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紫アザレアが察するには  作者: こたつ
青紫の隠し事
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「つつじぃー、月乃ちゃん可哀想だよ?」

「自業自得だから。」


 いつの間にかフェレスがベッドの上にいたが、いつものことなので驚くこともなく言葉を返す。

 月乃はまだ部屋の前で叫んでいるが知ったことではない。

せめて全教科でなければ考えたが、全教科今から教えられるほど私には時間がない。

 私はただでさえ勉強なんて大嫌いなのだから時間をかけないといけないのに。


「でもつつじ、暇そうだよね。」

「今休憩。」

「いっつも休憩してない?」


 別にそんなことはないと思う。

最近は図書準備室で過ごす時間はキリカさんがくる様になってからは小戸路先生に監視されながら勉強をしていたし、学校が終わった後も最低三十分、長い日は一時間半くらいは色々やっている。


「つつじぃぃー!!」

「ほら、そろそろ折れてあげないとあかね達がかちこみにくるよ。」

「どこでカチコミなんて言葉覚えたの?」

「シガンとヒガンが言ってた。」


 真面目に義兄達の職業名にヤがついていないか聞くべきだろうか。


「つつじぃぃぃぃ、ほんとに、ほんとにやばいの!ここで赤点とか取ったら奨学金がぁぁぁぁ!!」

「なんであの人奨学金取れたんだろう。」


 いくら推薦入試ならほぼ確実に奨学金が取れる様な学校とはいえ、こんな状態でよく奨学金が取れたものだ。

 そろそろ月乃の声が煩わしく思えてきたし、ドタドタと階段を登る二人分の音が聞こえてきたので私は仕方なくこれからやる予定だった勉強道具を手に持ってため息と共に扉を開ける。


