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第6話 見覚えある景色

「ん、ここは……」


 ボールットでの一件から少しして。

 復讐者クロウに完膚なきまでに叩きのめされたガオランは、体に揺れを感じながら目を覚ました。


 蹴飛ばされた頭部がジンジンと痛むが、気になるのはそれくらい。傷はジーナの治癒により塞がっているので、体はちゃんと動きそうであった。


(馬鹿が、油断しやがって。隙を見て逃げ出してやる! 王都に報告さえできればクロウは終わりだ……!)


 ガオランは心の中でそう呟く。

 あれほど手ひどくやられたにもかかわらず、まだガオランはクロウの実力を認めていなかった。


 逃走を決意したガオランは自分が置かれている状況を判断するべく、周囲を観察する。

 現在彼は大型のアンデッド、トロールゾンビに担がれて運ばれていた。


 トロールゾンビはその名の通り、トロールというモンスターがアンデッドした姿。二メートルを超す巨躯に突き出た腹、尖った鼻と耳が特徴敵なトロールは、その見た目通りかなりの怪力だ。

 ゾンビ化してもその怪力は健在で、人ひとり担ぐくらい朝飯前だ。


 ガオランはそんなトロールゾンビに担がれながら、森の中(・・・)を進んでいた。


(どこだこの森は? ボールットの近く……には見えねえな。見覚えある気はすんだが……)


 ガオランは自分が今いる場所に、なんとなく見覚えがあった。

 しかしその記憶は最近のものではなく、すぐには思い出すことができなかった。


(まあここがどこだかは関係ねえ。ひとまず逃げることができれば後はどうとでもなる。とっととずらかるとするか)


 トロールゾンビの前方にはクロウとジーナが歩いている。

 しかし彼らは前方を見ながら進んでおり、ガオランのことは気にも留めていない。逃げることは容易いとガオランは判断した。


(ここだ……!)


 ガオランは自分の拘束が緩んだほんの一瞬を見逃さなかった。

 指先に魔力を込め、自分を掴んでいるトロールゾンビの腕を貫手ぬきてで貫く。

 ゾンビは痛みを感じないが、ダメージを受ければ力は弱くなる。拘束が完全に解けたガオランは素早くトロールゾンビから離れると、音もなく着地し進行方向とは逆に駆け出す。


(っしゃあ成功ぅ! ちょろいぜ!)


 ガオランは笑みを浮かべながら逃走を開始する。

 ここまでの動きに一切の無駄はなく、全てが想定通りだった。


 ――――しかし想定通りなのは彼だけではなかった。


「……い゛っ!?」


 突然足に鋭い痛みを感じたガオランは、その場に倒れる。

 周囲には誰もいないはず。それなのに突然右の太ももが焼けるように痛んだ。


「いったいなにが……」


 顔を歪めながら自分の足を確認するガオラン。

 すると右の太ももに黒い刃物のようなものが刺さっていた。

 その刃物は自分のから生えて(・・・)おり、ガオランが見ているとその刃はするすると影の中に戻っていった。


「やれやれ、逃げられると思ったか?」


 ガオランが呆気に取られていると、クロウが近づいてくる。

 彼が逃げ出すことは想定内だったようで、焦っている様子は微塵も見られない。


「クロウ、てめえまた妙な真似を……!」

影の暗殺者シャドウエッジアサシン、影に潜むモンスターだ。こいつをお前の影に入れておいた。どこに逃げようが影は必ずお前につきまとう。逃げられるとは思わないことだな」


 クロウが目配せすると、トロールゾンビがやって来て再びガオランのことを担ぎ上げる。

 トロールゾンビはさっきより力が強くなっており、傷も塞がっている。さっきのように逃げることはもう難しそうだ。


「それよりガオラン。この森に見覚えはないか?」

「ああ゛? 知らねえよこんなとこ」


 会話をしたくないガオランは知らないフリをする。

 しかし森を進むたびに頭の奥底からなにかを思い出しそうになっていた。


「そうか、残念だ。俺たちの思い出の地だというのに。まあだが、これを見れば思い出すんじゃないか?」

「ああ? なにを言って……」


 クロウが言った次の瞬間、一行は森を抜ける。

 視界が開け、その光景を見た瞬間にガオランは自分がどこにいたのかを知る。


「こ、ここは……!」


 彼らの目の前に広がっているのは、巨大な穴。

 その穴の底には瘴気が溜まっており、穴の近くにいるだけで気分が悪くなってくる。


 ガオランはその穴を以前見たことがあった。


「あ、深淵穴アビス……」

「そうだ。お前たちが俺を落とした深淵穴アビスだ。大変だったよ、この底から這い出るのはな」


 クロウは懐かしそうな目をしながら語る。

 事実彼はここに落とされて一度死んでいる。死霊術がなければ穴の底で朽ちていただろう。


「ま、まさか俺を深淵穴アビスの中に落として殺すつもりか!? あの時俺たちがお前をそうしたみたいに!」

「それもいいが……ふふ、そんなに簡単に殺したりしないさ」


 クロウがそう言って指をパチン! と鳴らすと、彼らの足元に魔法陣が浮かび上がる。

 魔法陣には魔法の力が込められており、魔力を流し込むだけで高度な魔法を起動することができる。


 深淵穴アビスのすぐそばに作られたこの魔法陣に込められた魔法は『転移テレポーテーション』。

 この魔法陣のおかげでクロウたちは深淵穴アビスの中と外を自由に行き来できるようになっていた。


「お前を深淵穴アビスの中に案内しよう。きっと気に入るぞ」

「ふざけんな! 深淵穴アビスの中なんか気にいるわけないだろうが!」


 ガオランは吠えるが、クロウはそれを気に留めず魔法陣を発動する。

 すると彼らは一瞬にして転移し、深淵穴アビスの底に移動する。


「が!? いったいなにが起き……て……っ!!」


 転移先で目を開けたガオランは驚き言葉を失う。

 深淵穴アビスの底は瘴気が溜まっている死の空間。そのはずなのに彼が見た景色はまったく違っていた。


「ようこそガオラン。俺の国へ。歓迎するよ」


 空に輝く太陽。自然豊かな大地。笑顔で暮らす人々に、王都より絢爛豪華な建築物。

 まさに『楽園』。

 そう呼べるような至上の都市がそこにはあったのだった。

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― 新着の感想 ―
>その刃物は自分の影から生えて《・・・》おり、 強調の点が文内に入ってしまってますね
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