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紫アザレアが察するには  作者: こたつ
青紫の隠し事
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66

「戻りましたー。」


 声をかけながら準備室に入ると、軽い声と共に迎えられる。

小戸路先生とキリカ君はさっきと同じ場所に座っていて、小戸路先生の顔は胡散臭い。

話している間に月乃もきたらしく、机でワークと睨めっこしているからだろう。

 これだけ人がいると、どこか陰鬱だった部屋に爽やかな風が吹いている気がする。

テスト期間が終われば吹き止むだろうけど。


「怒られたー?」

「人違いでした。」

「にしては遅かったね?」

「誤解を解くのに時間がかかりました。」

「つつじー、わかんないー!」

「知らん。」


 言葉を返しながらパイプ椅子に座り、一旦スマホを出す。

そのままメッセージアプリを開き、いつはさんに連絡を入れる。

ちなみにいつはさんの連絡先は月乃にもらった。

いつはさんが電子機器を持っているのは驚きだが、何で月乃が連絡先を持っていたのかは謎だ。

きっとコミュ力の化け物はこんなものなんだろう知らんけど。

 まだ脳みその疲れを感じるが、途中だった科学の問題を片付けないといけない。

じゃないと罰ゲームを喰らう。


「せんせぇ!わたしとつつじのテストにハンデをつけるべきだと思います!!」

「何でかな?」

「勝てません!!」

「山瀬さんがいいならいいよ。」

「いやです。」


 そんな会話をしながらに各々の勉強をして、いよいよ罰ゲーム付き小テストの時間。

罰ゲーム付き小テストは毎日帰る五十分前に行う。

これは余裕を持って罰ゲームをこなすためだ。

 制限時間は二十分。

問題は小戸路先生特性で今日は理系科目。

参加者は私、月乃、キリカさん。

もちろん私たちとキリカ君の問題は違う。

テスト範囲から違うので当たり前と言えば当たり前だが。


「じゃあ、今から時間測るから。いくよ………初め。」


 その声を合図にプリントに目を通す。

手早く問題数を確認すると一問目から順に解いていく。

最初は数学系の問題。

わからないところは早々に飛ばして理科系の問題に。

ほとんどが暗記になる理科系の問題はすぐに解ける。

それが終われば次は飛ばした計算問題を解く。

 そのまま時折時間を確認しながらシャープペンを動かし続ければ すぐにテスト時間は終了。

 即座に小戸路先生が採点をする。

 祈る様に先生の声を待つ者、ニコニコしている者など色々いるが、順位はいつも通りだった。


「はい、採点終わり!順位は、一位キリカ、二位山瀬さん、三位月乃さん。」

「またじゃん!!」

「ドンマイドンマイ。次はいけるよっ!」

「昨日もおんなじセリフ聞きましたけど。」

「やっぱハンデいるって!」

「負けは負けなんでね、走ってこーい!」

「あぁぁぁぁ!!」


 奇声を上げながら走っていった月乃を見るのは果たして今日で何度目になるのだろうか。


「やー案外順位変わんないモンだね。」

「次は少し難易度調整しましょうか。」

「やるならキリカさんの問題の難易度上げる程度にしてください。」


 一瞬で室内の空気が下がり、各々適当に話す。

この間私は薄暗い中間違えた場所の確認を済ませる。

キリカ君はスマホを開き、小戸路先生は月乃のプリントに説明を書き込む。

いつもの光景だ。

 ふと、私は先ほどの非日常を思い出す。

そう言えば、あの人たちは月乃の事を『お友達』と呼んだ。

 つまり、月乃の存在を認識していて、なおかつ面も割れているはず。

もし今、月乃が一人のところにあの二人が近づいたらどうなるだろう。

 間違いなく、月乃は余計な事を話す。

 ちょっと良くないか。


「あれ?」


 怪訝そうな声が準備室に響く。

嫌な予感を感じながら声の主であるキリカさんの姿を探すが、室内に見当たらない。

いつのまにか移動していたのだろう。


