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紫アザレアが察するには  作者: こたつ
裏色の夏祭り
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 コミズサマ調査は特に何も解決せずに終わったが、何故かあの調査以降コミズサマの噂がパッタリと途絶えた。

その上に新しい被害も出なくなり、大人以外の体調不良者の体調も戻り、平和なまま夏休みに入った今日この頃。

 今日も今日とて月乃がうるさい。 


「つつじー!」

「何?」

「さっきからぜんっぜん話聞いてないよね!?」

「同じ話何回されたと思ってるの…。」


 月乃があの日に会った不審者についてずっと話しているのだが、今の私はそれどころではなかった。


「ヒガンが話があるって言ってるだけじゃねぇか。何をそんな考え込んでんだ?」


 リビングのローテーブルに突っ伏しながらこちらを見るあかねは見ているだけでそのふさふさの尻尾が暑そうだ。


「ヒガンさんがシガンさん無しで話しをしたいって言ってるんだよ。何かあると思うでしょ。」

「つつじは考えすぎですわ〜。」


 エアコンの真下を陣取り何かを読んでいるメリーさんがどうでも良さそうに口を挟む。

私は冷やしたミルクコーヒーを口に流し込みながら緩くメリーさんを睨むが、効果はない。


「そもそも、ヒガンはただ話があるって言ってるだけでシガン無しで、とは言ってねぇだろ。」

「シガンさんがいてもいいなら今日まで引き伸ばす理由ないでしょ。」


 ヒガンさんから連絡があったのはコミズサマ調査の次の日。

月乃が伝言を預かっていた。

その日付の指定が今日だったため今こうしてヒガンさんを待っているのだが、別にシガンさんがいてもいい話ならもっと早く話せるはずなのだ。

 現にコミズサマ調査から今日までの間に何度かシガンさん達と会っているし。


「タイミング的には月乃の不審者のことだと思うんだけど……。」


 コミズサマの件は結局よくわからない状態で終わっているし、今までヒガンさんが怪異の事に興味を示した事はない。

今の所私が知るヒガンさんの関心ごとは月乃だけ。

そして月乃に関する事だと考えると不審者の事になる。

 ヒガンさんは随分と月乃に興味を持っているようだし、その事だとは思うのだが……。


「でもそれなら僕まで呼び出す必要ないよね?」

「だよねぇ。」


 今回はフェレスも含めて全員に話があるらしい。

月乃に関する事でフェレスまで呼び出す必要は正直あまり無い。

 フェレスは基本的に家を開けていることが多く、家にいても私と一緒にいることが多い。

他で何をやっているのかは知らないが、基本的に月乃と関わるタイミングは少ないはずなのだ。


「何やぁ、えらい考えとんなぁ。」

「考えますよ。」

「そもそもヒガンが……って居んのかよ!?」


 どこから入ったのかふよふよと浮かぶヒガンさんが月乃の上にいた。

あまりにも自然に入ってきたため普通に会話をしてしまった。

 予想通り、シガンさんの姿はない。

 あかねは勢いよく頭を上げて驚いたが、すぐ暑そうに突っ伏す。

しっかりとエアコンが付いているこの部屋はそんなに暑くは無いはずなのだが。

 暑いのが相当にダメそうなあかねを横目に、ヒガンさんに冷たいほうじ茶を出す。


「で、ご用件は。」

「何やぁ〜つつじはいっつも冷たいなぁ。」


 ヒガンさんは笑ってはいるが、すぐに茶化すのをやめてほうじ茶を一口飲んで私の前に座る。

それを見て立っていた月乃も慌てて私の隣に腰を下ろした。

メリーさんとあかねは動かなかったが視線だけはしっかりとこちらを向け、フェレスは私の前の机の上にいる。

 これで話をする準備は整った。


「お前ら、おれらに何や隠しとるやろ。」

「と言いますと?」


 隠してる……となると実家の件だろうか。

小さな隠し事は他にもいくつか心当たりがないでもないが、ヒガンさんはわざわざ出向いてくるような隠し事は実家のことくらいしかない。

 だが確信はないのでできるだけすっとぼけよう。


「シガンには言わへんから、大人しく話しや〜。」

