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その後、なんとか帰宅し今日は解散ということで解散して迎えた土曜日。
幸か不幸かシガンさんは外せない予定があるとかでこの土日は引っ越す前の家の近くに行っているため今日の報告会にはいない。
只今昼食を終えた午後一時。
目の前の飲み物が置かれた机の向こうには我が家の住人が勢揃いしている。
そして今ここに全員集合しているその訳は________。
「つつじ!昨日何があったんだよ!?」
「月乃様に何かあったのなら許しませんわよ!!」
「結局昨日何があってあんなことになってたの?」
あかね、メリーさん、フェレスに昨日の事について詳しく話すため。
ついでに月乃からも色々話を聞こうという目的もある。
なぜわざわざこんな会合を開く事になったかといえば、昨日の帰宅後、時刻はすでに午後七時を超えてた時間まで遡る。
昨日、玄関の扉を開けると、いつも通りメリーさんが月乃を出迎えに玄関まできていた。
だが、シガンさんに背負われていた月乃を見て絶叫。
その声に気づいたあかねが飛んできた。
そしてこちらも絶叫。
その後シガンさんは月乃を置いて帰り、眠そうな月乃に二人がなんとか夕飯を食べさせて寝かせたわけだが、問題は月乃が眠った後。
私は月乃が昨日寝た時間は自室に篭って宿題を中心に色々とやっていたのだが、そこに月乃を寝かしてきたあかねとメリーさんが突撃。
そして『月乃に何があった!?』と詰め寄られた。
だが、一気に説明するのも面倒だし、私も月乃に何があって生きているのか分からないため詳しく説明ができない。
だから明日____つまり今日、報告会として情報共有をしよう、という事になり今に至る。
ついでに何があったのか詳しく言っていなかったフェレスも参加している。
「えー、昨日私と月乃が放課後にクラスメイトのコックリさんになぜか巻き込まれたんだよ。以上。」
正直この一言に尽きる。
だが、やはり目の前の人外達は納得してくれなかった。
「以上、じゃねぇよ!何があったか詳しく離せっつってるんだよ!」
「だから、巻き込まれて色々あった結果がアレだから。」
「その色々の部分を離せよ!」
ギャーギャーとあかねがうるさいが、あんまり詳しく話すわけにはいかないのだ。
あんまり詳しく話すと私のやらかしがバレて怒られる(で済んだらマシ)可能性が高くなる。
それだけはどうにか避けたい。
怒られるのはごめんだ。
「つつじ、なんかやらかしたの?」
どうしてこの手はこんな時だけ的確に事実を言い当ててくるのだろうか。
心当たりしかない。
顔には出さないように気をつけながらフェレスに返す言葉を瞬時に考える。
即答すると怪しいし、下手になんか言っても後々追及されそうで怖い。
となると、私以外に意識を向けたほうがいいか…‥。
「そういえば昨日、シガンと帰ってる時に月乃ちゃんが死にかけたのは私のせい的なこと言ってたよね。それと話したくない理由は関係あるの?」
こいつ、たった二言で地雷を的確に踏み抜きやがった。
そういえば昨日先に行ったほうが怒られないかと思ってシガンさんに自己申告した時フェレスもいたんだった。
「「つつじ?」」
気づけば般若の顔なんて可愛く見えるほどの顔をしたあかねとメリーさんが私を睨んでいた。
怖い。
「ま、待って!今回は全部、わたしが悪いの。」
すかさず月乃が止めてくれたおかげで私の命は助かった。
止めてくれていなかったら本当にやばそうな顔をしていた。
「ルゥちゃん達に誘われて、なんでもいいから肝試しをしないといけなくなって、それにコックリさんをみんなに勧めちゃったの。たまたまつつじも一緒に巻き込まれちゃっただけで…‥。」
「なんでコックリさんなんて勧めたんだよ!?」
