下弦の月。
月明かりの下、憂里は走る。
闇が周りの音を吸い込んで、足音がいつもより大きく響いている。
もう少し。
せめて、この先の三叉路まで。
家からここまでの約200mを全力疾走したせいで、心臓がはち切れそうだ。
それでもまだ止まれない。
パパやママはもちろん、
近所の人にも見つかる訳にはいかないのだ。
三叉路まであと、20m。
あと10m。
着いた。
憂里は道の別れ目で立ち止まり、小刻みに息をしながら、改めて来た道を振り返った。
悔いはない。
このまま行こう。
財布はあるし、念のためお年玉の預金通帳も持ってきた。ジュース2本にメロンパンとクリームパン。
あと、親友のミミもリュックに入っている。
息が落ち着いてから、通学路とは逆の道を歩き出す。
もう、いじめっ子ばかりの学校に行かなくていいし、怒りんぼのパパとも泣き虫なママとも会わなくてすむんだ。
1人で生きていくんだ。
もう誰にも頼らない。
大丈夫、なんとかなる。
憂里は今日の夜の事を思い出した。
怒っているパパの顔。
泣いているママの顔。
そして、こっそり聞いてしまった2人のケンカの内容を。
憂里は出かかった涙を袖でふいて、どんどん歩く。
例え2人のケンカが、憂里がいじめられている事が原因だとしても、もう憂里は居ないからケンカしないよね。
だからパパもママも大丈夫。
憂里は背中にリュックと下弦の月を背負って、歩き続けた。
8歳の少女の旅はまだ始まったばかりだ。
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