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紫アザレアが察するには  作者: こたつ
黄丹の図書室
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57

「別に、大したことじゃないよ。つつじの帰りが遅かったから見に行ったの。そしたらシガン達がつつじを待ってたから、そのまま合流した。」

「ウズさんのことは納得が言った?」


 私はシガンさんの友人を思い出しながらフェレスに問いかける。

 フェレスはウズさんと初めて会った時、ウズさんを先天性の能力持ちではないのかと疑っていた。

私はウズさんから直接話を聞いたからなんとなくウズさんと怪異の関係性を知っているが、フェレスは知っているのだろうか。


「うん、大丈夫。シガンが教えてくれた。」

「え?ウズさんになんかあったの?」


 眠っていて色々と知らない月乃が話題についていけないとばかりに口を挟む。

 あかねとメリーさんは飽きてきたのかミルクティーの取り合いをしているので無視する。

 月乃にウズさんが能力持ちではないが怪異を怪異と自覚して遭遇している事を色々な説明を付け加えて説明する。

 月乃はふんふんとわかっているのかいないのかよくわからない返事をしながら聞いていた。

 フェレスの話が終わったところで、私は気になっていた事を聞いてみた。


「フェレスは能力持ちが生まれるとどこで誰が能力持ちになったかわかるんだよね。なのにウズさんとかシガンさん達のことは認知してなかった。なんで?」


 前々から不思議に思っていたのだ。

私の時は怪異に遭遇したその日にフェレスがやってきて怪異について教えてくれた。

その時に、フェレスは言った。

『僕は能力持ちが生まれたらすぐにわかる。だから、君の所にもこうしてすぐに来られたんだよ。』

 能力持ちが生まれたらそれを感知できるはずのフェレスが、ウズさん……はちょっと特殊にしても、シガンさんや雪花さんを認知できていないというのはどういうことなのか。

何故私だけがフェレスに認知されたのか。

 フェレスは机の上に指を使ってあぐらをかくように身を置いてから話し出した。


「そうだね。まず、僕が認識できるのは『怪異によって』能力持ちになった人間だけ。だからつつじと月乃ちゃんは認知できるの。」


 小指でちょいちょいと私とその向かいに座る月乃を指しながらフェレスは続ける。


「でも、シガンとかその雪花とかは、これに当てはまらないんだよ。あの子達は先天性、『生まれつき』の能力持ち。こういう子達は認知ができないんだよ。」

「なんで?」


 小指をくるくると回すフェレスにカップを両手で持った月乃は阿呆そうな顔をして聞く。

眠いのかなんなのかは知らないがその顔は本当に阿呆そうだ。


「生まれつきの能力持ちを、僕は“怪異”として認識してるんだ。もちろん、僕がウズやシガンを人間としてみてないってわけじゃないよ?ただ、僕の第六感的なものがそう認識してるだけで。そういう子達って日本人の場合は先祖のどこかに妖がいるんだよ。妖の怪異としての性質を色濃く持って生まれた子は怪異認定しちゃうの。」

