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第8話 地下室

「ご帰還をお待ちしておりました、クロウ様。ボールットでの戦果はマーリンより報告を受けております」


 玉座に座ったクロウに近づき話しかけてきたのは、メイドのアリシアであった。

 かつて『マスター・オブ・メイド』の二つ名で呼ばれていた彼女は、侍従メイドという職ながら英雄以上に崇拝される存在であった。


 あらゆる武器術格闘術魔法術に精通し、高い知能を持ち、なおかつ圧倒的な美貌を持つ彼女を自らのメイドにしたい者はたくさんいたが、彼女は高すぎる能力ゆえに自分の主を見つけることができないまま神の光に焼かれ、その生涯を終えた。


 しかし彼女は蘇り、そしてついに自分の主を見つけるに至った。

 その高い能力を全て主人クロウに捧げ、公私両面を完全に奉仕していた。


「仇敵の捕縛に、天使の捕獲、どちらも完璧なお手際……さすがでございます。クロウ様のような偉大な御方に仕えることができ、私は幸せでございます」

「アリシアも留守番ご苦労だったな。助かった」

「もったいなきお言葉。クロウ様にお仕えすることこそ我らにとって至上の喜び、お気になさらず今後もぜひ我らを酷使・・して下さいませ」


 英雄たちはクロウにより絶望の底から救われ、そして神を殺すという新しい目標を与えられた。

 その瞬間から彼らにとっての『神』は神ではなくクロウになった。彼が死ねと命じれば喜んで命を投げ捨てるだろう。それほどまでに彼らの忠誠心は高かった。


「アリシア、地下・・の準備はできてるのか?」

「はい。もちろんでございます。天使の解析もまもなく完了いたします」

「そうか。じゃあ行くとしよう。善は急げだ」


 クロウは立ち上がると歩き出し、王城の地下へ通じる通路を進む。その後ろにはアリシアが付き、更にその後ろにはガオランを担いだトロールゾンビが付いて来る。


「お、おいクロウ! 俺をどこに連れて行く!」


 吠えるガオラン。しかしクロウもアリシアも返事をせず歩き続ける。

 少しして彼らは地下に通じる階段を降り始める。絢爛豪華な王城であるが、地下に繋がる階段は暗く冷たい印象を受ける。

 空気もひんやりしており、ガオランは寒さと薄気味悪さで鳥肌が立つ。


「こ、こんなところでなにをする気だクロウ」

「……決まっているだろ。復讐だよ」


 邪悪な笑みを浮かべるクロウ。

 それを見たガオランは、まるで心臓に冷たい刃を押し当てられたかのような感覚を覚えた。


 階段の一番下にたどり着く一行。

 わずかな蝋燭のみが明かりで日の光が一切差さないこの部屋は、いくつもの部屋や牢がある。この場所に正式な名前はなかったが、端的に言ってしまえば『拷問部屋』であった。

 様々な拷問器具や魔道具が置かれているこの部屋は、もともとイーサ・フェルディナにはなかったものであり、クロウが新たに作らせたものであった。


「おいやめろ……! 俺を帰してくれ!」


 暴れるガオラン。しかしトロールゾンビはそれを気にせず彼を天井から下っている手錠にはめる。

 同様に足も床にある足かせをつけ、完全に身動きを取れなくする。

 役目を終えたトロールゾンビは拷問部屋から帰っていき、それと入れ替わるように一人のアンデッドが拷問部屋の奥の部屋から姿を現す。


「お待ちしてましたクロウ様。それが今回の対象えものですね♡」

「うげ……」


 その人物を見たガオランは嫌そうに表情を曇らせる。

 現れたのは白衣を身にまとったアンデッドであった。体はところどころ腐っており、骨がむき出しの箇所もある。体に空いている穴からはミミズのような触手がうねうねと顔を出している。


 『死の拷問吏(デッドトーメンター)』という種族のそのアンデッドはゾンビでありながらはっきりと自分の意思を持っており、様々な拷問に精通していた。


「な、なんだこの気持ち悪い奴は! ふざけんな、おいクロウ!」

「うるさいわね……少し静かにしなさい」


 死の拷問吏デッドトーメンターはそう言うと、手にしたナイフをひゅっ、と動かしガオランの右耳を切り落とした(・・・・・・)


「――――っ! い゛、があああっ!? てめえ、お、俺の耳をなにしやがる!」

「王の御前よ。少し静かにしなさい。ここに来たあなたにもう自由にしていい権利はないの」


 死の拷問吏(デッドトーメンター)はそう言うと、ガオランの耳を自らの口の中に入れ、見せびらかすように舌で遊んだ後、咀嚼して飲み込む。

 その異様な行動はガオランの精神メンタルに深刻なダメージを与える。


「最初は任せた死の拷問吏(デッドトーメンター)。そいつから竜の尻尾(ドラゴンテイル)の他のメンバーのこと、神や天使のことをできる限り聞き出してくれ」

「はあい♡ お任せ下さい♡」


 ガオランににじり寄る死の拷問吏デッドトーメンター

 その傍らの台には、刃物やペンチ、見たことのない形状の拷問器具が並んでいる。ガオランはこれから自身に起こる惨劇を想像し顔を青くする。


「ま、待ってくれクロウ! 全部、全部話す! だからこいつを離してくれ! なんでも話すから許してくれよぉ!」

「そうか。それならいいぞ。死の拷問吏デッドトーメンターを下げてやる」

「え……?」


 クロウの思わぬ反応に、ガオランは驚く。

 まさかこんなに簡単に飲んでくれるとは思っていなかった。突然現れた一筋の光明に、ガオランの心に希望が生まれる。しかし、


「……と言うとでも思ったか? 嘘に決まっているだろ」

「え、あ、そ、そんな、え……」


 差した光明は幻であった。

 クロウはわざと光を見せることで彼の絶望を更に深いものにしたのだ。


「お前が正直に本当のことを言う保証はない。それに……俺はこの時をずっと待っていたんだ。お前が苦しみ、許しを請う瞬間をな。死の拷問吏デッドトーメンター、最大限の痛みを、苦痛を与えてくれ」

「かしこまりました♡ それではフルコースでいきますね!」


 主人の許しを得た死の拷問吏デッドトーメンターは、ノリノリで拷問を開始する。

 数々の器具や魔道具を器用に使い、ガオランの肉体を切り、開き、削いでいく。


「最後にお仲間に会ったのはいつ? どこにいるの」

「それは……がああっ!? 言う、言うからこれ以上()けないでくれ!」

「だーめ♡ もっと早く言わないとこっちのお耳も切っちゃうわよ?」

「だずけでくれぇ! クロウ、お願いだ頼むよぉ!」


 地下室に絶えず響く絶叫。

 この後約一時間、ガオランは全ての情報を喋った後もクロウの許しが出るまで拷問され続けたのであった。


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