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紫アザレアが察するには  作者: こたつ
青紫の隠し事
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「さて、テスト結果はどうだったかな?」


 テスト期間が終わった次の週の放課後。

私と月乃は図書準備室にいた。

もちろんキリカさんも胡散臭い小戸路先生もいる。

 どうして普段は部活に行く月乃もいるかといえば、ちょうど今日全てのテストが返却されたからだ。

 そのためみんなでテストの結果を見せ合おうと言う会が今行われようとしているのである。

ちなみに提案者はハラキさんらしく、キリカさんの隣でワクワクしている。

 月乃も自信があるのか不安そうな顔はしていない。

 そんな中、ニコニコと胡散臭く笑う小戸路先生が会の火蓋を切ったのが冒頭の台詞である。


「じゃあ理系から行こうぜ!」

「ハラキくん、理系でいい点とったから早く自慢したいだけでしょ。」

「余計なこと言うなキリカ!」

「じゃあ数学から行こうか。」


 そんな調子で数学、理科、社会、英語、国語、副教科の順に点数が発表されていく。

私はぶっちぎりの文系のため前半はそれなりに地獄だった。

 

「やりぃ!総合点オレ一番!!」

「あ〜あ、あとちょっとだったのに!」


 さすがに生徒会長というだけあってか知らないが、ハラキさんの点数はとんでもなく高い。

ハラキさんには悪いが、正直意外だったことは黙っておこう。


「キリカくんだって十分高いじゃん!」

「ふふふ。後輩ちゃんに点数見せるんだからがんばったよ〜。」


 頬を膨らませてほざいているのは最下位の月乃。

そりゃあ一週間前から睡眠時間を削って勉強していたらそうなるだろう。

テストがある一週間、ほとんど寝ていなかった気もするし。

それではテストに支障が出ると言ったが、案の定聞く耳を持たれなかったので知ったことではないが。

 それより、月乃がいつのまにかキリカさんにタメ口聞いていることがジワジワと怖い。

本当にどうなってるんだあの人のコミュ力。


「月乃ちゃんも頑張ったじゃん!苦手だって言ってた国語と英語、平均点超えたんだろ?平均超えれたんなら十分だ!」

「うん、少人数のクラスなのもあって他のクラスよりも平均点高くなりがちだからね。苦手なのに超えられたのはすごいよ。」

「本当!?すごい?」


 ハラキさんと小戸路先生が月乃のフォローにまわり、月乃はニヤニヤして調子に乗り出した。

見ていて若干腹立たしい気もするが、あんだけ無理して勉強をしていたのを見ている手前文句も言いづらいので黙る。

 やることも会話に混ざることもなくもけ〜っとしていると、ふと本を読み切っていたのを思い出す。

そういえば本を借りようと思っていたのだったか。


「本借りてきます。」

「いってらっしゃい。」


 立ち上がって本を探しに図書準備室の扉を開ける。

ひんやりした空気と静寂に包まれる図書室の棚の隙間を縫って本探しを始める。

途中紅い本があった気がしたが、怖くてその棚は無視して本を選んだ。

 今日は先生の本にしよう。

手早く返却処理、貸し出し処理を終え返却した本を元の棚に戻してから図書準備室に戻ろうと扉に近づいた。


「つつじは、」


 ふと、月乃の声がして、ドアノブに触れかけた手が止まる。

なんとなく、扉が重そうに見えた。


「いつも涼しい顔して色々流すっていうかなんていうか……。」

「かっこいいよな!」

「でもなんか、結局つつじがそういう風にできるのは才能か何かで、つつじ自身はなんにもしてないみたい。」

「別にそんなことはないと思うよ。」

「勉強、してるのほとんど見たことない……。」

「よく本読んでるからじゃない?」

「別の人ならどこかで努力してるんだって思うんだけど、つつじはそんな感じしないんだよね。」


 うん気まずい。

扉を開けなくてよかった。

間違いなく戻るタイミングは今じゃない。

 私はもう一度本棚の方へ向かい、本を眺める。

たまには二冊くらい借りてもいいかもしれない。

時間を潰すのには丁度いい。

 月乃のガス抜きにも私の本探しにも丁度いい時間が生まれた。

