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第1話 神の兵隊

「――――なに? 天使?」


 俺がそう聞き返すと、メイド長兼俺専属メイドのアリシアがこくりと頷く。

 ここは深淵穴アビスの底にある巨大都市。

 元々は『イーサ・フェルディナ』と呼ばれた都市であったが、今ここは『クロウ王国』という名前になってしまった。


 クロウという名は、当然、俺の名前から取られている。

 彼らを率いて王となるのは構わないが、国に自分の名前がつくのは抵抗がある。俺は国の名前を決める時やんわりと別の名前になるようにしようとしたが、配下たちが満場一致でクロウ国を推したことで強制的に決まってしまった。


 今更ひっくり返すことは不可能なので仕方なく俺はそれを受け入れている。


 一旦国名のことは忘れ、俺はアリシアに視線を向ける。

 現在俺たちは地上の情報を集め、復讐の準備をしている。もう長い間地上に出ていないので、上の世界の情報を仕入れる必要があった。

 俺たちは過剰な戦力を有しているが、神に存在を知られてしまったら『イーサ・フェルディナ』との時と同じく神の光で焼き滅ぼされてしまうだろう。


 慎重に、かつ大胆に。

 俺たちは万全の状態で復讐に臨むようにしていた。


「天使って……あの羽が生えて光の輪が頭の上にあるあれか?」

「はい。羽が生えて光の輪があるあれでございます」


 アリシアはいつも通り表情一つ変えず答える。

 仕事外では意外とジョークが好きなアリシアだが、仕事中にふざけることはほとんどない。この話は真面目に聞いておいた方がいいだろう。


「神には自前の兵隊『天使』がいるようなのです。かつてイーサ・フェルディナが滅ぼされた時も天使を見た者がいます。天からの光に争い神に一矢報いようとした者もいましたが、彼らは天使に足止めされてしまい、反撃すること叶わず神の光に焼かれました」

「そんな奴がいるのか……神の野郎とやり合うなら、天使の対策も考えなきゃいけないな」


 また考えなきゃいけないことが増えたな。

 まあ既にやることは膨大なので今更一つ増えたところで大差ないか。


「その天使ってのを捕まえられれば色々調べられるから楽なんだけどな……。普段は地上にいないだろうし、どうするか」

「それならよい考えがあります」


 アリシアは待ってましたとばかりに答える。


「情報収集を担当している者からの報告ですが、クロウ様を裏切ったゴミ……こほん、愚かしい者たちは、全員神より『天使』を付けられているようです」

「あいつらが……? そんな大層な者を受け取れる奴らじゃないと思うんだが」


 竜の尻尾(ドラゴンテイル)の奴らは確かに冒険者としての実力はトップクラスだ。しかしここにいる英雄たちに比べたら鼻くそみたいなものだ。

 才能はあるかもしれないが、それに胡座あぐらをかくカス共。それがあいつらだ。


「――――あるいは、その程度の存在だからこそ生かし、褒美を与えたのかもしれませんね」

「どういうことだ?」

「神は我ら英雄たちを脅威とみなし、滅ぼしました。もしゴミたちが神の脅威となるような存在であるのならば、処分していたでしょう」

「確かにそうだな。だけど手を下したのは俺だけで、他の奴らは生かされただけじゃなく天使まで付けてもらえた。なるほど、あいつらは神の力を示す神輿みこしとして担ぎ上げられたというわけか」


 俺の言葉にアリシアは頷く。

 英雄に自らの兵である『天使』を貸し与えれば、民も神の存在を強く信じることになる。その結果信仰心も強くなり、信者も増えるだろう。

 英雄たちは神の広告塔ってわけだ。いざとなれば処分することも簡単だし、いい案だ。


 だが神は一つ、大きなミスをした。


「つまりあいつらを痛めつければ、あいつらを助けに天使も出てくる。そこを『捕獲』すれば天使のことを知ることができるってわけだ」

「とても良き作戦かと。さすが我らが唯一にして至高なる王……その叡智の前にはいかに神であろうと後塵を拝する他ないでしょう」


 うっとりとした表情でアリシアは言う。

 俺は別にそんなに知恵が回る方じゃないんだけど……まあいい。今は作戦を詰めることのほうが大切だ。


「一時間後に作戦会議だ。いつもの面子に、ジーナと……そうだな、マーリンも呼んでくれ。天使捕獲の手段を考えると伝えてくれ」

「かしこまりました。お任せください」


 こうして俺は配下と共に、天使の対策を立てたのだった。


◇ ◇ ◇


「――――天焦砲アーク・ブレイズの対象への命中を確認。対象の死亡確率99.82%、排除を完了したとみなし、武装を一時解除」


 『砲』の天使と名乗った天使がそう告げる。

 生み出した二門の砲を消し、勝利を確信する。


「さすが天使様! よくぞあのクソ野郎をぶっ殺してくれました!」


 這いつくばりながら喜ぶガオラン。

 どうやらガオランはかなり天使様にお熱なようだ。あくまで天使は神から『貸し与えられた』ものに過ぎないのに、自分の所有物だと思っているのだろう。


「俺の治療も頼みますよ天使様ぁ! あとそこにいる獣人もボコってくれ! あ、そいつへの処分は俺がしますんで殺さねえでくれ!」


 ガオランはジーナを見ながら舌なめずりする。どうやらジーナを自分のモノにすることをまだ諦めていなかったみたいだ。

 やれやれ……本当に救えない奴だ。俺は舞っている砂煙を振り払い、再び天使の前に姿を現す。


「な……クロウ!? お前、なんで生きてんだよ!!」


 俺の姿を見たガオランは顔を青ざめながら驚く。

 今まで表情一つ変えなかった天使ミリエルも、俺を見て表情を僅かに変える。


「――――理解不能。天焦砲アーク・ブレイズは確かに命中したはず、それなのになぜ……」

「簡単な話だ。俺は天使おまえより強い、この程度の技じゃ傷一つつけることはできない」


 俺は常に体を高密度の魔力で覆っている。

 言ってしまえば『魔力の鎧』だ。これに守られている限り、俺にダメージを与えることはできない。 


「さて……次は俺の番だな」


 俺は言いながら次元の狭間に手を突っ込み、その中から漆黒の『鎌』を取り出す。

 英雄都市『イーサ・フェルディナ』の宝物庫には、数多くの武器やお宝、魔道具が保管されていた。その多くは無事に現代まで残っており、俺はその内のいくつかを異空間に収納し持ち歩いている。


 この漆黒の鎌『煉黒れんごく』もその一つ。

 冥界の金属で鍛えられた刀身は硬く決して傷つくことはなく、その切れ味は魂をも両断することができる。

 世に出てしまえば間違いなく国宝以上の価値を付けられるだろう。


「正体不明の武器を確認。警戒レベルを最大まで上げ撃退を――――」

「遅い」


 俺が鎌を振るうと、黒い衝撃波が発生し天使に命中する。

 空間に亀裂が入るほどの一撃を食らった天使は、物凄い勢いで吹き飛び、壁を貫通し外に飛んでいく。

 どうやら少し力を入れ過ぎたみたいだ。まあ相手は天使、死んではいないだろう。追って捕まえるとしよう。


「さあ、『天使狩り』だ」


 俺はそう意気込み、天使の捕獲を開始するのだった。


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