表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/29

帰省

初任務が終わったあと、俺たちは学校で質問攻めを受けた。

当然のことだ。

しかし、教師陣には今回のことが詳しく伝わっているのだろう。

今日は寮に帰り休むことを許可してくれた。


今回の現場は総司令本部からとても近かったらしい。

そこでたまたまその場にいた特級魔女の風見さんを向かわせたようだ。

現場があとほんの少しでも遠かったら、俺は今頃死んでいたかもしれない。

今日は何もしたくなくて、ただベッドに転がって戦いのことを思い出していた。

俺はどこかで、努力しなくてもトップに近づけるのではないかと、そう思っていた。

実際に見たその頂はあまりにも遠く、「最強」や「3剣」などという言葉はとても軽く口に出せるようなものではなかった。

見ていなければどれだけ気楽だっただろうか?

見てなかった時代にはもう戻れない。

そんなことを考えさせられるほど、俺にとっては衝撃的な出来事だった。


いつのまにか寝てしまったようだ。

寝起きの、はっきりしない眼を開けると、白髪のイケメンが俺の顔を覗き込んでいた。

ドキッとはしなかった。

気分が気分だったし、何より男の趣味はないからだ。

「飯、作ったけど食えそうか?」

と心配そうに聞いてくる。

こいつ、こんなにいいやつだったのか。

今まで憎まれ口を叩き合ってきたからか、少し誤解していたのかもしれない。

「ああ、大丈夫だ。お前こそ勉強は大丈夫なのか?」

と聞いてやると、顔を真っ赤にして

「君は失礼を言うものを知らないのか!?」

と怒鳴ってくる。

うん、なかなか可愛げのあるやつだ。


その日の夕食はスパゲティだったが、目を見張る美味さだった。

劉玄は昨日と変わらぬドヤ顔を披露してくる。

この顔はちゃんとムカつくな。

よかった。


俺は少し気持ちに整理が着いた。

強敵と相対したことで、俺を取り巻く環境が変わるわけじゃない。

何もせずに突然強くなるわけでもない。

風見さんは才能の上に努力を重ねてあの領域にまで到達したのだ。

強くなるためには、死なないためには、かっこいいヒーローになるためには。


結局、頑張る他ないのだ。

隣や千里、眞子も同じような結論に至っていることだろう。

早いうちに身に染みて敗北を体験したことは、結果的には良かったのかもしれない。


翌日、俺と隣は執務室に呼ばれた。

そこには覇道、シバセン、そして速剣師範代の佐々木颯人ささき はやとがいた。

シバセンが口を開く。

「貴様ら昨日は災難だったな。

だが1体ずつ討伐したと聞いている。

良くやったな。」

と言い、俺たちの頭を撫でる。

シバセンみたいな厳格な人に撫でられると込み上げてくるものがあるなぁ。

佐々木が、

「それで、強かったか?聖級は。」

と聞いてきた。

「あぁ!すげぇ強かったっす!」

と隣が言う。

「そうか!強かったか!どうだ?勝てそうか?」

佐々木の問いに、今度は俺が答える。

「今のままではなんとも言えません。

しかし、洒落と呼ばれた聖級狂人は俺たちに筋があると言いました。

狂人の言葉を信じるわけではありませんが、絶対に努力して、あの領域まで登ってみせます!」

「その様子なら大丈夫そうだな。

隣もだが勝利、お前もなかなか骨のある奴だな。」

「そうだろう。

剣持は確かな才能の他に、強靭な精神を持っている。

剣士には何より重要なものだ。」

佐々木とシバセンが俺を褒めちぎる。

いやだから照れるって。

覇道はボロを出さないために喋らないことにしたようだ。

佐々木が

「それが聞けてよかった。お前らはもう戻れ。」

と言うので俺たちが踵を返すと、覇道が

「待てぇ!お前らぁ!」

と呼び止める。

「この間ゴリラの写真とバナナを置いたのはお前らみたいだなぁ!?」

血管がところどころ浮き出ている。

   …ヤベ。


あのゴリラいつか殺す。

ボロ雑巾さながらの姿で座学を受ける俺と隣。

翼が心配してきたので、

「人間っぽいゴリラにやられた。」

と言ったら翼は頭に?マークを浮かべていた。

劉玄は呆れた顔をしていた。

もう少し心配して欲しいところである。



それから2ヶ月がたった。

俺は剣術により一層取り組み、メキメキと上達していった。

座学の方はアレだが、まあなんとかなるだろう。

2ヶ月たったということは、1学期の終わりである。

やっと帰省ができる。

俺の実家は田舎にある。

母親は小学生の時に父親が蒸発してからずっと女手一つで俺を育ててくれた。

こんな俺でも感謝している。

早く母さんに会うのが楽しみだ!

