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天敵  作者: 新戸kan


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2/6

「人類はもう100人といませんが、それでも希望を失ってはなりません。次の世代に希望を伝え繋げていかなければなりません。私達にしかできないことなのです」


 それ昨日も聞いたよ。いい加減先に話を進めませんかね?敵の正体とかさ、一生卒業させない気かよ。昔は十年以上こんな生活続けていたとか。十年ってのはよく分からないけど長いのは確か。


「なあなあそうた、今日も来てないな。なんて言ったっけ?ひ、ひ、ひさ、き?」

「姫咲だよ。なんで覚えてない苗字の方言ってんだ?」


 う、しまった。無視すればいいものを構ってしまった。案の定ゆうじのこの面よ。


「そうたが名前で呼ぶなって言うからだろ?授業聞いててやれよ?来たらお前が教えてやるんだよ。手取り足取りな。うひひ」

「そんな時間ないだろ。僕もゆうじも、彼女も」


 動ける男連中はこの時間地下に潜っている。ここら一帯は大昔炭鉱があったらしい。その跡地の頭上に街が築かれた。かつての栄光は大昔の内に沈んでしまったのだ。それがどういうわけか、困り果てた挙句の足掻きに応えた天の恵みだとでもいうのか、広大な農業用の溜め池があったとされる場所の地下で金属が発見されたらしい。多分鉄だろう。授業で習った。


「彼女ねぇ?ふひひひ」

「授業に集中しろよ。お前らの親父は行ってるんだろ。みんな行くんだ。僕だって。いつまでもこんな事できるわけないんだ」


 これが大人の男の仕事だ。ゆうじもふっちもそうたも学校を卒業すればこの仕事に就くだろう。何のためにこんなことを続けるのか、疑問を枯れさせて。そして恋を忘れて、手近な女性と結ばれ子を残す。人類を絶滅させないために。


「そうたさんはこの話したくないらしいぞ?ふっちがもらってやるか?」

「い、いや。そうた君は」

「いいよふっち。ゆうじだもん」


 子供の出生率が下がっているだかで学校に通っていたのは四人。その内の一人が女子となればゆうじがうざがらみするのも分からなくもない。自分の将来の相手になるかもしれないのだ。仕事も決まっている。生まれた時から全てが決まっているんだ。選択肢なんてないのだ。


(別にそれが普通だからぼくもやるだろうけど。不満は、不満はないよ。でもぼくにはやりたいことがある。それって許されないのかな?普通の人間には)


 自由なのはこの短い学校生活の間だけかもしれない。それも捲り続ければ終わりが来る。絵の上書きは最後の抵抗だろうか。それさえも完全に終えていないのは見つかって怒られでもしたのだろうか。

 帰り際ふと振り返る。学校として使用される建物は絵で見たのとは随分とかけ離れている。元は簡易的に製作されたものだとか。今も使われていると知ったら当時の人達はどう思うだろう。誇りになるだろうか。


「見回り終了っと。昨日の今日では来ないか」


 遊び心を残してくれたのはありがたい。少なくとも自分は楽しかった。一番上まで登りきった日のことは今でも覚えている。

 だけど、どうして恋という感情まで残してくれたのだろうか。


「どうしたんだい?そうた、若いあんたがそんな顔してちゃいけないね」

「おばさん、こんちは」

「そうだよ、人をおばさん呼ばわりするくらい、若者は元気でなくちゃ」


 あなたには敵いません、元気な大人が一人だけいた。性格が男より男らしいこの逞しい女性は、お店を仕事としている。お店といっても、生活で使えそうなものを一か所に集め配るために作られた役所みたいな場所だ。学校と同じ昔の建物の再利用、書かれている文字は漢字というやつで、あれは佐藤と読むのだろう。でもこの人は佐藤さんではない。皆別に呼び頼りにされているのは、管理を徹底ちょろまかしたりせず配達も行うなど、彼女はそれを一手に引き受けている。おかげで他の人間が生命線である芋作りに精を出せるのだ。


「今日はそうたにこれをあげよう」

「え?!いいんですか?今日はまだそういう日じゃ」


 そうたに渡された包みの中には動物の肉が入っていた。偶にしか口にできないご馳走だ。


「いいんだよ。挨拶のできるいい子に育って、てのはおいといて、そうたのとこ大変だろ?これで少しでも力つけて頑張んな」

「ありがとうおばさん!」

「そうそう。けど偶にはお姉さんって呼んだっていいんだよ。げははは」


 その笑い方じゃ無理だよとそうたは思ったけど取り上げられたくないので口は割らなかった。


「焼いて塩するだけでうまいんだからみんな好きだよな。芋もこうだったらなぁ」


 そうたは家の前で立ち止まった。今泉と書かれた表札の下、郵便受けを覗き込んでいた。これも日課だ。


「帰ったよ。すぐ用意するから少し待っててね」


 居間の机の側に人が座っている。長い後ろ髪にほっそりとした肩幅、そこから伸びる腕まで細い。夕日を浴びる顔立ちはそうたとは似ていないが、年が離れすぎている衰えがある。彼の母親だろう。

 彼は廊下から挨拶だけして奥へと向かった。その先には失われた技術で作られた畳が敷かれた部屋があった。


「ただいま」


 中に入ると彼の体重で畳が凹む。床を突き抜けないようにすり足で慎重に進む。目的地には小さな墓があった。机やらもそうだが元々この家に置いてあったもの、その墓前に彼は足を折り曲げて座った。そして皺を合わせるように両手をくっつけた。周囲の人間が教えてくれた風習だ。


「今日はごちそうなんだ。あとで持って来るから食べてね」


 そこに誰もいない。昔は写真っていう絵を飾っていたみたいだけど、そんなものあるはずがない。でも記憶にはある。誰も言わなくなったけど確かにいたんだ。


「それじゃ後でね」


 夕食の支度、特に石を使っての火起こしは慣れたものだ。人間やる気になれば何でもできるってのを知ってしまった。諦めきれない性格になったのもそのせいだろうか。


「できたよ。食べよう、母さん」


 芋の側にはその葉が添えられるだけだった夕食に肉という花が咲いた。だけど二人だけの食卓には会話という花は咲かなかった。


「この油なんか使えないかな?使えそうなんだけどなぁ」


 海水で皿の汚れを落としてから真水で流す。水を汲みに行く回数を一日一回で済ませる、そうたなりの節約術だ。


「おいしかった。また食べたいな。次はいつかな?こっちに回ってくるといいけど」


 食後に一日の汚れを拭いて落とす。寝かせるために母を先に、火の管理があるから自分は後にして。


「おやすみ。無駄にしたくないから食べに来てよ?」


 床に直に寝るよりはましな布団に身を預けると一日の終わりが訪れる。数える方が馬鹿というような数の日々。天井の染みが形を変えていれば変化も感じられるものだが、毎日見ているものだから気付きようもない。

 目を閉じれば明日が来る。けど時々考える。寝ている間に襲撃されたら。

 敵だったらいい。その時は人は絶滅、一人残ったところで死ぬのが遅くなっただけ。でも人だったら。

 そんなことを考える自分が嫌で目を瞑る。同じ暮らし、同じ教育を受けていてもゆうじもふっちも違う。今頃二人はぐっすり眠っているだろう。不安があるとしたらゆうじに絡まれることくらいだ。


「明日は」


 夢を見る。寝ている時だけでも見てていいじゃないか。

 だからぼくは外を駆ける。自分の足で広い大地を、広い世界を。

 そして見つける。そうすればきっと何もかもが元通りだ。

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