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紫アザレアが察するには  作者: こたつ
青紫の隠し事
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 シガンさん達の家は、いつかフェレスが言っていた代々一族皆が“視える”家の一つ。

いつからそう(. .)なのかは分からないらしいけれど、もう随分と古いって言っていたよ。

その分古いしきたりや慣習なんかが多かったらしいね。

 でも一番の特徴はやっぱり、視える人間の多さ。

 “見鬼(けんき)”や“憑人(つきびと)”と呼ばれる人間がよく生まれる古い一族。

それがシガンさん達の実家、蘭棚(らんたな)家。

でも、ただの偶然や血筋だけではそんな家系は生まれない。

どこかで妖や怪異の血が混ざっていないとまずそんな人間は生まれないし、一族全員がそういう人間だなんて事は異常としか言いようがない。

 シガンさん曰く、蘭棚家の人々はその異常性を保つことに全てを注いだんだって。

何もかもを犠牲にしても。

 実際に何をしていたのかは教えてもらえなかった。

何かをしていたのかもしれないし、していなかったかもしれない。

もし仮にしていたとしても、それが何かに対する“縛り”によるものなのか、ただの“欲”に過ぎないのか……。

これもまた私は知らない。

 少し話が変わるけれど、シガンさんとヒガンさんは双子なのは知ってるよね?

嗚呼、フェレスは知ってるの。

そう、双子は“畜生腹(ちくしょうばら)”、“忌子(いみご)”とか言われてきた歴史がある。

 理由は色々あったと思うけど、今は割愛。

シガンさんとヒガンさんは双子で、生まれは古いしきたりに厳しい家。

もうわかるよね、そういうこと。

 ただここからが複雑でね。

ヒガンさんは今人間じゃなくて妖。

 あれは最初から妖だったわけじゃないの。

元々はシガンさんとヒガンさん、二人でひとつ、今はヒガンさん一人が持ってる力を持ってた。

 そのせいで片割れを引き離す訳にはいかない上に、そういうこと(. . . . . )で位階が決まる家だから、二人は蘭棚家としてもかなり特殊な立ち位置になった。

 そして何か(. . )があって、あの人達はそこから逃げている。



「私が知ってるのはここまで。」


 ここまで一気に歩きながら話すのはかなり疲れる。

若干上がっている呼吸を整えながら歩く。

もう少し運動した方がいいかもしれない。

 

「つつじ、位階って何?」

「さぁ?私も詳しい事は知らないの。」

「予想でいいから。」


 いつのまにか月乃の頭から降りてテチテチ歩くフェレスの手の甲を見下ろしながら少しばかり思案する。

言葉を選び終えるのに数秒かけ、息を吸う。


「多分だけれど、“視える”程度や能力によって格付けされてたんじゃないかな。格が高い、つまり位階が高ければ次期当主になれる、みたいな感じじゃないかな。逆に位階が低ければ血族であっても扱いはぞんざいになっていく。」

「シガンさん達って、その位階っていうのが高いの?」

「低くはないんじゃない?追手がきてるし、その追手もシガンさん達には勝てなさそうだし。」


 そんなふうに話していれば、すぐに赤い屋根の家に着く。

慣れた様に玄関口に立って戸を開ける。

いつも通り、鍵はかかっていない。

 月乃だけがお邪魔しまーすと軽い声でいうのがあたりに響く。

 