「じゃあシガンさんとか雪花さんってお母さんとかも能力持ちなの?」

「もしそうだとしたらもっと能力持ちがいるはずだから隔離遺伝的な感じじゃない?」

「かくり……?」


 わかっていなさそうな月乃を無視してフェレスは話を進める。

私はマグカップをお茶菓子を取り合い始めて争っているあかねとメリーさんから遠ざけるように手に持ちながら耳を傾ける。


「そうだね。大抵は隔離遺伝。たまに一族丸々能力持ち、みたいな家系もあるけど最近はめっきりみない。」


 話を聞きながらカップを傾ける。

甘い。

これだけでスイーツとして成り立ちそうだ。

 フェレスは話終わったのかてこてこと机の端に戻る。

 あかねとメリーさんはお茶菓子戦争が終わったようで二人仲良くどら焼きを半分こしている。

 なかなかに平和だ。


「そういえばさっき話聞いてて思ったんだけど、シガンさん達って生まれつきの能力持ちなの?」

「そうだね。シガン達は生まれつき。ちょっと特殊だけど。」

「ヒガンさんが怪異だから?」

「さぁ?つつじ、なんでなの?」


 フェレスはこちらを向きながら聞く。

それに釣られて月乃も私の方を見て返答を待っている。

 そんなに返答を期待されてもそんなに知っていることはないのだけれど。

 そもそも勝手に話すのも気が引ける。 

ただでさえややこしそうなのに。

何も言わずにミルクティーを飲む。

甘い薄茶はもうなくなってしまった。


「……私も詳しくは知らないから本人に聞いた方がいいよ。」

「絶対になんか知ってるよね、その話出す前の間的に。」

「フェレスこそ知ってそうだけど。」


 フェレスならシガンさん達の事を調べるくらいわけないだろう。

なんせやろうと思えば怪異としての性質を使ってどこにでも侵入できるのだから。


「別にそこまでの興味はないよ。」

「わたしは興味ある!」

「じゃあ今度聞いてみればいい。」


 多分ろくな答えは返ってこないけど。

個人的には詮索しない方がいいと思っているのであまり勧めたくはないが、どうせそれ素直に答えるような人達ではないしこれくらいはいいだろう。

 それよりも私はフェレスの家族構成とかの方が気になる。

一体何故怪異を解き放つとかいうことになったのか。

そもそも一体いつから生きているのか。

怪異なのかそうではないのか。

何故自分から怪異を解き放っておいてわざわざ人間を助けるのか。

何故手だけなのか。

 もちろんこれもまた詮索すべきではないと思っているから詮索はしないが。

顔も表情もないフェレスは変わらずに机の端に指を置いている。


「興味と言えば、月乃。俺も気になってることがあるんだ。」


 どら焼きを食べ切ってメリーさんとまた口喧嘩をしていたあかねが徐に月乃を見やる。

暗い茜色が月乃の黒い瞳の明るい猩猩緋(しょうじょうひ)を射抜く。

 あかねが月乃にこんなにも鋭い目を向けているのは初めて見た。

よほど真面目な話をするのかと月乃は背筋を伸ばす。

空気が張り付いたように呼吸一つ一つを意識する。

 普段の呑気な空気感からは想像ができないほどの緊張感が生まれてしまった。


「お前、俺がいなくなった時、なんで真っ先につつじと接触したんだ?」


 私はあかねの言葉から即座に先月の事を思い出す。

もうかなり前な気がするが、実際は一ヶ月前。

月乃があかねともう一度会うために私を放課後に呼び出したのだった。

その時に色々あって月乃がメリーさんに懐かれたのだが、そこはいい。

 言われてみれば、何故月乃は私を呼び出したのだろう。

私が能力持ちである事なんて当時の月乃は知るはずがなかったのに。


「あれ?前に話さなかったっけ?」

「聞いてねぇ。」

「部屋にメモが置いてあったの。」

「「メモ?」」


 私とあかねの声が重なる。

メリーさんは話に興味がなさそうだが、フェレスは月乃の声に耳をかたむけながらも特に反応をしない。

 

「うん。なんかきれいな模様が入ってるメモで、あかねともう一回会いたかったらつつじに聞いて、みたいな事が書いてあったよ。」

「なんで今まで黙ってたんだ?!」

「わたし誰かに話したと思うんだけど……。」


 不可解そうな顔で月乃は記憶を探り始める。

 私はその月乃を横目にメモについて考える。

 問題はメモの差出人だろう。

メモの差出人は間違いなく月乃を能力持ちにしようとしている。

それも能力持ちである私に接触させるというある意味回りくどい方法で。

 月乃があかねに会いたいと思っている事を知っていて、私が能力持ちだと知っている、おそらく怪異。

怪異でないと誰にも知られずに他人の家に入れないだろうし私や月乃の事にも気づかないだろう。

 私が知っている限りそんなことができそうなのはフェレスくらいだが、フェレスは能力持ちが増える事を望んでいないはず。

 ただの親切でメモを置いたならばそこまで深く考えなくてもいいが、おそらくそうではない。

わざわざ月乃をメリーさんと引き合わせたくらいだ。

おそらく私と月乃を殺すつもりだったはず。

 ただの親切ならば最初から月乃をあかねのところまで連れていけばいい。

結果的に平和に終わっただけで本来メリーさんに接触したならば無事では済まない。

 能力を持たない月乃と怪異に直接対抗できない私なら尚更。

姿を現さずに私諸共メリーさんの怪異に巻き込み、能力持ちを一人増やした。

目的はわからないが、あまり私達にとっていい存在とは思えない。

 そもそも自分が怪異であるなら自分が月乃に接触すれば月乃を能力持ちにできたはず。

そうしなかったのは何故だ?

月乃に姿を知られたら困る?

それともまた何か別の理由が?

何か目的があったのか?

そもそも怪異は能力持ちでない人間を認識することは滅多にないはず。

どうして月乃にはメモを置くという回りくどい方法をとった?

何故そんな行動をとれた?

明らかに普通に怪異の行動ではない。

私がこれまで見てきた怪異は、もっと本能的であるかもっと人間味がある。

 ここまで目的も正体もわからない怪異は初めてだ。

薄寒い何かが背筋を通った気がした。

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