 最近、やけに不服そうな顔をしている気がしていたが、なるほどテストの点数を気にしていたのか。

そういえばいつかの勉強会の寝不足月乃が同じようなことを言っていたのを思い出す。

 そこまで私は暇そうに見えたのだろうか。

まぁ、ゆるゆると過ごしてはいたのは事実だ。

 だからと言って文句を言われる筋合いもないのだが。

結局そういうものだ。

 本をもう一冊選び貸し出し処理をした後、今度はすぐに扉を開ける。

また気を使わされてはたまらない。


「おかえり!」

「いい本はあった?」

「ありましたよ。」


 適当に会話をしながらまだ出してある折りたたみ式の机に本を乗せ、パイプ椅子に腰掛ける。

そっと四人の顔を見るが、いつも通りの顔に見える。

これならさっきの会話は何も気にしなくていいだろう。

 素知らぬ顔は得意だ。

 そのまま和やかに時は過ぎ、下校時刻となった。


「じゃあな!」

「またね〜。」

「バイバイ!」

「さようなら。」


 各々言葉を交わしながら準備室を出る。

小戸路先生は何も言わなかったが、いつものことだ。

 最近は下校途中にシガンさんの実家から尾行者がくることもなく、平和な帰り道は今日も平和で、誰かに追われることなく歩く。

いつもの景色が流れ、隣では月乃がクラス内情勢について熱く語っている。

 別にクラス内の恋愛事情なんて熱く語るようなことはないと思うが。


「でね、……ってつつじ!聞いてる!?」

「何?」

「話聞いてなかったよね!?」

「聞いてたよ。」


 ハラキさんの声の大きさが移ったのか、月乃の声は普段の三倍くらいうるさい。


「じゃあなんの話してた!?」

「恋愛。」

「うっ、ちゃ、ちゃんと聞いてたならいいの。うん……。」


 急に百デシベルくらい小さくなった月乃の声を聞きながら心の中でガッツポーズをする。

全く話を聞いていなかったためかなり抽象的に言ってよかった。

下手に詳しく言おうとしていたら危なかった。


「で、相談なんだけど……。」

「却下。」

「まだなんも言ってない!」


 今までの月乃の相談事は教室内のいざこざやらテスト勉強やらととんでもなく面倒かつ何を言ってもどうせ聞かないようなものばかりだ。

つまり、何が言いたいかというと、聞くだけ無駄。


「別に聞いてくれる人他にもいるでしょ。」

「いや、それが……。」

「怪異絡みなら聞くけど。」


 やけに言いにくそうに俯く月乃を見て、もしや怪異関係でクラスメイト達に話せないのか、と即座に連想ゲームをした私を誰か褒めて欲しい。


「いや別にそんなことないけど。」


 連想ゲーム失敗。

それなりに深刻な話かもしれないとすら思った私の気遣いを返せ。

 しかし、月乃がここまで言い渋るのも珍しい。

普段なら私が聞かないと宣言しても気にせず話し続けるのに。

 怪訝に思いながら月乃を観察してみると、ゆっくりと顔を上げてまるで花が開いていくかのような速度で頬に薔薇を咲かせながら小さく口を開いた。


「_______た。」

「………。」


 聞こえなかったので聞き返すこともなく無視をする。

しばらくお互いに無言で歩き続け、メリーさんに殺られかけたトンネルに差し掛かったところで月乃がまた口を開く。


「す、好きな人ができた。」

「………。」


 だからどうしろと?

 咄嗟に出てきかけた言葉を全力で飲み込んだ。

常々思っていたのだが、好きな人ができたからと言ってわざわざ言いふらす女性の習性はなんなんだ。

言われたところでだからどうしろというんだ。

 牽制のためとか応援しろよ、って圧をかけるためならばまだわかる。

だが、特にそんな意図が透けることなくただただ報告されても困るというかどうしろというんだ。

 

「つ、つつじ?」

「ああ、ごめん。ちょっと困惑してただけだから。」

「困惑!?どこに困惑するとこがあったの!?」


 月乃がぎゃーぎゃーと言っているのを聞き流しているとすぐに気を取り直した月乃が楽しそうに話し出す。

 その大半を聞き流しながらだいぶ明るくなってきた空を眺めながら歩く。

そのうちもっと明るくなるだろうが、まだ薄暗かった。

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