「すいません、心当たりが多いもので。」


 ニコニコと無邪気そうに笑うヒガンさんは思っていたよりも怖い。

何を考えているのかわからないと言う点ではいつはさんやムースと変わりはないが、ヒガンさんはその二人と比べて圧倒的に無邪気さが多い。

 計算された無邪気さを演出で作り出すような笑顔を持つムースにも、本音を一切表に出さずに表情を雑に作るいつはさんにも似ていないその性質は恐ろしさがあった。


「ほ〜ん。自分から言う気は無いんやな?」

「はい。」


 もしも要件が実家のことでは無かったら墓穴を掘るだけだ。

もし実家のことだったらその時はその時。


「まぁ、ええわ。何を隠しとるかなんて最初から分かっとるし。」


 そういうとヒガンさんは怪しげに笑ったかと思えば月乃に目を向けた。

突然納戸色(なんどいろ)の瞳に映された月乃はビクッとして何故か背筋を伸ばしていた。


「月乃ちゃんもグルなん知ってんで。」


 月乃の反応を見て笑いながらヒガンさんは一人一人に指を彷徨わせながら罪名を述べていく。

まるで裁判のようだ。


「月乃ちゃんは共犯。手、お前も共犯や。メリーと狐は……共犯やけどオレらに秘密にする実行犯やな。んで……。」


 ヒガンさんはゆらりと最後の犯人を指先で示しながら楽しそうに目を細める。

何がそんなに楽しいのだか。


「つつじ。お前が主犯や。実家のこと喋ったんやろ。」

「そうですね。少々面倒な事になったので。勝手に話した事は謝ります。」

「悪いやっちゃな〜。」


 今この場にいる誰よりも悪そうな笑顔をしている人には言われたくない。

ニヤニヤと笑いながらほうじ茶のおかわりを要求してきた。

 厳正なジャンケンの結果、月乃がお茶を持ってくることとなった。


「そこまで分かってて僕たちを集めたのは何で?」

「んん〜?やって、おれも実家の事はシガンに話したないからな。」


 フェレスの質問に片手を振りながら返したヒガンさんの口から出てきた言葉は正直かなり予想外だった。

 シガンさんとヒガンさんは絶対に同じ行動をすると思っていたのに。

 驚いていると月乃が台所で冷蔵庫に入っていたお茶をコップに注いでいる音がした。


「意外やった?」

「意外?いくら双子とは言っても、全く同じという事はないですわ。」


 ヒガンさんだけは私の驚きに気付いたようだが、他の四人は特に気づく事はない。


「どうしてシガンさんに話したくないんです?」

「というか、ヒガンさんはなんでわたしたちの隠してたことがわかったの?」

「おれが話しにきたんに、質問が多いなぁ。」


 ヒガンさんは笑いながら一つ一つ答えてくれる。

思いの外丁寧な対応に静かに驚きを隠したのはここだけの話だ。


「お前らが実家と何かしら繋がっとんなと思ったんはつつじやで。」


 一斉に全員から視線が突き刺さる。

 いや、いや、待て、確かに、確かに黙っておけと言い出した私が原因でバレたのは私が悪い。

悪いけどもそんな顔をしないでもらいたい。

 凄い顔で睨んできているあかねとメリーさんはとんでもなく鋭い目つきで私を突き刺している。

私が直接話した二人ではなく、月乃から遠回しに話を聞いただけの二人にここまで非難がましい視線を浴びせられるとは思っても見なかった。

そして私からバレているとも思っていなかった。


「お前、不審者騒ぎがあった日に実家の怪異にあったやろ。」

「ああ、やっぱりアレそうなんですか……。」

「せや。匂いですぐ分かったで。」

「それ私悪くないのでは……。」


 そっとあかね達の方を見てみたがまた睨まれた。


「んで、この匂いはまぁ人間にゃわからん。せやからシガンは気づいとらんねん。」


 続きを話そうと息を吸い込んだヒガンさんだったが、別の声によって話はそこで中断された。


「つつじー!お茶こぼしたー!!」

「何やってんの?」


 声がする台所の方を見ると、ついさっきまで普通にほうじ茶を入れていたはずの月乃が濡れた服で涙目になっているのが見える。

どうしてこうも的確なタイミングでそんな事が起こるのだろうか。

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