「いらっしゃい。なんせ、今日は追いかけられとぉないし。」

「少し面倒なことになりまして。」

「そぉか。」


 短く会話をしながら二階に通され、いつはさんの自室という五畳ほどのフローリングの部屋に四人で座る。

 部屋は少しごちゃついている様に見えるが、どこか整然とした印象を与える不思議な部屋。

 何故か懐かしさを覚えるこの部屋は苦手だ。


「で、どうしたせ?」

「学校に直接来ました。」


 それだけで察したらしく、いつはさんは小さく頷いて先を促す。

読めない笑顔を貼り付けたいつはさんに一通りの説明を終える頃には、月乃が船を漕いでおり、フェレスが船を転覆させた。 


「どうしましょうか。」


 いつはさんは鏡の様な窓を見ながら視線で弧を描くと退屈そうな笑顔で言葉を放る。


「あちらさんには警戒されたせぇ、当分は何もないせ。」

「本当!?」


 嬉しそうに月乃が声を上げるが、すぐにいつはさん厳しく予想を告げる。

その予想はここにいる月乃以外は全員分かっていたことだ。


「そん代わり、次はもっとどでかいなんかがくるし。なんがあっても、警戒は怠らんに越した事はないせ。」

「あと、ムースも気にしといた方がいいね。最悪なのは、二方向から怪異が来る事。ただでさえコックリさんの時も大変だったんだから、あっちも侮れない。」


 運良くシガンさん達があのタイミングで来てくれなければ終わっていた。

不安がこびりつく様に息がしづらい気がしたが、それを深呼吸で誤魔化す。


「最近、夢は見たせ?」

「直近では、家の夢を視ました。大きな純和風の家で、そこに入っていく様な夢です。」

「確か秋っぽいって言ってたよ。」

「紅葉とか銀杏が生えてたそうですが、怪異絡みなのであまり当てにはできません。」


 怪異に異空間にとばされると季節や時間がズレることがある。

ただ、この夢が現実になるのは最低でも二ヶ月以上先だとフェレスが言っていた。

多分まだ夢を覚えていた私がフェレスにそう言ったのだろう。


「じゃあ今日はここらで解散、と言いとぉけど、娘っ子がどっか行ってもうたせ、さがさなな。」

「娘っ子?」


 何のことかわからずいつはさんの首元を見るが、答えはくれなかった。

答えをくれたのは大きな声で驚いた様に体を跳ねさせたフェレスだ。


「月乃ちゃんがいない!?」

「嘘でしょ……。」


 その声に当たりを見回せば、月乃の姿はどこにもない。

代わりに月乃のいた場所には見覚えのあるシャボン玉の様な硝子細工。


「ムースか。」

「多分何かしらの怪異だと思うけど、僕何にもわかんなかったよ。」

「神隠し特化の怪異さな。」


 ムースが何かした可能性もあるが、一旦それは置いておこう。

確か、最近の夢に怪異絡みのものがあったはずだ。


「公園に行きましょう。」

「どこの公園?」


 テキパキと立ち上がって荷物をまとめながら早口に動き出す。


「川向こうの小さい公園。住宅街の隙間にあるとこ。」

「分かった。」


 川向こうといってもそう遠いわけではない。

ここからなら十分とかからないだろう。

 私が見た夢の一つに、そこの公園のものがあった。

それが今回の怪異だという確証はないが、直感がこれだと告げている。

 公園のブランコの前に佇む白いドレスの女性。

ドレスの様に色の白い肌で、日本人の様で少し違う彫りの深い顔立ちの泣いている人。

そう聞いている。

 暗くてそれなりに寒い中、三人で早歩きで件の公園へ向かう。

ここで走らないのは主に私の体力の問題だ。

荷物を持たせてしまっているいつはさんは息一つあがらずにかなりの速さで歩いているのに、情けない。

 早歩きにも関わらずすでに息が上がっている私を無視して二人は会話をしている。


「変な気配した?」

「一瞬、妙な感じがしたせぇ娘っ子がおらんのには気付いたし。けんど、ほんの一瞬せ。何かはわからんし。」

「う〜ん。僕は何にもわかんなかったけどなぁ。」

「多分、あんの娘っ子がよっとるんせ。娘っ子、コクリしたんせろ。そん時にあっちに近づいとるし。」

「近づいてるから感知しにくかったのね。でも、いつはは何で一瞬でも分かったの?」

「うちら妖は完全にあっちがわせ。左手(ゆんで)、お前さんはどっちでもないしー。」


 なんかわかりそうでわからない会話をしているが、多分月乃がコックリさんしたせいでまだ影響が残っていたとかいう話だろう。

 聞き耳を立てながら早歩きし続ければ、いつの間にか目的の公園が見えてきた。

いつはさん、フェレスに続いて公園に入ると、目の前の景色が歪み、夕方の白昼夢が始まる。

【暗い、暗い公園で揺らめく、白い影。腰まで伸びる黒と茶色の間の髪が揺れる。背を向けていたソレが、ゆらりと振り返るその体は痩せに痩せ、顔は半分潰れた様に赤黒く、黒い涙で汚れている。】

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