狂人
亜空間から出てきた狂人は俺たちを見て、
「お前らは敵か?俺の捕食の邪魔をするのか?」
と気だるげに言った。
亜空間からは引き続き狂人が出てきて、合計で4体になり、亜空間は閉じた。
「4体も居んのかよ!」
「ええ。狂人は基本的に少数で徒党を組みます。
基本的には手足を刃物に変形させて攻撃したり、魔法を放って来ます。
中には固有能力を操る個体もいますので、お気をつけて。」
俺の口をついて出た言葉に、千里が応えてくれる。
そして間も無く。
「喰ってやるよ人間ども!」
という言葉と共に2体の狂人が襲いかかってくる。
「アイスシールド!」
という千里の言葉と共に目の前に氷の壁が張られる。
しかしその壁は狂人の手を変形させた刃によって粉々に砕け散った。
その瞬間、眞子が愛杖を手に叫んだ。
「血弾!」
狂人2体に向かってとてつもない速さで赤い玉が飛んでいく。
狂人はまたいた場所より遠くまで吹っ飛んだ。
「フフン、これが佐渡家相伝『血液魔法』よ。あまり舐めないことね。」
とドヤ顔をする眞子。
悔しいがすごい。
「まだです!狂人はコアを潰さないと死にません!」
ここで千里の鋭いツッコミ。
そうなのだ。
こいつらは際限なく再生してきやがる。
コアはだいたい心臓あたりにある。
これを破壊するのは主に剣士の仕事だ。
隣が吹き飛んだ敵の一方めがけて走り出す。
刹那、目にも止まらぬ速さで狂人を貫く。
貫かれた狂人は骨も残さずに消えていった。
倒したということだ。
「次はお前だぜ!勝利!」
と隣が笑いかけてくる。
…遅れるわけにはいかない。
緊張はある。
だがシバセンが言っていた。
「本来の力を出せれば4級狂人程度ならなんとかなるだろう。
ましてや今回は5級。負けるはずがない。分かるな?
私が教えたのだ。私と貴様の力を信じろ。」
その言葉を頭の中で復唱し、もう一方の吹っ飛んだ敵に向かっていく。
お前もキバれよ、ビクトリー。
敵はまだ眞子の血弾の影響もあるのだろう。
回復に時間がかかっている。
獲れる。俺はそう確信した。
基本的に剣術に技は存在しない。
技剣にいたっては名前に「技」とついているが、やることが多すぎていちいち名前をつけていられないらしい。
狂人が苦し紛れに火属性の魔術を放ってきた。
火の玉が近づいてくるが、跳んで避ける。
その勢いのまま、狂人の左肩から腰まで、深々と剣を入れる。
袈裟斬りだ。
感触は…あった。
狂人が叫びながら消えていく。
「フン、なかなかやるじゃない。」
という眞子の声を聞き、俺は「しゃああ!」とガッツポーズした。
初討伐だ!
だが俺は忘れていた。
狂人が4体いたことを。
最初に出てきた狂人が俺の方に迫ってくる。
ヤバい!と思ったが、俺の前に土の壁が出現する。
高橋さんだ。
「気をつけてくださいね。」
と言われた。
恥っず。
「戦闘中に気を抜くとかバッカじゃないの!?
締まらないわねアンタは。」
と眞子にも言われた。
態度の波が激しい奴だ。
さて残す2体、どう倒そうかと考えていると、再び空間が歪んだ。
中から出てきたのは、背が高く、細身の体型で耳に星型のピアスをつけた金髪の男。
そして、目が赤い。狂人である。
残されていた2体の狂人が、
「洒落様!」
と跪いた。
どうやらこの狂人、なんかエライ立場みたいだ。
田中さんがこの狂人に向かって飛びかかるが、
「2級そこらが聖級のオレの相手になるわけないだろ」
と腕の一振りで地面に叩きつけられ、動かなくなった。
せいきゅう……聖級だと!?
聖級は剣士が2人、魔女が3人存在する。
人間側には5人しか存在しないのだ。
俺たちは戦慄した。
田中さんは準2級だ。
俺たち新人組よりも実力と経験がある。
それが一撃だ。
俺たちに勝ち目なんてものは、なかった。
高橋さんは総司令に連絡したあと、
「緊急事態です!逃げて!」
と叫んだ。
その瞬間、高橋さんの体が二つになった。
俺たちはもうパニックだった。
洒落と呼ばれた狂人は、
「うるさいハエは邪魔だ。」
と躊躇無く高橋さんの体を真っ二つに切り裂いた。
残っていた二体に向けて、
「お前らはもう帰れ。今日の飯は諦めろ。」
と言い、俺たちの方へ手を翳した。
「さっきのを見ていたが、お前らは筋がいいな。
まあ面倒だから殺すが。」
と言ってきた。
「タイガー・フレイム」
という言葉とともに特大の火属性魔法が襲ってくる。
虎の形をしたそれは、一直線に俺たちの方へ向かってきた。
「血壁!」
と眞子が壁を造る。
アイスシールドよりも、高橋さんが出した土の壁よりも強固なそれは、炎の虎を一瞬押し返した。
が、すぐに壊される。虎が俺たちを蹂躙する。
痛い、熱い。
意識が飛びそうなほどの熱に耐えたが、俺たちは吹っ飛ばされ、立ち上がることができなくなっていた。
「さあ、じゃあ殺すか。才能がある奴が死ぬのは悲しいが。
俺の前に現れたのが悪かったな。
サンド・アロー」
という言葉と共に洒落の頭上にこちらを向いた4本の矢が現れる。
俺たちは死ぬ。
くそっ、死にたくない。
せめて一人ぐらいは助けて、ヒーローになりたかった…。
隣も
「くそがぁ!まだ兄様に追いつけてねぇのによォ!」
と叫んでいる。
矢がこちらにめがけて飛んでくる。
俺は目を瞑った。
俺は目を開けた。
状況は有る一点を除いて洒落が矢を撃つ前と変わっていなかった。
有る一点。
杖を持った青髪の女性が俺たちの前にいたことだ。
「危なかった。間に合ってよかったよ!
ボクは風特級魔女、風見綾華だよ。
杖は聖杖『大嵐』。
この狂人さんが聖級の奴かな?」
と前の女性が自己紹介する。
俺たちは唖然として声を出すことができなかった。
「飛ばされたか。お前、相当やるだろ。特級ってのがどんなものかは知らんが。」
と洒落が言葉を放つ。
どうやらこの人が矢を吹き飛ばしたらしい。
「そう、気になる?じゃあ、やるよ!」
と風見さんが風魔法を放つ。
ここからは二人の戦いになった。
魔法の撃ち合いだ。
とても俺たちに入れる隙なんて存在しなかった。
洒落が撃つ魔法を全て口に出すのに対して、風見さんは何も言わない。
「無言魔法はとてもレベルが高いんです。規模が広がると尚更。
それをあんな制度で撃つなんて。
さすがは『静かなる嵐』ですね。」
と千里が解説を入れてくれる。
そんなにすごい人なのか。
戦いは、俺たち4人を護るというハンデがあるからか、風見さんが少し押されている。
しかし、見てて不安感はあまりない。
どちらも全力は出していないようだ。
そのうち洒落の方が、
「悪いがこれ以上付き合っている時間はない。
お前、やっぱりやるな。頂怪様もお喜びになるだろう。」
と言い、亜空間に去っていった。
驚いた。これより上がいるのか。
その後色々あって風見さんは先に帰ったが、残された俺たちの帰路は行きと対照的にとても静かなものになった。