「私の勉強の片手間でしか教えないから。」

「ありがとぉぉぉ!!」


 今にも泣き出しそうな顔をした月乃とその周りに若干引いているあかねとメリーさんを連れて階段を降りる。

そのままリビングまで直行して勉強をスタートする。

 フェレスとあかね、メリーさんはガヤだ。


「つつじ、ここわかんない。」

「計算ミス。」

「つつじ、ここ…。」

「暗記。」

「ここは…」

「公式。」

「つつ、」

「授業中何してたの?」


 そう言いたくなるほど月乃の『わからない』は多い。

そもそもワークの問題を解いていれば解ける様な問題だ。

ワークがない教科でも教科書とかに書いてあるだろう。


「だってわかんないんだもん……。」

「中学の時どうしてたの……。」

「ほら、テスト前って先生が一ヶ月くらい前からうるさかったじゃん。だからそれまでに無理やり詰め込んだ。」

「で、高校ではそうやって言われなかったから特に意識してなくて気づいたらテスト一週間前だった、と。」

「はい…。」

「でも宿題とかはちゃんと提出してるんでしょ?今の所月乃のミスは計算ミス、暗記不足だけで、理解できてないわけじゃない。」

「宿題…まだ出せてない……。」

「………全部?」

「提出がテスト期間中じゃないやつしか出してない。」

「終わってるの?」

「まだ。」

「家で何やってたの?」


 もはや呆れを通り越してどうでもよくなってきた。

私は手元の生物のワークに向き直る。


「でもつつじがおかしいよー。」


体を伸ばして数学に取り組みながら月乃がぼやく。


「何が?」


 ここなんだっけな。

細胞の話だったはず…。


「だって、怪異にあった日って、もうやる時間ないじゃん。疲れちゃって。」

「私は月乃が部活行ってる時間も使えるからね。」

「図書準備室で本読んでるだけなのに?」

「本読むと国語であんまり困らなくなるよ。」

「………そういえば、つつじが勉強してるの初めて見た気がする。」


 月乃は計算問題に飽きたのか私の方を見て会話に神経を注ぎだした。

多分一人でやった方が勉強捗るタイプだろう、月乃は。


「つつじ、家で全く勉強してなさそうなのに小テストとかでいい点取ってるよね。」


 そういえば、月乃は小テスト前によく教科書を広げていたのを見かけた。

ブスくれた表情で月乃がシャープペンを回す。

私もアレできる様になりたいがまだ十回に三回くらいしか成功しない。


「いいなぁ、天才はぁ〜。」

「今日大丈夫?」


 勉強のしすぎで頭がおかしくなっているのではないか。

それくらい、今日の月乃はらしくない。

普段はこんなに嫌味たらしくないし、ここまで集中力がないこともない。

 そこで月乃の目を見て初めてその瞳が眠たそうに細められていることに気づいた。


「あかね、メリーさん。月乃昨日何時に寝た?」

「昨日か?昨日は、アレが今ぐらいになった時に寝たぞ。」

 

 あかねが時計を指差して言う。

現在時刻は午後四時。


「何時に起きた?」

「今日は休みだからって辰の刻すぐに起きてたぞ。」


 辰の刻は確か七時から九時を表すはず。

そのすぐならば七時くらいだろう。

 つまり、月乃は深夜、いや早朝の四時に寝て朝の七時半に起きた、と。

そりゃあ眠くて顔色も悪くなるし何も頭にはいらないだろう。


「月乃、一旦寝な。」

「なんで?勉強しないと……。」

「あかね、メリーさん、寝かせて来て。じゃないと体調崩すよ。」

「わかった。」

「わかりましたわ!!」


 月乃は不満げだったが、あかねとメリーさんに連れられて部屋に戻って行った。

今頃布団が敷かれて寝かしつけが始まっているだろう。


「月乃ちゃん大丈夫なの?」

「大丈夫だよ。」


 別に一週間くらいなら寝なくても死にはしないだろう多分。

ただそんな状態で生活するのは健康にも勉強にも毒だ。


「つつじにも見習って欲しい勤勉さだね。」

「自分の体調管理もできない人間になれと?」

「もっとあるでしょ見習うとこ。」

「さて何のことやら。」


 移動が面倒なので今日はこのままリビングで勉強するとしよう。




 テストまで残り三日の今日。

あれから月乃は本気を出したらしくほぼ毎日リビングの机に張り付いていた。

おかげでそれを見たシガンさんからお前もちゃんとやれ、と言う小言までもらった。

 解せぬ。

月乃よりも先を見越して宿題を終わらせて細々とやっていたのに。

なぜ私が小言をもらわねばならない。

 そんなことを思いながら勉強をしている放課後の図書準備室はピリピリとした緊張感が漂っていた。


「そこ違いますね。」

「化学式がちょっと惜しいかな〜。」


 一問でもミスすれば先生とキリカさんから即座に指摘が飛んでくる。

容赦なくズバズバと間違いを指摘されてまくり多少辛いものがある。

さらにこの後は部活停止期間に入った月乃もそのうち来てテストの点数を競わされる。

 なぜか負けた方は校舎一周と言う謎の罰ゲームがある。

ただの時間の無駄にしかならないので本当に罰ゲームではあるが。

面白みがない。

 いや、負けたら一発芸とか言われないだけマシではあるが。

むしろ一発芸よりかなりありがたいが。

それでも罰ゲームのセンスを問いたくなってしまうのは仕方がないだろう。


ピンポンパンポン

『生徒の呼び出しです。一年一組、山瀬さん、至急職員室まで来てください。繰り返します______。』


 同じ放送がもう一度繰り返され、何事もなかったかの様に静まり返る。


「何やらかしたんです?」

「何もしてませんよ。」


 呼び出しの心当たりがなさすぎて怖い。

なんかやらかしたっけ?

遅刻もしてないし、授業も至って真面目に受けているし、呼び出される様なことはしていない…‥はず。


「とりあえず行って怒られて来なよ。」

「別に怒られると決まった訳ではないですからね。」


 ニヤニヤと意地の悪そうな笑みを浮かべるキリカさんを軽く睨みながら立ち上がる。

 まだ明るい時間にも関わらず薄暗い準備室から図書室まで出ると、眩しさに軽く目が痛む。

あの部屋乾燥もしているんじゃないか?

軽く目をしぱしぱしながら図書室から出ると、どこからか冷たい風が吹いた。

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