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第2話 冥獄門《タルタロス》

 天使を吹き飛ばした俺は、綺麗に吹き飛んだ壁の穴の側に立つ。

 ミリエルと名乗った天使はかなり飛んだみたいだ、遠くの森で土煙が舞っている。あそこに吹き飛んだみたいだ。


「少し飛ばし過ぎたが……まああそこなら範囲内・・・だろう。計画に変更はいらなさそうだな」


 俺はそう呟くと後ろで待機しているジーナに話しかける。


「俺は天使あれを追う。ガオランを見ていてくれ」

「はい♡ 私にお任せください!」


 ジーナは既にガオランを縄でぐるぐる巻きにして拘束していた。

 あの縄も普通の物ではなく、特殊な魔道具だ。ガオランではあの縄から抜け出すのは不可能だろうな。


 まあ抜け出せたとして、英雄の中でも指折りの実力を持つジーナを倒すことは絶対に不可能だろうが。


「クロウ……てめえミリエル様になにしやがった! また卑怯な手を使いやがったのか!」


 ぐるぐる巻きにされたガオランは、芋虫のように床に転がりながら吠える。

 この後に及んでまだこんな態度を取れるとはたいしたもんだ。俺がなにか卑怯な手を使っていると思い込むことでギリギリ正気を保っているんだろうな。


「ミリエル様……か。ずいぶん信心深くなったじゃないかガオラン」

「うるせえ! お前だけは殺してやる!」


 ガオランは縛られたまま暴れる。

 こいつは昔から他人に興味がなかった。神の存在もたいして信じておらず、信心深さとは対極にある人物だった。


 そんなこいつがあの天使には固執している。

 考えられる理由としては……


「そうか。お前惚れているのか」

「――――ッ!!」


 ガオランは図星を突かれたような顔をする。

 歯を食いしばり、俺を睨むガオラン。まさかこいつのこんな顔を見ることができるなんてな。


「そうか……くく、女を穴としか見ていないお前が惚れるとはな。そうか……なるほど、これは面白いことになってきた」

「てめえなに考えてやがる! おい! この縄を外せ!」


 暴れるガオランを無視し、俺は再び外に視線を戻す。

 天使は独特の魔力を放っていた。魔力探知を使えば位置を特定するのはたやすい。俺は森の中のミリエルの位置を特定し、そこへ跳ぶ。


 ボールットの都市から飛び出て、天使ミリエルがいる場所に行く。

 そしてその道中である技用の魔力を練っておく。


「……よし、死んではないな。頑丈で助かった」


 森に着いた俺はミリエルを目視する。

 ダメージを負っているが、まだ戦闘できるようだ。天使のボディは頑丈に作られているみたいだな。


 ミリエルは立ち上がり俺を見ると、臨戦態勢になる。


「――――対象を再捕捉。危険度を最大ランクに設定し、殲滅を開始する」


 ミリエルは四門の砲を出現させ、俺に狙いをつける。


「懲りないな。少しは対話しようとする気はないのか?」

「神に仇なす愚物と交わす言葉は皆無。悪は全て粛清し、安寧たる世界を作るが我ら天使の定め」

「……よくそんな綺麗事が言えたもんだ」


 こいつらは勝手にアリシアやジーナたちを『悪』と認定し、粛清という名の虐殺を行った。

 この天使という奴らに特に憎しみを抱いていたりはしなかったが、ここまで神を盲信していると苛ついてくるな。


天焦砲アークブレイズ充填チャージ


 ミリエルの砲身が光を溜め始める。


 この程度の技、食らったところでダメージにはならないが、あまり騒いで誰かに見つかるのも面倒だ。

 あの技(・・・)でとっとと片をつけるとしよう。


「特別に見せてやろう。死霊術の奥義を」


 練っていた魔力を解放し、俺はその技を発動する。

 昔はスケルトンやゴースト程度しか使役できなかったが、深淵穴アビスの底で地獄の特訓をした俺は、死霊術の奥義を全て会得していた。


「開け、冥府の門よ。我が供物を糧にその封を解きたまえ」


 俺の背後に出現するのは悍ましい装飾が彫られた、巨大な

 その門はいくつもの鎖や錠で固く閉ざされているが、それらは俺の言葉と共に音を立て外れていく。


「死霊術奥義――――冥獄門タルタロス


 その言葉を口にした瞬間、門を閉ざしていた全ての鎖と錠が外れ、冥府の門がゆっくりと開き始める。

 その門の中は漆黒の『闇』だった。

 わずかな光も通さぬ漆黒の闇。その中からぬっと出現したのは、赤く大きなであった。


「理解不能。データベースにない魔法……これは……!?」


 冥獄門タルタロスを見たミリエルは混乱している。どうやらこの魔法は天使も知らないもののようだ。

 それを知れたのは収穫だ。神の兵隊である天使が知らないということは、その支配者である神も知らない可能性が高い。


 門から飛び出た腕は、門の縁を掴む。

 すると更に五本の腕、つまり計六本の腕が門の中から出てきて、門の縁をがっしり掴む。

 


『――――誰が呼び出しやがったのかと思ったら、お前だったか』


 低く悍ましい声と共に門の中から現れたのは、赤い皮膚をした巨大な化け物だった。

 十メートルを超える体躯に、筋骨隆々の肉体。その腕の一本一本は巨木のように太く、見ただけでその生き物がとてつもない破壊力を有していることを語っている。

 そんな恐ろしい腕を六本も持っているその生き物は、冥府に住む魔人。その名は……


「ヘカトンケイル、急に呼んで悪かったな。なにか用でもあったか?」

『いや、昼寝してただけだ。他の人間だったら潰してたが……お前ならいい』


 そう言ってヘカトンケイルはニッと笑う。

 ヘカトンケイルと俺は初対面じゃない。契約を交わし、召喚を許可されている仲だ。


「……理解不能、ありえない。人に決してくみしない魔人が人の召喚に応じ、しかも対等に話しているなど。これは明らかな異常事態……すぐにアイオーン様にお伝えしなければ」


 魔人ヘカトンケイルを見たミカエルは呟きながらたじろぐ。

 今あいつが口にした「アイオーン」という名は、神の名前だろう。

 神律教会オルデン・セラフィアが崇拝する神にはいくつもの呼び名があるが、その中の代表的なものが『至高神アイオーン』だ。

 あいつらもその名前で神を呼んでいるみたいだな。


 とにかく、アイオーンのもとに逃げられたら面倒だ。こいつは絶対にここで捕獲しなければいけない。


「ヘカトンケイル。あいつを捕まえてくれ。殺さずにな」

『へえ……天使か。珍しい。なら多少力を入れても死にゃあしねえか』


 ヘカトンケイルはそう言うと、地面を蹴る。

 すると一瞬にして天使ミリエルのすぐ側に現れる。巨体に見合わぬスピード、ミリエルからしたらヘカトンケイルが転移ワープでもしたかのように見えただろう。


「な――――っ!?」

『地上で暴れんのは久しぶりだ。少しは楽しませてくれよ?』


 ヘカトンケイルはその大きな拳を握り締めると、それを思い切り振るいミリエルをぶん殴るのだった。

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