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投稿時のミスにより、エピソードの順番が正確ではありません。エピソードタイトルの数字の順番で読んでください。
何処か冷静にこの状況を見ている自分がいる。
さっき無言のパニックに陥ったのが嘘のようだ。
……これもまたフェレスが言っていたことだが、過度な恐怖や恐れ、畏怖の念を持ちすぎると、人は思考が振り切れて頭がよく回る状態になるらしい。
所謂火事場の馬鹿力というやつである。
そのおかげでこんなにも冷静でいられるのかと、何処かぼんやりと、何処かはっきりしている頭の片隅で考えた。
さて、どうしようか。
目の前にいる『それ』からは最早恐ろしさしか感じない。
どうする?
逃げる?
フェレスがどうにかしてくれるかな。
それとも、ここで死ぬのか。
ありとあらゆる可能性が頭の中を駆け巡る。
とはいっても、その大半が過ぎ去るのは一瞬で、咄嗟に一つに絞り、熟考出来るだけの余裕はない。
何も言わずに妖狐を観察する私に、妖狐は笑いかける。
「なあ。お前も、俺たちと__」
何を言うのかと身構えたが、妖狐からその続きは発されることなく途切れた。
そして、どこか悲しみや辛さを思わせる雰囲気を漂わせ、目を伏せた。
「やっぱいい。そんな気分じゃねぇ。」
さっきまでの不気味さは霧散し、代わりに今にも消えてしまいそうなほど儚い雰囲気へと様変わりした妖狐が目の前に佇んでいた。
その赤い瞳は、どこか力無く伏し気味である。
「君、女の子を殺してはいない?」
フェレスは妖狐に近づきながら問う。
妖狐は、殺したとも、殺していないとも言ってはいないが、この時点で私は少なくとも妖狐が直接手にかけたという事はない気がしていた。
なんなら生きているかもしれない気もする。
「__っ!」
「……一週間近く前から死亡____とは言わなくても、行方不明なら、とっくにニュースとかになっててもおかしくないけど、そんな話は聞いてないよ。」
私は記憶を辿り、近頃の記憶を探り出す。
本音を言えば、今すぐに家に帰りたい。
こんな不気味な場所で得体の知れない妖狐に絡まれていたくない。
帰って読書パーリーを開催したい。
しかし、フェレスはここに残って妖狐と話したがるだろう。
いくら早くこの空間から立ち去りたいと思っても、もう夕日が綺麗に出ているこの時間に一人で帰りたくない。
ならば、これにさっさと必要なことを吐かせてフェレスを満足させて帰るしかない。
「あいつの親は、あいつが居なくなっても気にしやしない。」
妖狐はポツリと、悲しそうに呟いた。
そういえば、此奴は前に遭遇した時に、何か言っていた。
あの時は必死だったから気にも留めなかったけど、確か、「お前もか……」と呟いていた。
となると……
「もしかして、貴方が言う人は、貴方を見ても逃げなかったんじゃない?」
「……何が言いたいんだ。」
妖狐は表情をこわばらせ、明らかに動揺している。
分かりやすくて助かった。
察するに、多分この妖狐は『怖がられる』、もしくは『逃げられる』ことが嫌だったのだろう。
一人でいたくない、寂しい。
そんなふうに思っていたのではないか。
しかし、そんな妖狐の思いとは裏腹に、妖狐を見ることができるであろう人間は少ないはずだ。
数少ない人間は皆逃げたり怖がったりしたのだろう。
だからこそ、逃げず、怖がらず、自分を独りにしないでくれる『誰か』を探していたのではないか。
そこで見つけたのが件の女子生徒。
恐らくだが彼女は妖狐を怖がることなく接したのだろう。
だから、殺さずに帰したのではないか。
「その女の子は今どこにいるの?」
フェレスも同じ結論に至ったのか、女子生徒が死んでいないと考えているらしい。
「そんなの……言う訳……」
妖狐は歯切れ悪く言う。
木の影に溶けてしまいそうな声だった。
しかし、フェレスの追求は止まりはしなかった。
「君も知ってると思うけど、人間が僕らみたいなのに関われば、生きて行くのは難しい。強い能力か、強い怪異の庇護がないと生きていけない。だから、女の子を一人にしておくのは危ないんだよ。」
フェレスは子供が子供に言い聞かせるような、不器用な声音を作っている。
普段こんな話し方はしないのもあり、その話し方は似合っていなかった。
「僕なら、必要な情報と、生きる術を教えてあげられる。その子が望めば、つつじみたいに守ってあげられる。だから…」
フェレスは一度、言葉を切る。
「だから、その子の居場所を教えて?」
最後の一言に、その言葉を向けられているわけでもないのに悪寒が走る。
人を心配している言葉とは思えないくらい、怖い声。
フェレスは、この世界に怪異をはこびらせた張本人。
何があったのかは知らないが、彼は怪異の被害者たちに情報提供をして回っている。
他にも私をわざわざ付きっきりと言ってもいいレベルで守ってくれたりする。
雑だが。
そしてこのような行動からも分かる通り、フェレスは随分と責任を感じているように見える。
今までもかなりの能力持ちに合い、拒絶されてきたらしいが、それにも関わらず新しい能力持ちを助けようとしていることからも、フェレスが負目を感じているのは確かだろう。
そんなフェレスの圧を受けたからか、敵わないと思ったのか、ポツリと
「あいつが怪異と関わることは二度とない。」
そう言い残し、妖狐は影に霞むように消えていってしまった。
「あーあ、行っちゃった。僕、ちょっと探してくるから……」
言いかけたフェレスを手のひら中心にガシッとつかむ。
今、行かせるわけにはいかない。
「その前に一緒に家帰って…」
もう周りは真っ暗だった。




