収しながらだ。


「久しぶりの外だな……」


 イーサ・フェルディナは地上と似た環境に作り変えたが、やっぱり地上を恋しいと思う感情はある。出られるとなったらやはり心が高揚する。


 そんなことを考えながら上昇していると、瘴気の奥に光が見えてくる。どうやら地上が近付いてきているみたいだ。


「出るぞ!」


 更に加速し、俺たちは瘴気の海から外に出る。

 そこに広がっていたのは、どこまでも広がる青空と、降り注ぐ太陽の光。


 間違いない、地上だ。

 目を焼くほどの眩しい光に、澄んだ空気と色鮮やかな世界。全てが懐かしい。


 俺たちは地上に出てからもしばらく上昇し、周りの風景が見渡せる高度まで行き、そこで一旦止まる。


「やっぱり地上はいいな。……ん?」


 俺は隣のアリシアが黙っていることに気づき、不思議に思う。

 イーサ・フェルディナが神の光に焼かれたのは、およそ1000年前のこと。つまりアリシアにとって地上の光景は1000年ぶりのものなのだ。


 なにかしら感想が出るものだと思っていたが。


「どうした? 調子でも悪いのか?」

「いえ……少しばかり、感極まっておりました」

「へえ、珍しいな」


 アリシアは常に冷静沈着なメイドであり、感情を表に出すことはほとんどない。

 俺に対してだけはめっちゃ積極的に迫ってくるけど、それくらいで後は業務に忠実だ。


「神の光に焼かれ、アンデッドに成り果てた時、私は絶望しました。二度と外の世界に出ることはできず、暗く冷たい深淵穴アビスの底で一生を終えるのだと、そう思っていました。しかし……私は再び地上ここに戻ってくることができました」


 アリシアはそう言うと、俺の方を見る。

 その目には強い決意の色が見て取れた。


「改めてありがとうございます、クロウ様。私どもを救っていただいただけでなく、復讐の機会まで下さって。私どもの全てを、あなたにお捧げいたします」

「ああ、お前たちの忠義、ありがたく受け取ろう」


 そう答えると、アリシアは嬉しそうに微笑む。

 彼女たちの期待に応えるためにも、復讐は確実にこなさなければいけないな。


「してクロウ様。この後はいかがなさいますか」

「まずは情報収集だ。人間の集落を探したいな。身分がバレないよう、あまり大きくない都市がいいだろう」


 周囲をざっと見渡すが、森が広がっているだけで人間の集落らしいものは見当たらない。

 ここは手っ取り早く魔法で調べるとしよう。


生命探知ライフサーチ超範囲オーバーエリア


 俺は目の前の一帯を指定し、その範囲内の生命を一気に探知する。

 頭の中に大量の情報が流れてくるが、その中で人間以外を全て排除する。するとここから離れたところに一人の人間が走っているのを探知する。


「……いた。しかしこれは……」

「いかがいたしましたか?」

「この生命力、弱ってるな。どうやらこの人間、なにかに追われているみたいだ。このままだと死んでしまうかもしれない」


 人間の後をつけるように、モンスターが動いている。

 その差はどんどん狭くなっており、追いつかれるのは時間の問題だ。


「せっかく見つけた手がかりを無くすのは惜しい。行くぞアリシア」

「はい。お供いたします」


 俺たちは同時に加速し、見つけた人間のもとに行く。

 間に合ってくれるといいんだが。


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