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第3話 魔人ヘカトンケイル

「が……っ!」


 ヘカトンケイルに殴られたミリエルは地面を転がる。

 ミリエルは転がりながら体勢を立て直し、ヘカトンケイルを睨む。


「損傷率20%……戦闘続行可能と判断。逃走の妨げとなる脅威『魔人ヘカトンケイル』を新たな排除対象として設定」


 ミリエルは四本の砲を自身の周囲に展開し、その砲口をヘカトンケイルに向ける。

 しかしヘカトンケイルはそんなこと一切気にせずミリエルに近づいていく。


「対象の殲滅を開始する……天焦砲アークブレイズ、発射!」


 四門の砲が光の砲弾を発射する。

 その砲弾はまっすぐにヘカトンケイルに飛んでいき、勢いよく命中し爆発する。

 しかしヘカトンケイルはそれを食らってもわずかに足が止まっただけで平然としていた。当たった箇所はわずかに焦げていたが、それも皮膚を払ったら消え、傷一つついていなかった。


天焦砲アークブレイズが効いていない……!? 理解不能、異常事態ありえない!」

『この威力、天使としての格は低いみてえだな。こんな豆鉄砲、いくら食らったところで俺を殺すことはできねえぜ』


 ヘカトンケイルはそう言いながらミリエルに距離を詰める。

 ミリエルは何度も砲を放ちヘカトンケイルを攻撃するが、そのどれもダメージを与えることはできなかった。


『こんなもんいくら食らっても痛かねえが、さすがにうぜえな。とっとと終わらせてもらうぜ』


 ヘカトンケイルはそう言ってミリエルの頭部を右腕の一つでがしっと掴む。

 そして掴んだ右腕を振り上げると、思い切り地面に叩きつける。


「が……っ!?」


 地面に体がめり込み、苦しそうな表情をするミリエル。

 その体はボロボロになっており、最初に現れた時の神々しさはもうどこにもない。


『終わりだ』


 ヘカトンケイルは六本の腕の拳を握り締め、地面に倒れているミリエルに何度も拳を打ち込む。

 一発で地面を砕く拳が、数えきれないほどミリエルに降り注ぐ。一秒間に数十発放たれる拳をミリエルはその一身で受け続けた。


「が、あ……っ!」


 破壊の雨が止んだ時、すでにミリエルは満身創痍だった。

 着ていた服は破れ、全身は血と泥で汚れている。整っていた顔もアザと傷で汚れ無惨な状況だ。いかに頑丈な天使と言えど、ヘカトンケイルの力の前には無力だったようだ。


『クロウ、こんなもんでいいか?』

「ああ、上出来だ。感謝する」

『いいってことよ。その代わりお前の魔力・・はまた貰うぜ?』

「ああ、もちろんだ。代償はちゃんと払う」


 魔人を無料タダで呼び出すことはできない。

 必ずそれ相応の代償・・が必要になる。


 ヘカトンケイルの代償は『魔力』。

 魔人の中には代償として命を要求してくる者もいるので、魔力は優しめの代償と思ってしまうが、ヘカトンケイルは大食いなので一般人では命を失うほどの魔力を食べてしまう。


 だが俺は瘴気を魔力に変える特異体質を持っているので、瘴気が無限にある深淵穴アビスの中では実質無限の魔力を持っている。

 ヘカトンケイルの要求にも十二分に応えることができる。


 おまけに死霊術師ネクロマンサーの俺の魔力は魔神にとってとても美味びみらしく、ヘカトンケイルや他の魔人も夢中になっている。おかげで召喚契約を交わすのもそれほど難しくなかったというわけだ。


『じゃあゴタゴタが終わったらまた呼んでくれ。楽しみにしてるぜ』

「ああ。助かった」


 ヘカトンケイルは六本の腕で親指を立てると、冥獄門タルタロスに戻り帰っていく。

 冥獄門タルタロスの先は冥府に繋がっている。そこはかなり過酷な環境のはずだが、ヘカトンケイルは魔人の中でもトップクラスの力を持っている。帰るとなってもたいして苦ではないんだろう。


「さて……二人きりになったな」

「ぐ……っ!」


 ミリエルは地べたを這いながら、俺を睨んでくる。

 すでに満身創痍。戦闘は不可能な状態にもかかわらずその目はまだ死んでいなかった。


「ずいぶん強気だな。残念ながらお前には悲惨な末路しか待っていないぞ?」

「……確かに私は敗北しました。機能停止は免れないのかもしれません。しかしそれは貴方も同じこと」

「なに?」

「すでに魔力通信でアイオーン様に貴方のことは報告済みです。間も無く天使の軍勢がここに到着し、貴方を粛清するでしょう」


 ミリエルは勝利を確信した表情を浮かべながら語る。

 魔力通信とは魔力を介して行われる通信技術。かなりの高等技術であり高位の魔法使いでも同じ街の中くらいの距離でしか使えないが、天使はそれを神まで届けられるみたいだ。


「貴方が何者かは知りません。しかしいくら強力な力を持っていても、神と天使の軍勢の前には無力。貴方はなにも成し遂げられないまま、ここで死ぬのです」

「あー……話はもう終わりか?」


 俺がだるそうにそう言うと、ミリエルは信じられないといった目で俺を見る。


「状況が理解できていないのですか? 貴方はここで死ぬのですよ!?」

「状況が理解できてないのはそっちだ。いつ天使の軍勢とやらは来るんだ?」


 空を仰ぎ見るが、そこには青空が広がっているだけ。

 全てを焼く天の光も、天使の軍勢もそこにはない。


「ぐ……なぜ。なぜ到着がこんなに遅れて……」

「まだ分からないか? 俺たちは最初からお前も(・・・)目標ターゲットだったんだよ。当然あらゆる対策を立ててここに来ている」

天使わたしが……目標ターゲット!?」


 ミリエルは愕然とした表情をする。

 天使が狙われるなんて初めてのことなんだろうな。そもそも英雄認定されたあいつらに貸し与えられるまでは存在を信じている者すらそれほどいなかったんだから当然と言えば当然だ。


「天使がなんらかの方法で外部に連絡を取ることももちろん想定済みだ。だからお前の出現と同時にボールットを中心に半径100kmの結界を張った。その結界はあらゆる魔力を遮断する特殊な結界、お前の魔力通信は残念ながら届いていない」

「は、半径100km……!? 異常事態ありえない、人間がその規模の結界を張るなど……!」


 確かに普通の魔法使いであれば街一つ覆う結界さえ作ることは困難だ。

 数十人の魔法使いが力を合わせてようやく実現可能だろう。


 しかし俺の配下は普通じゃない。

 たった一人でその結界を作り、維持している。おかげでここで天使をボコっていることは神に微塵も伝わっていない。


「そん、な……っ」


 助けが来ないと分かり、絶望するミリエル。

 俺はそんなミリエルに近づき、彼女の天使の輪を右手で掴む。


「な、なにを――――っ!?」

「ヘカトンケイルに戦わせながら、俺はずっとお前を観察していた。天使の特殊な力はこの『輪』が関係しているんだろ? 悪いが壊させてもらうぞ」

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