「……コックリさんは科学的に証明されてるって聞いて、それなら怪異とは関係ないかなって……。」
「それ、誰から聞いたの?」
「え?」
「コックリさんは科学的に証明されてるって言ったのは誰?」
月乃がコックリさんについて自分で調べられるわけがない。
つまり、誰かが月乃にコックリさんについて教えた可能性が高い。
おそらくはムースだと思うが、確認はしておきたい。
「えー、っと、誰、だっけ?」
「月乃様!?覚えていないんですか!?」
「うん、思い出せない……。」
やっぱりムースかな。
あの怪異なら記憶を操るくらいやりそうだし。
適当に考えながらムースについて考えてみるが特に何も思いつかない。
唯一わかることといえば愉快犯の可能性が高いことくらいだろうか。
昨日のシガンさんとウズさんの様子的には多分愉快犯だと思う。
「そういえば、月乃ちゃんは昨日つつじと逸れたのか何があったのか知らないけど、昨日つつじがいないところで何があったの?」
私がぼーっとしているうちにフェレスが話を進めてくれる。
それも私が聞きたかった方向に。
眠さでまだ若干脳が溶けているため大変ありがたい。
「えーと、わたし、コックリさんのルールを破っちゃって体を操られた………のかな?」
月乃が疑問系と共に私の顔を見る。
それに釣られて全員が私の顔を見る。
いや、そんなに見なくてもってくらい見てくる。
「多分操られてたんだと思うよ。じゃなきゃ窓から飛び降りようとしないでしょ。」
「「月乃(様)!?」
月乃のことになるといちいちうるさいあかねとメリーさんは机に乗り出している。
それを宥める月乃を見ながら私はそっと自分のカップを手に持って溢されるのを阻止しつつカップに口をつける。
ちなみにコレはチョコみたいな味がする紅茶を使ったミルクティーだ。
月乃があかねとメリーさんを宥め終わった後に月乃の説明を引き継ぐ。
「窓から飛び降りようとしてる月乃を引き止めてる時に、一瞬手と目を離したの。その一瞬の間に月乃はいなくなってて、気づいたら私だけが教室に残ってた。」
「目を離したって、どれくらい?」
「本当に一瞬だよ。十秒も経ってない。」
「その時、月乃はなんでいなくなったんだ?」
全員の視線がカップを持った月乃へと向かう。
もちろん私もカップを置いて月乃を見た。
月乃はバツの悪そうな顔で赤く光を反射する茶色い瞳を逸らしながらモゴモゴしている。
「本当に、本当になんも覚えてない……。」
「逆にどこまで覚えてますの?」
「んん〜?確か、つつじが振り返って、その後……なんか、オレンジ色になって…。」
「オレンジ色ぉ?」
「すごいはっきりしたオレンジ。」
「そのあとは?何か覚えてる?」
「その後気づいたらシガンさんとつつじがいたの。」
つまり、オレンジ色の何かを見たところで記憶が途切れているのか。
もしコレが黄色か緑だったらムースだったのだろうが、オレンジ色。
「オレンジって、どんな感じのオレンジ?赤と黄色、どっちが強かった?」
「どんな感じって言われると難しいな。」
月乃は色を思い出すように目を瞑って記憶を引っ張り出し始めた。
ようやく記憶の棚から欲しかったものを見つけたのか、軽く俯いていた顔を正面に戻してから声を発した。
「ミカンみたいな色してた。」
蜜柑……となると、橙色かな。
特に明確な意味があったわけではない質問だったからこれ以上特にわかることはなさそうだ。
「そういえば、つつじはなんであんな時間まで学校にいたの?」
「ところでフェレスはなんであんなにタイミングよく来てくれたの?」
話すと面倒そうな月乃の質問を半ば無理やり遮って適当に言葉をねじ込む。
赤井崎関連の話題を月乃とすると面倒なのだ。
大抵月乃が不服そうな顔をする。
月乃はミルクティーの入ったカップを持ちながら特に話を遮ったことには何も言わず、フェレスの返答を待っていた。