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「フェレスさあ、彼岸花の人とあの狐が言ってた人がおんなじ人だって、気づいてたでしょ。」
あの教室が凍りついた後。
ぶつかっていた生徒、いや、彼岸花の生徒と呼ぶべきか。
彼岸花の生徒の言葉が、化粧の逆鱗に触れたらしく、化粧が手のつけられない荒れっぷりを見せた。
それこそ大人の介入が必要なくらいに。
その後化粧と彼岸花は二人揃って先生に連れて行かれたが、そんなことはどうでもいい。
私は教室が凍りつく直前に、ぶつかっていた生徒の頭が見えた。
その頭には、真っ赤で毒々しい、呪いの花が咲いていた。
まさか、同じクラスだとは思っていなかったし、もう一つの夢に気を取られていて半分忘れていたくらいだ。
彼岸花の髪飾りの生徒を探していたことなんて。
そして時は今に戻り、放課後。
今は学校の図書準備室にいた。
書庫の本の整理と本の貸し出しの仕事を仰せつかっているから。
本の整理をしつつ、先生がいない隙を狙って、遊びに来ていたフェレスに話しかけているところだ。
先生は会議がどうこう言っていたので当分は帰ってこないだろう。
そして図書館の利用者もいないだろう。
かなり早かった委員会決定後、早一週間。
私は一度たりとも利用者の姿を見ていない。
「逆につつじは気づいてなかったの?」
呆れたような声に若干腹がたつが、いちいち反応するのも面倒なので流すとして、話を戻そう。
話題とは違う方向に行っていた思考を戻して、考える。
夢で見た彼岸花のひと。
妖狐が行っていた、この学校のせいと。
おそらくだが、彼女_彼岸花の生徒が学校に来ていなかったのは、化粧の迫害が原因ではなく、妖狐と一緒にいたのだろう。
そして、妖狐からあの無駄に美しい彼岸花の髪飾りをもらったとしたら。
休んでいた理由に説明がつき、さらに彼岸花の髪飾りによって夢で見た人だと確定できる。
彼岸花の髪飾りなんて、縁起の悪さなどを考えるとそう多くの人がつけているわけではないだろうし、最近の流行に彼岸花の髪飾りなんてないはずだし、そこは間違いない。
さらに、怪異にあう人間はの数は、とても少ない。
身近に二人、しかも同じ地域にいる確率は、おそらくとても低い。
___情報は色々あったのだ。
私がこの結論に辿り着いたのは今朝の出来事があってからだ。
しかし、今朝のことがある前に気づくこともできたはず。
よく考えたら、妖狐は手や足なんかにそれなりに派手な飾りをつけていた。
なのに、頭、髪にだけは何もつけていなかった。
それに、妖狐の着物の柄は、彼岸花。
それにこの手首が気づいていないとは思えない。
案の定、彼は気がついていたようだし。
「よく見てるよねぇ……。」
フェレスとの会話は、何処か駆け引きのように感じる。
だからあえて、気づいていたのかという質問には答えない。
どうせ興味もないだろう。
「何をよく見てるの?」