帰省するためには列車に乗らなければならない。

その列車に長いこと揺られると俺の故郷に着くのだ。


列車のホームで懐かしい人物に出会った。

「隣に勝利!久しぶりね!」

「剣持くんに坂島くん!ご無沙汰しております。」

眞子と千里である。

すると翼が、

「勝利くんに隣くん、小学生に手出してるの?

それは流石にまずいって」「ちっがうわよ!バカにしてるの!?」

翼はこの2ヶ月で名前呼びに進化した。

そして分かるぞ、その気持ち。

俺が手を出したと思われているのは癪だが。

「こいつこんなだけど佐渡家の次期当主だぞ。」

と教えてやると、翼は信じられないものを見る目をしていた。

この目、見たことあるぞ!主に劉玄で。

その劉玄は反対方向らしい。残念だ。

お、列車が来たようだ。

言い争いをしている隣と眞子を尻目に、俺たちは列車に乗り込む。

そして、扉がしまった。

隣と眞子が外で「あーー!」と叫んでいる。

やっぱりこいつらバカだ。


乗車して40分ほどで翼と千里は降りた。

俺一人になってしまった。

これから2時間ぐらいひとりぼっちか。トホホ。

と思っていたら魔法指南高校の制服を見つけた。

長い黒髪をたらし黒タイツを穿いた正統派美人が本を読んでいた。

声をかけてみよう。

「よぉ、あんたはどこまで乗るんだ?」

「何あなた?

大人しく列車に揺られていることもできないの?」

「そう言わずに名前だけでも教えてくれないか?

俺は剣持勝利だ。」

「はぁ、仕方ないわね。

私は純宮琴音すみのみや ことね。琴音でいいわ。

純宮宗家の令嬢よ。」

なんと、こいつもお嬢様なのか。

ただ眞子と違ってちゃんとお嬢様っぽい。

「あなたが勝利なのね。

眞子から聞いているわ。」

「眞子」という単語に親密さが感じられる。

やはり御三家同士は幼少期から付き合いがあるらしい。

「確か気を抜いて死にかけた奴、だったかしら。」

あいつ…やってくれたな。

「あと剣技は綺麗とも言っていたわよ。」

可愛いところもあるじゃないか。さすがロリ。

「それで最寄りだったわね。私は信原しのはらよ。そう言うあなたはどこなの?」

「ああ、俺は遠野とおのだ。」

「あら、隣町なのね。こんな辺境に剣士がいるとは思わなかったわ。」

おっとどうやら俺はお嬢様のご近所らしい。

ただここで一つ疑問が。

「御三家ってもっと都会にあるものじゃないのか?」

「そうね。実家は東京にあるわ。

でも私都会嫌いなのよ。

私の家は放任主義だから、田舎に住むことを許してくれたわ。」

なるほど。実家じゃないのか。

「一人暮らしなのか?」

「ええ。親も最初は使用人を何人も寄越して来たけれど、全員私より家事能力が劣っていたから送り返したわ。」

「すげぇな。使用人さんより家事ができるとは。」

「元々一人暮らししようと思って田舎に行っているのよ。家事を一通りできることぐらい当然でしょ。」

と淡々と返された。


そんな話をしているうちに、列車は遠野に着いた。

「あら、ここであなたともお別れね。

また、会えたら話しましょ。」

「ああ、俺は毎朝ランニングで信原を通る予定だから会えるかもな!」

と挨拶して俺は列車を降りた。

ひさびさに吸う田舎の空気!

やっぱり田舎にも都会に勝るところはあるなぁ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