「どうしました?」

「先生。ちょっと来てみてよ。」


 どうやら図書室の方にいるらしいキリカさんの元へ小戸路先生が歩き出す。

嫌な予感がした私もそれに続く。

 どうやら予感と懸念が的中してしまった。


「あの人達、誰かな。親にしては若すぎるし、先生ではないよね。だってみた事ないし。それに、あれ明らかになんか探してんじゃん。」


 そう言ってキリカさんが図書室の窓から示したのはやはりあの二人組で、二人は誰かを探す様に首を動かしている。

スーツの男性に黒いワンピースの女性の組み合わせは、学校内においてどう見ても不審者だ。

しかも先生とキリカさんが気づいているかはわからないが、女の人の方はワンピースのポケットに手を突っ込んでおり、その隙間から微かに光が反射して見える。

こちらには気づいていなさそうだが、その手に持っているのはあの薄い刃物だろう。


「……行ってみましょうか。」


おそらく刃物を持っている可能性があることに気づいたのであろう小戸路先生の声は歯切れが悪い。


「はーい。」

「君たちは留守番ですよ。」

 

ついていく気しかなかった私とキリカさんに呆れた様な目を向けながら先生が言う。

だが、それで諦める私たちではない。

 そもそも、あの人達は普通に危ない。

確実に刃物を持っている。

 それに、もし怪異関係の力を出してこられたら非常に困るのだ。

私ならまだしも、小戸路先生やキリカさんが巻き込まれでもしたら一大事。


「別に愁くんがダメって言っても行くし。」

「月乃が心配なので。」

「キリカ君はともかくつつじさんは思ってないでしょう。」

「面白そうなんで行きたいです。」


 そんな調子で駄々をこねる事数分。

小戸路先生が折れた。

 とてつもなく嫌そうかつ面倒そうな顔をしているが。


「仕方ありませんね。でも、危ないと思ったらすぐに逃げて下さいね?」

「わかりました。」

「りょ〜。」


 さて、どうしたものか。

件の二人の元へ向かいながら、私は考える。

 おそらくあの二人は月乃を探しているはず。

私がダメなら月乃を当てにしよう、と言ったところだろう。

 幸いにも月乃はグラウンドにいるはずで、あの二人がいたのは中庭。

まずかち合うことはないと思う。

 とは言ってもあの二人が移動して仕舞えばその幸いも無くなってしまう。

 

「あれ?さっきまでここにいましたよね?」

「いなくなってんね。」


 気づけば目的の中庭についていた様で、小戸路先生とキリカさんが怪訝そうにしている。

 中庭は誰一人としておらず、静まり返っていた。

冷たい風が寒々と通り過ぎる中、私達三人だけが立ち尽くしている。


「にしても人っこ一人いないねぇ。」

「この時期は自習室に残る人以外はほとんど帰るからでは?」

「そういやそうか。」

「一応グラウンドの方も見ますか?」


私は小戸路先生を見上げながら聞く。

 私は内心かなり焦っている。

 もし月乃に接触されていたら不味い。

その場合おそらく今頃全ての情報が漏れている可能性が高い。


「そうですね……。」

「もしあの人達が不審者で、室内に入ってたら大変じゃん。オレ、北舎見てくる!」


 そういうと、キリカさんは走っていってしまった。

行動力すごいな。

 そんなキリカ君を見つめながら、小戸路先生が口を開いた。


「僕も一応校舎内を見てきましょう。もし不審者だったら大変です。つつじさんは準備室に…。」

「グラウンド見てきます。」


 先生の声を遮ってそのまま踵を返してグラウンドに向かおうとする私に、呆れた様な声がかかる。


「もし危なそうだったらすぐに逃げるんですよ。」

「了解です。」

「絶対ですよ?流石に凶器は持っていないと思いますが、体格的に勝てないのは目に見えてますからね?すぐ逃げるんですよ?」

「了解です。」


 おそらく女性の方は刃物を持っているが、どうやら気づいていなかったらしい小戸路先生には黙っておこう。

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